EP2-CP18 人体と魂
Ep2 霊力者達
「次はどうする?」
「俺がやる」
「まただらだらしないで、早く帰ってこいよ」
「……」
「一応言っておくけど、このあたりにいる精霊力者は強いらしいぜ」
「心配無用だ。殺す気はあっても、戦う気はない」
「じゃっ、俺は待ってるから、早く来いよ」
「……ああ」
‡―†―†―‡
雪は相変わらず制服で、類の家らしき場所にある、ブルーのソファに腰掛けていた。どうやら、ファッション雑誌でも読んでいるらしい。
「ほら」
そのとき、類がいつもの気が抜けた声で、小汚い巾着袋をテーブルの上に投げつけてきた。
「……何?」
閲覧中を妨害されたことにイラだっているのか、不機嫌そうな目つきで類を見る。
「給料」
「……」
しばらく黙り込んだ後、無言でそれに手を伸ばし、中身を見る。
「……」
その中に入っていたのは、たったの100円。給料と言われ、期待していたということもあり、雪は何も言わず項垂れた。
前回の『氷』事件以来、水色になってしまった部分を含む前髪をかき上げ、頭を上げたと思ったら、眉をつり上げ、怒る準備万端という感じになっていた。
本当に喜怒哀楽の激しい少女である。
「……これ何?」
だが、その気持ちをやや抑え、表情を一段階下げ、不機嫌な表情で問う。
「給料」
最初の言葉とまったく同じ調子で答える。また、ずっと表情一つ変えないというところが腹立たしい。
「たったこれだけ……?」
雪の表情が徐々に元の怒る準備万端という顔に戻っていく。
だが、それはすぐに収まった。なぜなら、このお金を理由を考えてみると、心当たりがなかったのである。つまり、怒る理由はないということに気が付いたのだ。
「給料って……私何かした?」
「仕事」
「仕事?」
ここに来てやっと、類が表情を変化させた。だがそれは、不快な笑みだったが。
「お前がここに存在することによって、誰かが侵入したとき、お前の殺人的超音波によって、誰かが来たってことがわかるだろ?」
もちろん、殺人的超音波とは、街中に響き渡る雪の叫びのことである。
「あんたって冗談好き?」
類がコクっと頷く。
「だが、今のは冗談じゃないけどな」
いつものビンタを食らわせようと思ったが、その怒りをなんとか抑えた。
「3分の1って言ってたわよねー?」
「ああ。今月は300円だから、それに3分の1掛けて……100円だろ?」
「それも冗談?」
「俺は金関しちゃ、冗談は言わん主義だ。だいたい、300円でも多いほうなんだっ。0円なんてときもあるしな」
「どういう仕事がそんなに稼げないんですか……」
「いろいろ複雑なんだよ。この仕事は……」
しばらくの沈黙の後、雪が話しを切り替えた。
「……仕事といえばね類」
手に持っていた雑誌をソファーに置き、さっきと違って真剣な目で類を直視する。
「私、類と仕事がしたいの」
「はぁ……」
突然のことでさすがの類もあ然とする。
「こんな冗談じゃなくて、類みたいに自殺をしようとしている人とか、自殺して困ってる霊を助けたいのよ」
「……」
「私、祐くんが自殺しようとしているのを見て思った。本当に苦しいんだって。私も同じだったからわかるの、自殺したいっていう気持ちが。でもやっぱり、命を無駄にするなんて考え方が間違ってるって気づいたの。だから、そういう人たちを救いたいのよ!」
正直類は戸惑っていた。雪をこのまま一生、正義の暗殺者から守るからといって、この状態にしてはいけないと前々から思っていたのだが、その解決法が雪に霊力を身につけさせるという考えだった。だが、霊力というのは、思っているほど苦しいものなのだ。雪が望むのなら構わないが、リスクを伴う。
「……本気か?」
類も真剣な表情で雪を見る。それに雪も頷く。
「俺の仕事は、お前が思ってる以上に危険だ。命を落とすかもしれない。……それでもか?」
「ええ」
雪の同意を確認して、一度目を瞑って「わかった」と類も同意した。
「じゃあお前には、これから時間を掛けて、霊力を身につけてもらう。ただし!辛くても途中でやめたりするな。そして、やるからには、仕事はちゃんとやれ。いいな?」
「うん」
雪の返事を聞いた瞬間、硬くなっていた表情を瞬時に緩め、元のやる気のない顔に戻った。
「はぁ〜。じゃっまず霊力について説明するからよく聞けよ。まず霊力とは何かというとだな、というよりまず、人体と魂について説明してやる」
「ねぇ、魂って存在するの?」
「お前それ、宇宙人は存在して、UFOは存在しないって言ってるようなもんだぞ」
「……意味わかんない」
こいつ馬鹿だ。
「まぁいい。人間はひとつの魂じゃなく、複数の魂の集合体で出来てる。その魂の一つを離脱して…」
そう言って、右手から銀白のオーラが吹き出して、球状にした。
「身体の外へ出す。そうすると、魂は一瞬で青から銀色に変わる。これを『霊化』という」
まるで、先生が生徒向かって教える口調で説明した。
「じゃあ、澪さんが類を生き返らせるときに出てくる変なのとか、レイノっていう幽霊はどうして白?」
「あれは『死魂』って言って、いわば、死んだ魂だ」
「あ……そうなの……」
今の発言は、あの時類は本当に死んでいたという証言になった。
「で、この霊化した魂、又はその攻撃を霊力というわけだっ」
「霊化ってする意味あるの?」
類は呆れた。
今の質問は一般的に妥当と考えていい。だが、類にとっては当然という質問だった。
「はぁ〜。じゃあさ、お前、霊についてどういうイメージがある?」
雪は手を後ろに組んで、考えながら答えた。
「人を脅かしたり……殺したりする……かな?」
「どうやって?」
「それは……金縛りとか、操ったりとかじゃないの?」
「まぁそうだ。そのほかにも、色んなことができる」
「例えば?」
「己を実体化する。憑依する。物を燃やす。とかほぼ無限にある。その霊の能力が霊力で、それは霊化しないとできない」
「え!じゃあ、類の変態能力も、実果とか優奈が使ってたのも?」
「そっ」
ここまでの類の話を聞いて、やっと霊力について完璧にわかった、と思ったのだが、まだ続きがあるらしく、また話を続けた。
「霊力はなんでもできる……が、一人1つから2つまでが限度で、基本的に同じ霊力を持つ者は存在しない。似たようなものがあっても、それは微妙に違う」
「じゃあ類は?」
「俺は天才だからな。例外」
あまりの自意識過剰な発言に雪は呆れ、再びソファーに腰を掛けた。
「テレビでやってる、超能力者っていうのも、それ?」
「いや。霊力と超能力は違う。超能力は、脳の異常覚醒によってできることで、皆が使えるというわけじゃない。だが、霊力は条件を満たせば、誰でもできる」
「えっ、私にも?」
「当然だ。じゃなきゃ、お前に霊力を教えようというめんどいことはしない」
さっきの怒りが徐々に甦り始めたが、それを出来るだけ抑えた。
「それで、その条件って?」
「第6感・発想力・忍耐・知識・念。幸い、お前には、弱いが第6感がある。俺が霊体実体をしなくても、レイノが姿を現せば、魂が見えるんだろ?」
意味は今一わからないが、とりあえずレイノが見えるのか、という確認をしていることはわかり、コクっと頷いた。
「それで、一つの条件はクリアだ。次は発想力だが……」
「何よっ」
類があまりにも、不快な目つきでこっちを直視してくるので、思わず顔が不機嫌な表情を浮かべる。
「……おまえ、発想力……ないなっ」
「なっ、あ、あるわよ!」
「いやいやいや、ないっ。ないって顔してるし」
「どういう顔よ!」
「トイレに行って、鏡見て来い。そういう顔してるから」
今にも怒りが爆発しそうである。次、なにか言われたら、ドメスティックバイオレンスでも起こしそうな勢いである。
「そんなに言うなら、テストをして、合格したら認めてやる」
「テスト?」
ここまで雪と話をして、一歩も動いていなかった類が、地下に繋がる階段側の隅にある本棚の方へ初めて足を運んだ。
その200cmもある棚の上に置いてあった、紙切れを179cmの長身で、楽々とそれを取った。
その紙には何か、陣らしきものが書いてあった。
「なにそれ?」
「まぁ見てな」
そう言ってテーブルの上に紙切れを置いた。
最後まで読んでいただきありがとうございます^−^
今回は少し時間があったので書きました。
1月は更新速度が遅いかもしれませんが、これからもよろしくお願いします。




