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  作者: 空想
17/26

EP1-CP17 霊力と自殺(3)


※すいません。優奈の弟の名前が途中から『リク』になっていましたが、正しくは『祐』でした。お詫びいたします。訂正してありますが、されていないところがあればご指摘ください。


「ったく、何処いったんだー」


 走り疲れた様子で立ち止まる。


「あ……」


 しまったっというような顔で自分の手を見つめる。

 実は、類は祐に思考共有ジョイントを掛けっぱなしだったので、レイノが類の身体にいないのである。つまり、類の霊力の半分以上が使えないということなので、探索能力に欠けてしまう。よって、祐を探すのにそうとう時間がかかることになり、その間に自殺してしまうのではないかという、しまったっという意味の込めた「あ……」だった。


「めんどっ」


 そうぼそっと呟いて、人影のない路地へと向かう。



 ピィーピィー



 単調なリズムの指笛が街に轟く。

 すると、類の周りに多数の白い魂が姿を現した。


霊体実体サブスタンス


 すると、白い魂はやがて人型へと変わった。そして最終的に、どっからどう見ても人間という形になった。


「え〜とっ、そこの女」


「えっ……」


 類は霊人間のなかでも、奥にいた一番かわいい女性を選択した。


「なんでうちがあんたなんかに……」


 霊人間を掻き分けて、類の目の前に来る。


「あ、けっこうきつめだったのか……」


 人選ミスか、と小さく付け加えた。


「それどういう……」


「すまないが、お前と雪や実果のような会話をする時間はない」


「はっ?それ誰?」


 霊のため色が判断できないが、とりあえず透き通った髪をいじりながら聞く。だが当然、類の耳には入っていない。


「名は」


 その女性は、少し考えて、


「霊に、名前なんてないわよ」


 となぜかねた様子で言う。


「じゃあ、アンジェラな」


「はー!?うちはそんな名前じゃない!」


 実は内心、かわいい名前…、と思っているのだが、つい照れ隠しで怒鳴ってしまう。


「とりあえず、自殺しようとしている『祐』って奴を探してほしい」


「えーー……まぁいいけど」


「じゃ、よろしくなっ」


 そう言い残して路地を出た。


「ったく。私の名は火恩かおんよ」



  ‡―†―†―‡


 

 冬ということもあって、午後5時であたりは暗くなり始めていた。


「はぁ…はぁ、あーめんどっ」


 類もあれからずっと祐を探しているようすで、息を切らし、顔に疲れが出ていた。


「おい!あんた」


 突然類の背後に姿を現した、さっきの霊の女性、火恩が透けた手で類の肩を叩いた。


「見つけたか?」


「ええ」


「案外役に立ったな」


 わざとらしく、ギリギリ火恩に聞こえる程度に呟いた。


「んだと〜」


 この程度の嫌みで怒っていては、俺によるストレスで死んでしまうだろう。こいつは俺とは合わないなどと、思っていた。まぁ、もしかしたら、死因はそうかもしれないが。

 しかし、今はこんなことより、祐の自殺を阻止することを優先させるため、類は、


「冗談だって、ハハハハ」


 などとごまかした。


「ったく、次そんな冗談言ったら、一生あんたに協力しないよ」


 どうせ一生なんてないくせに、と小さく、今度は聞こえないように呟いた。

 幸い、聞こえなかったから良かったものの、相手が超耳が良いなんて霊だったら、リクを救えなかったところである。


「まぁいいわ。こっち、ついてきて」


 その透けた女性、火恩は、類を透き通ってそのまま駆けて行った。類もその後を追う。



 

 走って5分もしないうちに、車が多々通る大通りへ着くと、火恩が、あっち、と視野に入っているビルの中でも、一番高いビルの屋上に指差す。

 だが、このビルが高すぎて、人がいることすら確認しづらいが、類の視力、1,7でぎりぎり顔認識ができた。

 恐らく、視力が類並みでないと、ビルの屋上に誰かが自殺を図ろうなんて誰も気づかない。となりのビルの屋上から見て、やっと完全に確認できるぐらいである。

 結果、この人が多い時間帯の通勤区であっても、自殺するところを見つかる、という確立は非常に低い。

 しかも運悪く、類が着いたときにはすでに、自殺する寸前だった。レイノがいない類には何もできない。


「っち、遅かったか…」


 だが、よく考えると、祐に絶対防御ディフェンスという霊力がある。つまり、どんなに高いビルから落ちても無傷で済んでしまう。

 しかし、類の考えは違う。さっきも言ったように、レイノは思考接続ジョイントのせいで、まだ祐の身体にいる。しかもその効果はない。なぜなら、祐の絶対防御ディフェンスによって、互いにそれを打ち消しあっているのである。すなわち、祐の絶対防御ディフェンスも発動しない。

 今、高層ビルから落ちれば、落下死、又は轢死れきしである。どちらせよ死ぬ。

 レイノを呼んで、霊力を復活させるということもできるが、車の騒音などで、レイノには聞こえない。

 まさに、絶体絶命という感じだ。

 それは祐もわかっている。だからこそ、こうして自殺しようとしているのである。




 祐がこの場所に向かうとき、赤信号で道を渡ろうとして、あと数センチというところで、車が急ブレーキをかけたのだ。


「あぶないだろが!」


 その車の主の注意を無視し、自分の霊力が発動しない、という嬉しい気持ちで溢れていた。




 とうとう死ねる。

 そういう気持ちを抱き、ビルの屋上から数100メートル先の地面に眠り込むように、仰向けにゆっくりと落ち始めた。


「さよなら……ねぇさん」


 すると、突然、冷え切ったような冷たい感触が右手を掴む。

 ゆっくりと目を開けると、見慣れた顔が目から涙を流して、その目で僕の瞳をずっと見つめている。

 なぜか、僕の目も熱くなって、涙がこぼれる。

 左手を今度は違う手が掴んで引っ張る。

 再びビルの屋上に引っ張られた祐を優奈が思いっきり抱きしめた。


「お願い……死なないで…」


 冷え切った二人の身体は徐々に暖かくなっていく。

 その二人に、さっき引っ張っていた雪が近づいて、祐の顔を見た。


「私も同じだった。動機は違うけど。私も人生が嫌になって、自殺しようとした。…でも、あの類が私を助けちゃったの、死にたかったのにね。でも、類と出会って以来、あれから、楽しくって」


 最初は雪の話をただ聞いていたが、次第に話に呑まれていった。


「生きていれば良いことがある。なんて、保障はできないけど、生きていれば、楽しいことは絶対あるとは、保障する。絶対。私だって、類と出会ってから楽しくなった。類と出会っただけで。なにかをきっかけに絶対楽しいことはあるよ。だから生きようよ!」


「そうだ」


 恐らく、このビルの外階段から上ってきた類が賛同する。


「1秒1分先、もしかしたら楽しいことがあるかもしれないだろ?それが人生だ。なにが起こるかわからない。楽しいときもあれば、楽しくないときもある。その能力とうまく付き合えば、楽しいかもしれない。その方法も俺が教えてやる」


 今まで抑えていた感情が涙として一気に流れた。

 それを見て、雪と実果も貰い泣きする。

 優奈に肩を涙で濡らす祐の元へ行き、しゃがみ込んで頭を撫でた。


「生きろ。皆のために、ねぇさんのために。そして、自分のために、な!」


 そう言っている間に、祐の身体から、レイノを自分の身体に戻した。

 祐の能力を復活させたのにも関わらず、類が吹き飛ばされてないところをみると、『嫌いな人』から抜け出したようだ。

 祐は優奈の腕の中で泣き続けた。



 ‡―†―†―‡



 あたりはすっかり夜になり、一同は類の家に集まっていた。


「ありがとうございました」


 優奈が祐をおんぶして、類に深々と頭を下げる。


「当然のことをしたまでだ。俺の仕事だしな」


 そのあと、雪にも頭を下げる。


「いいよ。私も当然のことをしたというか…」


 雪が照れ笑いを浮かべる。


「弟さんのことも解決したことだし。もう俺の家には来るなよ」


 できるだけさりげなく言ったつもりだが、まったくそうではなかった。


「え…!」


 実果と優奈が同時に声を上げる。

 あの感動の場でも、呆然としていた瑞希は、この場でも、何の話?などと考え込む。


「お前らには、霊力がある。その霊力で自分の身は守れるはずだ。弟さんには、強く念じれば、思い通りに操れると言っておけ。後、楽しいという気持ちを忘れるなとも」


 類はドアを開けて、実果と優奈の方を向いた。


「くれぐれむも、警察との接触は極力避けろ。他の仲間たちにも言っておけ。あと、お前らが使ってるのは、能力じゃなくて、霊力ともな」


「類!どうして二人を……」


 雪の言葉を察して、類が説明した。


「ここに来たことで、お前らに影響がきても困るからな」


「……」


「それにお前らにかまってる暇もない。こいつだけで十分だっ。ほら、さっさと行け」


「先輩泣いてんの?」


 瑞希が実果の顔を覗きこむ。


「な、泣ぁいでぇ…なぁんか…ないわぁよぉぉ」


 誰がどう見ても泣いている。

 それに続き、雪までも泣き出す。


「泣くなよ。別に一生合えないわけじゃない。ここに来るなと言ってるだけだ」


「だがぁら…泣ぁいでぇなぁい」


 必死に涙を堪えているが、泣いているものは泣いているようにしか見えない。

 4人は重い足を引きずって、外へ向かう。


「じゃあね」


 雪が涙を堪えて手を降ると、あっちもドアの向こうで手を振り返した。

 


 パタンッ



 類が軽くドアを閉めた。


「あの!」


 優奈がもう一度、ドアを開くと、そこはただの空き家になっていた。


「……ありがとう」


最後まで読んでいただきありがとうございます^−^

これで《EP1 霊力》は完結です。

EP2は戦いに入っていきます。

 1月いっぱいは、受験のため更新はできないと思います。ご了承ください。

 次章もよろしくおねがいします。


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