EP1-CP17 霊力と自殺(3)
※すいません。優奈の弟の名前が途中から『リク』になっていましたが、正しくは『祐』でした。お詫びいたします。訂正してありますが、されていないところがあればご指摘ください。
「ったく、何処いったんだー」
走り疲れた様子で立ち止まる。
「あ……」
しまったっというような顔で自分の手を見つめる。
実は、類は祐に思考共有を掛けっぱなしだったので、レイノが類の身体にいないのである。つまり、類の霊力の半分以上が使えないということなので、探索能力に欠けてしまう。よって、祐を探すのにそうとう時間がかかることになり、その間に自殺してしまうのではないかという、しまったっという意味の込めた「あ……」だった。
「めんどっ」
そうぼそっと呟いて、人影のない路地へと向かう。
ピィーピィー
単調なリズムの指笛が街に轟く。
すると、類の周りに多数の白い魂が姿を現した。
「霊体実体」
すると、白い魂はやがて人型へと変わった。そして最終的に、どっからどう見ても人間という形になった。
「え〜とっ、そこの女」
「えっ……」
類は霊人間のなかでも、奥にいた一番かわいい女性を選択した。
「なんでうちがあんたなんかに……」
霊人間を掻き分けて、類の目の前に来る。
「あ、けっこうきつめだったのか……」
人選ミスか、と小さく付け加えた。
「それどういう……」
「すまないが、お前と雪や実果のような会話をする時間はない」
「はっ?それ誰?」
霊のため色が判断できないが、とりあえず透き通った髪をいじりながら聞く。だが当然、類の耳には入っていない。
「名は」
その女性は、少し考えて、
「霊に、名前なんてないわよ」
となぜか拗ねた様子で言う。
「じゃあ、アンジェラな」
「はー!?うちはそんな名前じゃない!」
実は内心、かわいい名前…、と思っているのだが、つい照れ隠しで怒鳴ってしまう。
「とりあえず、自殺しようとしている『祐』って奴を探してほしい」
「えーー……まぁいいけど」
「じゃ、よろしくなっ」
そう言い残して路地を出た。
「ったく。私の名は火恩よ」
‡―†―†―‡
冬ということもあって、午後5時であたりは暗くなり始めていた。
「はぁ…はぁ、あーめんどっ」
類もあれからずっと祐を探しているようすで、息を切らし、顔に疲れが出ていた。
「おい!あんた」
突然類の背後に姿を現した、さっきの霊の女性、火恩が透けた手で類の肩を叩いた。
「見つけたか?」
「ええ」
「案外役に立ったな」
わざとらしく、ギリギリ火恩に聞こえる程度に呟いた。
「んだと〜」
この程度の嫌みで怒っていては、俺によるストレスで死んでしまうだろう。こいつは俺とは合わないなどと、思っていた。まぁ、もしかしたら、死因はそうかもしれないが。
しかし、今はこんなことより、祐の自殺を阻止することを優先させるため、類は、
「冗談だって、ハハハハ」
などとごまかした。
「ったく、次そんな冗談言ったら、一生あんたに協力しないよ」
どうせ一生なんてないくせに、と小さく、今度は聞こえないように呟いた。
幸い、聞こえなかったから良かったものの、相手が超耳が良いなんて霊だったら、リクを救えなかったところである。
「まぁいいわ。こっち、ついてきて」
その透けた女性、火恩は、類を透き通ってそのまま駆けて行った。類もその後を追う。
走って5分もしないうちに、車が多々通る大通りへ着くと、火恩が、あっち、と視野に入っているビルの中でも、一番高いビルの屋上に指差す。
だが、このビルが高すぎて、人がいることすら確認しづらいが、類の視力、1,7でぎりぎり顔認識ができた。
恐らく、視力が類並みでないと、ビルの屋上に誰かが自殺を図ろうなんて誰も気づかない。となりのビルの屋上から見て、やっと完全に確認できるぐらいである。
結果、この人が多い時間帯の通勤区であっても、自殺するところを見つかる、という確立は非常に低い。
しかも運悪く、類が着いたときにはすでに、自殺する寸前だった。レイノがいない類には何もできない。
「っち、遅かったか…」
だが、よく考えると、祐に絶対防御という霊力がある。つまり、どんなに高いビルから落ちても無傷で済んでしまう。
しかし、類の考えは違う。さっきも言ったように、レイノは思考接続のせいで、まだ祐の身体にいる。しかもその効果はない。なぜなら、祐の絶対防御によって、互いにそれを打ち消しあっているのである。すなわち、祐の絶対防御も発動しない。
今、高層ビルから落ちれば、落下死、又は轢死である。どちらせよ死ぬ。
レイノを呼んで、霊力を復活させるということもできるが、車の騒音などで、レイノには聞こえない。
まさに、絶体絶命という感じだ。
それは祐もわかっている。だからこそ、こうして自殺しようとしているのである。
祐がこの場所に向かうとき、赤信号で道を渡ろうとして、あと数センチというところで、車が急ブレーキをかけたのだ。
「あぶないだろが!」
その車の主の注意を無視し、自分の霊力が発動しない、という嬉しい気持ちで溢れていた。
とうとう死ねる。
そういう気持ちを抱き、ビルの屋上から数100メートル先の地面に眠り込むように、仰向けにゆっくりと落ち始めた。
「さよなら……ねぇさん」
すると、突然、冷え切ったような冷たい感触が右手を掴む。
ゆっくりと目を開けると、見慣れた顔が目から涙を流して、その目で僕の瞳をずっと見つめている。
なぜか、僕の目も熱くなって、涙がこぼれる。
左手を今度は違う手が掴んで引っ張る。
再びビルの屋上に引っ張られた祐を優奈が思いっきり抱きしめた。
「お願い……死なないで…」
冷え切った二人の身体は徐々に暖かくなっていく。
その二人に、さっき引っ張っていた雪が近づいて、祐の顔を見た。
「私も同じだった。動機は違うけど。私も人生が嫌になって、自殺しようとした。…でも、あの類が私を助けちゃったの、死にたかったのにね。でも、類と出会って以来、あれから、楽しくって」
最初は雪の話をただ聞いていたが、次第に話に呑まれていった。
「生きていれば良いことがある。なんて、保障はできないけど、生きていれば、楽しいことは絶対あるとは、保障する。絶対。私だって、類と出会ってから楽しくなった。類と出会っただけで。なにかをきっかけに絶対楽しいことはあるよ。だから生きようよ!」
「そうだ」
恐らく、このビルの外階段から上ってきた類が賛同する。
「1秒1分先、もしかしたら楽しいことがあるかもしれないだろ?それが人生だ。なにが起こるかわからない。楽しいときもあれば、楽しくないときもある。その能力とうまく付き合えば、楽しいかもしれない。その方法も俺が教えてやる」
今まで抑えていた感情が涙として一気に流れた。
それを見て、雪と実果も貰い泣きする。
優奈に肩を涙で濡らす祐の元へ行き、しゃがみ込んで頭を撫でた。
「生きろ。皆のために、ねぇさんのために。そして、自分のために、な!」
そう言っている間に、祐の身体から、レイノを自分の身体に戻した。
祐の能力を復活させたのにも関わらず、類が吹き飛ばされてないところをみると、『嫌いな人』から抜け出したようだ。
祐は優奈の腕の中で泣き続けた。
‡―†―†―‡
あたりはすっかり夜になり、一同は類の家に集まっていた。
「ありがとうございました」
優奈が祐をおんぶして、類に深々と頭を下げる。
「当然のことをしたまでだ。俺の仕事だしな」
そのあと、雪にも頭を下げる。
「いいよ。私も当然のことをしたというか…」
雪が照れ笑いを浮かべる。
「弟さんのことも解決したことだし。もう俺の家には来るなよ」
できるだけさりげなく言ったつもりだが、まったくそうではなかった。
「え…!」
実果と優奈が同時に声を上げる。
あの感動の場でも、呆然としていた瑞希は、この場でも、何の話?などと考え込む。
「お前らには、霊力がある。その霊力で自分の身は守れるはずだ。弟さんには、強く念じれば、思い通りに操れると言っておけ。後、楽しいという気持ちを忘れるなとも」
類はドアを開けて、実果と優奈の方を向いた。
「くれぐれむも、警察との接触は極力避けろ。他の仲間たちにも言っておけ。あと、お前らが使ってるのは、能力じゃなくて、霊力ともな」
「類!どうして二人を……」
雪の言葉を察して、類が説明した。
「ここに来たことで、お前らに影響がきても困るからな」
「……」
「それにお前らにかまってる暇もない。こいつだけで十分だっ。ほら、さっさと行け」
「先輩泣いてんの?」
瑞希が実果の顔を覗きこむ。
「な、泣ぁいでぇ…なぁんか…ないわぁよぉぉ」
誰がどう見ても泣いている。
それに続き、雪までも泣き出す。
「泣くなよ。別に一生合えないわけじゃない。ここに来るなと言ってるだけだ」
「だがぁら…泣ぁいでぇなぁい」
必死に涙を堪えているが、泣いているものは泣いているようにしか見えない。
4人は重い足を引きずって、外へ向かう。
「じゃあね」
雪が涙を堪えて手を降ると、あっちもドアの向こうで手を振り返した。
パタンッ
類が軽くドアを閉めた。
「あの!」
優奈がもう一度、ドアを開くと、そこはただの空き家になっていた。
「……ありがとう」
最後まで読んでいただきありがとうございます^−^
これで《EP1 霊力》は完結です。
EP2は戦いに入っていきます。
1月いっぱいは、受験のため更新はできないと思います。ご了承ください。
次章もよろしくおねがいします。




