EP1-CP15 霊力と自殺(1)
高層ビルの屋上を見上げる実果と優奈。
そこに、突然上から襲い掛かる3人の人間。
この状況、どこかで見たような……
「おい、視点移動さんよー。もう少しうまく移動できないのか?」
「すいません……」
理科室に続いて、ここでも同じことを繰り返す瑞希を皮肉な口調で叱った。
だが、瑞希のミスはこれだけではない。実は周りに人が結構いるのだ。幸い、ここは通勤区で、忙しい人ばかりだったので、見ているものは少なく、見たとしても、自分の疲れを言い訳に現実逃避している人がほとんどだったが。
男子1名と女子4名は、すぐに立ち上がった。
優奈が倒れている間もずっと、ビルを見上げていたので、雪もそれが気になって仰ぐ。
「あ…!」
雪が目を丸くして、思わず指を差す。
その声に他の3人も、雪が指差す方を見上げる。
「あ」
類だけが、驚いているのかわからない声を出す。
皆が見上げるビルの屋上には、今にも落ちそうな祐の姿があった。無論、自殺をしようとしていることは、誰が見てもわかる。
「早く助けないと……」
雪が皆に言った言葉だったが、特に優奈に対しての言葉だった。
「いいの」
「え……?」
表情を変えずに拒む優奈の言葉に、類と雪だけが動じた。雪は思わぬ発言にあ然とし、類は優奈を軽く睨む。
そして、とうとう祐がゆっくりとビルから落ちてしまった。
それに周りの人はまったく気づいていない。
雪が思わず目を瞑る。
「あの子、あんたと同じで霊力を持ってるんだろ?」
類の質問に優奈がゆっくりと頷く。
それを確認すると、右手の親指と中指を口に軽く入れ、息を吹いた。
ピィーー
類の透き通った単調な指笛が街に轟く。
すると、不思議なことに、周りの人たちの動きがピタッと止まった。だが、今はそんなことを疑問に思っている場合ではない。
祐の寿命が徐々に縮まっていく。祐の死は確実なものと思われたが、死まであと1メートルというところで、落下がピタッと止まる。
少なくても類の仕業ではなさそうだ。なぜなら、落下運動が止まったのは一瞬で、その後すぐに地面に落ちたからである。しかし、1メートル付近で落下運動をリセットしているので、落下による衝撃は1メートルで済んだのである。しかも、骨折もなさそうだ。まぁ、痛いことには変わりないが。
「祐!」
優奈が急いで祐の元に駆けつける。
その他の女子も急いで駆けつけるが、類はゆっくりと歩きながら向かう。
「祐…大丈夫?」
実果が躊躇って聞く。それに優奈は一つ頷いて、
「…大丈夫。気絶してるだけ」
と今にも泣きそうな声で答えた。
「…今のは……」
雪の疑問ももっともではあるが、さっきまで静止していた周りの人間たちが再び動き出したので、類が口をふさいだ。
動き出した人々は、あれ?どうしたの?などと呟き、時計を見ては驚いていた。中には悲鳴を上げる者までいる。それも当然のことで、類が彼らを止めてから5分経っている。つまり、彼らは5分損したのである。時間が命のビジネスマンにとって、時間によるダメージは殺人的なものだった。
「急いでここから退くぞ」
つまり、注目を集める前にこの場から逃げたいというわけである。
騒霊現象などは認められているが、超能力、それも超自然的能力は認められていないどころか、(国民には)発見もされていないので、バレるとまずいのである。
しかし、この馬鹿な瑞希はそんなことお構いなしに、みんなを霊力で移動させてしまった。
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