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  作者: 空想
13/26

EP1-CP13 悪霊

 自分でも意味のわからない嫉妬を抱いていた雪の背中を、類が強く押し出した。


「わっ。ちょっと何……」


 雪の言葉が途切れた。最初は類に向かって文句を言っていたのだが、途中で正面を向いたとき、浮遊しているものが突然ピタっと止まり、すべて雪に向けられているのである。


「え……?」


 突然のことで、何が起こってるのか理解できない雪に、いきなり浮遊物体が襲ってくる。


「今だ!」


 類が合図すると、優奈は浮遊物体に手を翳し、目を瞑って意識をそれに集中させた。

 すると、見事に浮遊物体はゆっくり止まった。中には雪の顔ギリギリで止まったものもあるが、とりあえず止まったのでどうでもいい。

 止まった瞬間、類は実果の方へ駆け出した。


潜在能力ハイド


 そして、実果が宙に浮いた、ように見えるが、類の姿が見えないのでそう見えるだけで、実際は類がお姫様抱っこをしているのである。

 一方、悪霊を自分の能力で拘束している優奈は、気温12度にも関わらず、額から汗が落ちる。そうとう疲れるらしく、限界という顔している。


「……げん…かい」


 次第に浮遊物体が動き始める。

 自分の身に危険を感じた雪は、瑞希のところまで数歩退がる。

 瑞希も自分と二人に危機を感じ、優奈の肩に手を乗せ、雪の手を握る。

 急に手を握られた雪が振り返る間もなく、瑞希が視点を合わせた理科室の中央に視点移動アイポイントした。


「何?」


 と雪が尋ねるときには、既に移動が終えたときだった。

 その移動と少し遅れて、理科室の中央で何かとぶつかった。


「いったー」


 全員が同時に声を上げた。


視点移動アイポイントするときは、周りをよくみてやれ!」


「すいません」


 類が見えない状態だったので、そんなことは無理だった。



 バリンッ



 浮遊していたビーカーやフラスコが地面に衝突した。

 だが、その割れたガラスの破片らが、再び浮遊し、先の尖がった方を類たちの方へ向ける。

 さらに、理科室のドアが閉まる。


「おい!視点移動アイポイント。お前のせいなんだから、責任持って、雪を保護しろ。」


「はい……」


 瑞希がしょんぼりしたようすで返事をする。


「あんたもつらいとは思うが、出来るだけ、奴らを止めてといてくれ」


 息切れしている優奈に向かって優しく頼んだ。

 優奈は息を整えた後、一つうなずいた。

 類は優奈が同意したことを確認した後、浮遊物体に手をかざした。


霊体実体サブスタンス


 しばらくもしないうちに、浮遊源が姿を現した。

 その姿に雪はもちろん、瑞希と優奈も腰を抜かし、表情が恐怖で包まれた。

 雪が今まで見てきたレイノのような霊とは、比べ物にならない姿だった。漆黒に包まれ、その中に吸い込まれそうだ。戦闘に慣れていない者でもわかる強烈な殺気。形もたま状ではなく、人型だが、絶対に人間ではない。それが7人もいるのだから、恐怖感はさらに増幅する。

 それにも関わらず、平然と立ち尽くす類は本当に人間なのかと思う。


「レイノ、行くぞ」


 類の肩からレイノが姿を現し、「うん」と頷くと、右手に移動する。類の右腕が銀白のオーラに包まれる。

 次の瞬間、一人の悪霊が、持っている割れたガラスの破片を、類に向かって刺しかかる。

 だが、類は悪霊の前から突然姿を消した……ように見えたが、実際はサイドに瞬間移動し、右腕の拳で悪霊を思いっきり殴った。

 悪霊は思いっきり吹き飛び、試験管などがおいてある棚を突き抜け、廊下の壁にひびを残し、激突した。

 そして、類が殴った瞬間、他の二人の悪霊が類に襲い掛かる。思いっきり殴ったせいで、体勢が元に戻せない。

恐怖感を祓い、はっとした優奈が、急いで二人の悪霊に手を翳すと、ギリギリのところで止まった。

 そのチャンスを利用し、殴った拳をそのまま地面につけ、勢いで身体ごと浮かした。さらにその反動で、二人の悪霊に思いっきり蹴りを食らわした。そしてその勢いで、そのまま足を地面につけ、元の立ち姿勢に直した。

 そして次は4人の悪霊が同時に襲ってくる。


霊力放出バースト!」


 類が右手を悪霊たちに手を翳すと、銀白のオーラがその方向に向かって勢いよく放たれる。

 3人には避けられたが、一人には的中した。前例とは違い、さっきの殴りや蹴りのように吹き飛ばされた。

 二人の悪霊は優奈によって止められているが、霊力を使いすぎたのか、完全には止まっていない。すこしずつだが、こちらに向かってくる。

 すると、類があることに気づく。


「ちっ。もう一人はどこ行った?」


 類が360度、あたりを見回すと、最悪なことに、瑞希と雪の背後に回り込み、襲いかかろうとしている。

 瑞希は気づいていないので避けるのは不可。優奈は集中していて、気配を感じず、当然雪が気づくはずもない。

 悲劇は避けられない。



 ブスッ、グサッ



 複数の肉を刺す音が身体からだに響き、雪の顔に血の雫が落ちる。

 雪たちの目に飛び込んできたのは、身体の至るところにガラスの破片が刺さった類の姿だった。

 悪霊のほうは、類の攻撃を受けたのであろう。壁に穴が開いて、雨が降っている向こうの校庭にわの方に倒れこんでいる。

 類はそのまま倒れこんでしまった。

 だが、問題はまだ残っている。優奈が引き止めている悪霊は今にも襲い掛かろうとしているが、それを必死で優奈が抑えている。

 とうとう優奈の霊力が切れた。優奈はそのまま疲れてきって倒れる。

 二人の悪霊が複数のガラスの破片を浮遊させて、尖がった方をこっちに向けて放つ。

 次の瞬間、ガラスの破片はギリギリのところで粉々になり、二人の霊は黒板の方へ吹き飛ばされた。

 実果が寝たまま右手を突き出して、振動破壊バイブブレイクで吹き飛ばしたのだった。そしてそのまま、再度眠りにつく。

 雪にはもう着いていけなかった。頭が混乱していて、気絶したい気分だ。だが、そういうわけにはいかず、座り尽くすだけだった。

 4人の霊力者サイキック中、3人が戦闘不能。

 この状況では、倒れている悪霊が起き上がったら確実に殺されしまう。だが、そんな心配はいらなかった。

 7人の悪霊たちは、徐々に透けて、とうとう完全に消えてしまったからである。


「どうします?」


 何が?と言い返したいところだが、頭が働かない。

 しばらくの沈黙の後、やっと頭が働き始めた雪が提案する。


「…類の…家に移動できます?」


 瑞希はコクっと頷き、理科室の後ろの穴が開いた壁の向こうの校庭にわに視点を合わせた。



 ‡―†―†―‡



「なんでこうなるかな…」


 この状態から数分で目覚めた実果が思った正直な言葉だった。

 この状態というのは、例の路地の間に挟まって動けないという状態である。

 実果と瑞希にとっては二度目の体験である。


「……つらい」


「つらいってあんたのせいでしょう!」


「まぁそうなんですけどね(笑)」


「まったく、あんたの能天気には目に余るものがあるんですけど」


「まぁまぁ、二人とも。とりあえず落ち着いて」


 瑞希の正直な感想に実果がつっ込み、それを雪が宥めるという会話が繰り返される。

 だが、その会話は途中で途切れる。類が寝返り(?)をうったので、うまく挟まっていたのが、落ちそうになったからである。

 何が問題なのかというと、類は現在、一番上にいる。その下に雪が挟まっている。つまり、この状態で落ちれば、雪までがガラスの破片の餌食になってしまうのである。


「しょうがない……」


 実果が残念そうに言うと、類のガラスが刺さっていない部分に手を当て、そのまま斜め上に軽く飛ばした。

 予想外の行動に雪はあ然とする。今の「しょうがいない」は、雪がガラスの餌食になるのがしょうがないと思っていたのだ。まぁ、結局、自分が助かるのでそれでも良かったのだが…。

 もちろん、類は地面にぶつかったせいで、前よりも深手を負ってしまった。


「ねぇ、あの人ホントは目覚めてないですか?実は、私らの見られたくないもの見てたり……」


「あ〜大丈夫。あたし達、ちゃんと中からズボン着てるし」


 瑞希がそれを聞いてびくっと身震いした。


「それに、あの状況でそんな思考が出来たら大したもんよー。万が一そんなことが出来ても、どうせ中はズボンだし。あんたもそうでしょ?」


 実果が瑞希に同意を求めるが、実は瑞希、中はそのまま。ズボンなどは履いていない。今日は部活がないので、あえて履いてこなかったのである。

 先輩達もそうだと思っていたのに…。まさか、こんな状況になるなんて……。


「…瑞希?」


「……は、はい!」


 すると、さっきの振動破壊バイブブレイクの反動もあって、4人の制服女子達の姿勢が崩れた。そして、地面に落ちてしまった。


「…痛たたたー」


 そう打った頭をさすりながら、実果が瑞希の方を見た。


「あ……」


「……」


 雪も瑞希の方を見る。


「……」


「……」


「あーーーーー!」


読んでいただきありがとうございます^−^

誤字脱字や気になる点などがあればご指摘ください。

次話もよろしくおねがいします。

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