EP1-CP14 自殺相談所 霊の方はこちらからお入りください
騒霊現象事件が解決した、2時間後…。
雪たちは類の家で休憩していた。
「俺思ったんだが…]
テレビの前にある椅子に、絆創膏と包帯を多数付けて座っている類が、腕組みをして偉そうな姿勢で言う。
「お前ら4人。紛らわしい」
失礼である。
それを無表情で言うので、実果と雪は余計むかついた。
特に実果は今腹が立っている。
数分前、実果を除く3人の女が、先にソファーに座ってしまったため、3人用ソファーには空きがなかった。
後輩である瑞希に、その上下関係を武器に、変わるよう言うが、「先輩なんだから、後輩に譲るのが普通でしょ」と上下関係で返り討ちにされてしまい、苛立っているのである。
そのため、自分だけソファーに座れず、その横に立っている。
「紛らわしいって、何が?」
雪が怒鳴り口調で疑問をぶつける。
「まずその1、全員制服。お前ら個性って言葉知ってる?たまには、個性をアピールするために、私服で来い。特に雪!」
類が雪の顔に指を指す。
「3人は学生だから未だしも。お前はフリーだろが。どっかから拝借して来い」
「それってどういう…」
「はい、その2」
雪の言葉を無視し、話を続ける。
「雪と瑞希。どっちか髪を染めろ。または、坊主になれ」
今の発言に、堪忍袋が切れた雪が、テーブルを思いっきり叩き付けた。
「今のはさすがに……。女性に対して言う言葉?」
「まず、優奈を除き、3人の髪型がほぼ同じなのは、かなり紛らわしい」
類がまた、雪の話を無視して続ける。
まぁ、類の言うことに同感できるものがあった。優奈を除く三人は、ホントにほぼ同じ髪型。優奈も、少し長いだけで大して変わらない。後ろから見ればパッと見、区別が付かないかもしれない。
「せめて色を変えろ。ほらー、実果も、茶髪に染めて、いかにもヤンキーという個性をアピールしてるだろ?」
「あんたね!」
雪だけではなく、実果も同時に声を上げた。
「俺は間違ったことは言ってるつもりはない。況してや、アドバイスだ。怒られる義理はない」
ますます二人の怒りがこみあがる。
瑞希はポカンっと呆然するだけで、優奈は二人をなだめる。
「……もう我慢の限界!」
雪が呟いく。
今にも怒りが爆発しそうな二人を余所に、突然瑞希が立ち上がり、キッチンの方へと向かいだす。冷蔵庫から何かを取り出した後、怒りのオーラを纏った二人に近づく。
優奈と、あの類でさえも、その瑞希の行動を呆然と見守る。
それを持っている手を、雪と実果の頭上に運び、ぱっと握っていた手を開く。
それは雪の頭の斜め前にすべり落ちた。
「……」
コンっという音が鳴り、テーブルから床に落ちる。それが落ちたところは水滴が残り、落ちた床にも、それを中心に水がたまっている。
それは氷だった。
瑞希がなぜ二人の頭上に落としたかは不明である。
「……あんたー、何してんの?」
実果が怒りを必死に抑えて瑞希に尋ねる。
「頭を冷やそうと思って、へへっ」
「…このー…瑞希〜!」
突然の怒鳴り声にビクっとする瑞希。実果の殺気を感じて、数歩後ずさる。
実果の怒りの対象は、類から瑞希へと変更され、瑞希をギロっと睨みつけ、瑞希に襲い掛かる。瑞希もあわてて、実果から逃げる。
「私何も悪いことしてないのに〜」
「待てーーーーーーーー!」
と部屋中を駆け巡る。
一方、雪のほうはというと、怒りが静まったようだった。というより、逆にリラックスしていた。何故だかわからないけど……
「雪、髪が……」
驚いた表情で優奈が雪の髪を指差す。
雪は瑞希が指差す髪を掴んで、じっくりと見る。
水色……。
さっき氷が通ったところが水色に変わっていたのである。
「ど、どういうこと……」
雪が実果の髪を確認するが、まだ氷が頭に乗っている。驚くほどのバランスである。少なくても、色は変わってなかった。
「さて、冗談はこれぐらいにして……」
その類の言葉に、雪と実果の怒りの対象が再び類に変更された。
いつもなら「パー」なのだが、今回はあまりにもムカついたので、二人は「グー」で類を殴りつけた。
そのようすを見て苦笑いを浮かべていた優奈の表情が一変した。
そして、いきなり出口へと駆け出し、路地の壁にぶつかることなく、外に出て行ってしまった。
その優奈の予想外の行動に、部屋にいた全員が優奈が出て行ったドアの方をみる。
「なんだ?」
「まさか…また」
実果が、どこか嫌な予感がするというような表情で、優奈の後を追った。
「いったい……」
「弟さんですね」
「弟さんって、祐…くん?」
「祐くん実は……、自殺希望者なんです」
類と雪の疑問を瑞希が解いた。その疑問が解かれたとき、雪はもちろん、類までもが驚きの表情をした。
「ってことは、優奈が自らの霊力で、弟さんの自殺意思を察知したわけか?」
「たぶん……」
類はため息をつき、呆れた顔で雪を呼んで、出口へ向かった。
「仕事だ。行くぞ」
そう言って外へ出る。
類の仕事がまだ把握できなかったが、とりあえず弟さんの自殺を止めに行くということはわかったので、雪は瑞希に目で合図して、類の後に続いた。
外に出た雪が、ふと家のドアの上の方を見ると
『自殺相談所 霊の方はこちらからお入りください』
と書かれた小さな看板が掛けられていた。
赤いペイントで地面に向かって矢印が書いてある。恐らく、『こちら』っというのは、『地面』もしくは、『地面の下』という意味であろう。もちろん、地面には穴のような、下に繋がるものなどない。
「なんだろう、これ…・・・」
「おい!」
路地の向こうから類が大呼する。それに雪も振り返る。
「早く来い!」
「う、うん…」
類の怒鳴り声に急いでそこに駆け出す。
類と雪が瑞希の手を握った瞬間、3人は消えていった。
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