EP1-CP16 霊力と自殺(2)
「おまえ、本物だな」
「?……実果…先輩、本物って何?」
隣に立っている実果に聞く。
「私は一様、この世に一人しかいない本物の瑞希だけど……」
実果は呆れた顔でため息をついた後、類に向かって首を横に振る。
まじですか、という顔をしてしばらく俯いた。そして、息を吐いて正気に戻り、やや真剣な顔で、ソファーに横になるリクを見つめる優奈に問う。
「で、弟さんはどうして自殺を?聞くところによると、何回も自殺未遂をしてるらしいが……」
「……」
少し俯いて、手をひざの上に乗せる。
「祐は、学校でいじめにあっています。だけど、それだけが原因ではありません。…リクの能力を見たと思います。あれが一番の原因で、あれのせいでいじめられていると言ってもいいです」
「見たは見たが、あれだけなら、俺でもそいつの霊力はわからない。具体的に、どういう霊力だ?」
類が腕組んで補足するように言った。
「……一部の物体をひきつけない能力です」
「一部……」
「ナイフ、針、嫌いな人。自分に害を与えるものです。だから、祐は病気をしたことがありません。怪我も幼いときにしただけで、それ以降は一回も…」
それを聞いて類が納得した表情をした。
「なるほど…絶対防御か」
「ディフェンス?」
テレビの前に座る類の隣に立つ雪が聞き返す。
「ディフェンスと言っても、ただの防御じゃない。絶対防御と書いて、絶対防御と呼ぶ」
「絶対防御……」
実果と雪が同時に呟いた。
「絶対防御は、第6感を含む、知覚で危険だと判断したものに対し、防御反応を示す霊力だ」
「つまり……」
「つまり、ナイフを投げるとすると、絶対防御はそれを見るだけで、視覚がナイフを捉え、脳が危険だと判断すれば、見えないバリアを張ってくれる。自動でな。しかもそれは視覚だけじゃなく、嗅覚や聴覚といった、そのほかの感覚から危険を察知すれば、物理的外傷はもちろん、細菌やウイルスにも効果を発揮する」
「もしそれが人でもですか?」
瑞希がいつものように、無表情で聞く。
「……ああ。本能的、思考的に嫌いだと判断すれば、嫌われた相手は絶対防御に近づくことはできない」
類がやや俯きながら返答する。
すると、優奈が顔を俯けて立ち上がり、出口へ向かう。その姿を見て、涙を堪えていることは子供でもわかる。たとえ瑞希でも……
やがて外へ出て行ってしまった。
「私なんか変な質問しました……?」
その瑞希の問に誰も答えなかった。
重い沈黙が続く。
そのおかげでやっと、自分が悪いことを言ったと理解した。だが、瑞希が悪い質問したというのは、類を除く、誰も知らなかったことである。優奈が出て行って雪と実果も理解したのだろう。どういう理由があるのかは知らないが……
「また、助けられたんだね……」
以外にもこの沈黙を破ったのは、優奈の弟、祐だった。
祐がゆっくりと起き上がる。そして、足を地面に運び、ソファーから立ち上がった。
「……どうして僕を助けたの?僕は死にたかったのに」
類は祐の言葉を聞いた途端、重くリクを睨んだ。
雪は気づいた。自分と同じ、だと。
「何言ってんのよ。あんたが死んだら……」
実果が説得するが、祐はまったく動じないどころか、無視して出口へと向かう。
「どこに行く?」
不快な笑みを浮かべて、嫌みたらしく言う。
「……あんたには関係ないよ」
「関係なくはないだろー」
不快な笑みを保って、椅子から立ち上がる。
「もうこの日本は、自殺を許せるほどあまくねぇんだ。お前のやっていることは、全国民……」
「うるさい!」
声に似合わず、大声で叫ぶ。
「あんたにはわかるか。触りたくても触れない気持ちが。何もできない気持ちが!」
やや俯いて、床に叫ぶ。
「この能力のせいで、僕は少しでも不安を感じたものや人に触れることができないんだ。2度と。そのせいで、友達もできない。それならまだいいよ…。だけど、この能力を利用して不満とか、怒りを僕にぶつけるやついる。僕はストレスを解消する道具じゃない!」
雪以外の者が共感できる話だった。
皆が霊力のせいで、祐のような同じ体験をしているのだ。類さえも。
「ねぇさんだってそうだよ。昔は明るかったのに、能力のせいでおとなしくなって」
「それはお前が、人をすぐ判断するからだろう?」
話が少し遅れている。
「そんなに霊力と付き合う人生が嫌なら……」
今の発言で、祐にとっては完全に類は、『嫌いな人』になってしまった。にも関わらず、祐との距離を徐々に縮める。
類が祐に手を翳す。
「来るな!」
類と祐の距離だと、確実に祐の絶対防御が発動しているはずだが、なぜか類は、さらに距離を縮めていく。
そして、類と祐の距離はもうゼロに等しくなった。
類が大きな手で祐の頭を掴んで、リクの瞳を覗く。
「なら、俺が殺そうか?」
表情が危ない。つまり、本気で殺そうと思えば、殺せるような表情なのである。それは、雪たちも感じたことで、類から強烈な殺気を感じる。へたをすれば見えそうなぐらいである。
祐が類の青黒い瞳を覗く。というより、引き込まれていく。
気がつくと真っ暗な空間にいた。
どこまでもどこまでも漆黒に包まれた世界が広がる。
その中に自分の姿だけがはっきりと見える。
暑い……
身体はそれほど感じてはいないが、なぜか脳がそう判断する。
ふと周りを見ると、青黒い炎に囲まれていた。
肌は暑いと感じないのに、気持ちが暑いと言っている。次第に『暑い』ではなく、『熱い』になっていた。
炎の勢いが増す。
それは形を変え、人型の炎→炎の人間、つまり『炎人』になっていく。
炎人は祐にゾンビのように近づいてくる。
その青黒く、人の顔の皮膚を剥いだような恐ろしい姿から逃げたい。が、それが地面、というより下から祐の足首を掴んで動けない。
身体が震え、全身から恐怖の悲鳴を上げる。だが、動けない。
次第に炎人たちに体を完全に固定され、指一本動かすことすら許されなくなってしまった。
すると、目の前に巨大な火の塊が姿を現す。
それは雫の形をしていて、中心からやや下から、横に裂かれていく。つまり、口である。それが大きく開く。入ったら二度と出られないような、果てのない口だ。
その口の中から、無数の手が出てくる。生々しい、青い人の手である。それが、おいで、おいで、と誘っている。気味が悪いどころではない。もはや恐怖源だ。
近づきたくない。行きたくない。
だが、なぜか自分からそれに近づいて行っている。
いやだ。行きたくない!
気がつくと、炎人が自分の体から離れている。だが、身体は動かない。
手首足首を掴まれる。
助けて!
叫びたいがなぜか声が出ない。なぜなら、口内から出る手が首を絞めているからである。だが、不思議と苦しくない。それどころか、掴まれている、絞められている感覚すらない。
しかし、恐怖は増す一方だ。
突然、その手が死の入り口へと強く引っ張る。
いやだ。こんなのは……嫌いだ!
類が部屋の壁に思いっきり吹き飛ばされる。
「類!」
思わず雪が叫ぶ。
「僕にこんなものを見せるなーーーー!」
叫びながら、ドアへ駆け出す。
ドアを乱暴に開けると、例の壁ではなく、人にぶつかった。
優奈はぶつかってきた弟を思いっきり抱きつけた。
涙を流して……
何も言わずただ、抱きついた。
だが、その優奈の気持ちを無視し、腕を払い除け、路地を抜ける。
優奈はそのまま俯いて、一度流した涙をまた、堪えた。
一方、祐の絶対防御によって飛ばされた類は平然とその状態を保って、何かを考えている。
「ちょっとあんた大丈夫!?」
3人を代表して、実果が気遣う。
「ああ。…だが、あんな強力とは思わなかったなぁ」
類がなぜ祐に触れられたかというと、簡単な話。類の10の霊力の一つ、思考共有によって、一時的に祐の霊力を抑え付けたからである。
そして、その霊力で幻覚を見せた。
だが、それをさらに上回る霊力で、それを解き放ったというわけである。
「お前らはここで待ってろ」
そう命令して立ち上がる。
ドアの方に駆けていき、半端に閉じていたドアを乱暴に開く。
すると、人、優奈とぶつかった……という類ではない。
最初はぶつかりそうなって少し停止したが、涙を堪えている様子だったので、類にしては珍しく、気遣ってそのままスルーした。めんどくさかったのかもしれないが……
優奈は類がとおりすぎた後、家の中に入り、突然雪の目の前に立った。
「あ……優奈。類なら……」
「雪。お願いがあるの」
「え?」
雪はもちろん、実果と瑞希も一瞬驚いた。
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