EP1-CP11 類の10の霊力
祝祭日のためか、商店区は人々でにぎわっている。行列ができている店も少なくない。
街の中に類と雪の姿もあった。雪は不機嫌そうに類の後ろ歩いている。
「ねぇー、あんたが普通に街歩いてもいいの?」
「俺を知ってる警察官はあの二人だけだ。あの二人にさえ合わなきゃ問題はない」
類が冷たく言い放つ。
雪は自分が質問したにも関わらず、その答えを聞かずに、周りをキョロキョロ見回す。
「やっぱり、東京はすごいなぁ」
雪がぼそっと独り言をこぼす。
類は聞こえていないのか、無視しているのか、ゆっくり自分の家に向かって歩く。
「ねぇ」
それでも無視して歩き続ける。
「さっきの話で思ったんだけど、なんで会社を8時までに閉めるの?」
「……」
「ちょっと聞いてる?」
「……俺は興味のない話は聞かない主義なんで」
さすがにイラッときた雪は、類の後頭部を殴ろうとした。が、後頭部からレイノが出てきたため、わっと悲鳴を上げて、尻餅をついた。
雪は多数の周りからの視線を浴びた。
「俺をほいほい簡単に殴れると思ったら大間違いだ」
類が初めて後ろ振り返って喋った。
雪はすぐに立ちあがり、服のホコリを取り払った。
「最っ低」
雪は不機嫌というレベルではなく、激怒というレベルで類を追い越し、早歩きで先に進む。
類は、しょうがない、というため息をつき、雪に向かって掌を翳し、小さく呟いた。
「思考共有」
早歩きで俯き、愚痴をぼそぼそと呟く姿は、まるで危ない人である。
すると、雪の脳内がなにかを捕らえた。
サービス残業というものなくすために、残業そのものをなくして、午後8時の会社の入社は法律で禁止されてる。
あと、さっきはごめん……ってレイノが。
という言葉が頭に入ってきた。
しばらく立ち止まり、許そう、と思ったあと、類のほうへ振り向いた。が、類はいなかった。
雪が類のいたところまで引き返すと、そこの店で、商品を見つめている類を発見した。
その店には女性客が多く、男性の類が少し目立つ。
雪が店の看板を確かめるため、上を見上げると『ジュエル』と書かれていた。つまり、アクセサリー専門店というわけである。
「何やっての?」
店内に入り、目をギラギラとさせ、アクセサリーを見る類に恥じらいと軽蔑の意味で小声で声をかけた。
「見ればわかるだろ〜、アクセ見てんだよ♪」
類にしてはめずらしい、活き活きと楽しそうな感じだ。そんな類に雪は少し引いていた。
そして雪は確信した。この男がアクセサリー好きということを。
「あれもいいが、これも捨てがたいし……」
アクセサリーを見ながらぶつぶつと呟く。
そんなにいいものなのかと、雪がガラスケースの中のアクセサリーを見ると、髑髏やナイフなどのダークなアクセサリーばかりが並んでいた。
類のポケットからはみ出るものをよく見ると、やはりダークアクセばかりだった。
「あ、金もってねぇーんだった。……は〜」
類はひどく落ち込んだようで、愕然となり、店を後にした。
あんな類を初めてみた衝撃に、しばらく雪はそのまま呆然としていた。
‡―†―†―‡
「……せんぱ〜い、疲れました」
先に階段を上る勇に、甘えるように言った。
勇は階段の手すりから顔を出した。
「あと少しだ。早く上って来い」
縦長で狭い階段なので、よく声が響く。
それにしても長い階段である。彼らはもうすでに1時間近く階段を上っている。
しばらく上った後、途中にあるドアの前で立ち止まった。
「ここだ」
「あ〜、階段だけでも疲れるのに、まだ……」
竜が息を切らし、絶望する。
「開くぞ……」
勇がゆっくりとドアを開ける。
「遅い!」
突然スナック菓子が勇の顔面を襲う!
「1分遅刻!129円ね」
ピンクのカラーサングラスを頭にかけ、同色のピンクの瞳が勇たちのほうを睨む。さらにロングヘアーの黒髪がピンクの瞳を強調しているため、その鋭さはいっそう増している。
さらに恐ろしいのは、椅子に座る彼女の周りにある大量のスナック菓子である。1000個、いやそれ以上と言ってもおかしくない量である。彼女のテーブルとドアを結ぶ床以外は、すべてそれで覆い尽くされている。
「ん?……おい勇!竜はどうした」
テーブルの上に足を組み、大きな態度で勇に怒鳴る。
「俺の後ろにいますけど」
「ちょっと先輩!」
竜はさっきからやけに怯えている。
すると、スナック菓子がいきなり動き出し、竜を包み込む。強制的に、竜を自分のとなりに連れ込んだ。
「よしよーし、お前はホントにかわいいなぁ」
竜をとなりに座らせ、頭の双葉を撫でてペったんこにするが、やはりすぐに元の状態に戻り、それを面白がって撫で続ける。
勇からみれば、いつもやられいる分、いい気味だと思っているに違いない。
見てわかるとおり、竜にとって彼女は唯一、反抗できない人間なのである。
「それで今日は何のようだ?」
「類について話があってここへ来た」
「ふ〜ん……それで?」
「それについては竜から……」
「話しますから、撫でるのやめてください。茜さん」
そう竜が言うと、茜は竜の頭から手を退いた。
「まず質問です。霊力自体が霊ってあり得ますか?」
茜は撫でていた手を顎に当てた。
「まずないわね。それってつまり死んでるか、1度死んだことがあ……」
茜は何かを思い出したように、そして思い出したことがとても重大というような表情をした。
「……訂正。やっぱあり得る。過去にそういう奴がいたから」
「え!」
「確か、200年前ぐらいのヨーロッパにいたという話があった。そいつは霊力を10も使えたと聞いてるわ」
「10も…」
驚きというより、二人はあ然となった。
「もし、類って奴が、そいつの生まれ変わりだとしたら、その確率はゼロではないはず」
「……10っていうのは、ちょっと、ありすぎじゃないのか?俺や竜でも応用して2つだってのに。多種霊力者だとしても、4,5が限界だ」
勇は驚きのあまり取り乱していた。
「霊が霊力っていうのは、思ってるよりも強力。霊のすべての能力が使えるだから、基本それぐらいが当然。応用したら、計り知れないわね……」
「それりゃ、勝てないはずですよ」
竜がため息をついて、さりげなく茜のそばから離れようとしたが、頭を鷲掴みされ、椅子に引き戻された。
「それで、類ってやつの能力はわかったの?」
竜は苦笑いしながら答える。
「…えーっと、潜在能力、瞬間移動、空飛ぶ能力に、特殊な霊力放出です」
「20点。瞬間移動は既に存在するから、何か別の移動系列能力。空を飛ぶ能力は、空中浮遊ね」
茜は立ち上がると、汚れ一つない白衣の科学服が姿を現した。
そして、スナック菓子の中から『銀白糖』を取り出しては、すぐ袋を破き、中身を取り出して、2,3個口の中に入れた。
「とりあえず、しばらくあいつからは退きなさい。下手に関わると奴らに殺られるよ」
「だが……」
すると、茜が鋭い眼差しで真っ直ぐ勇を睨む。
「これはお前だけの問題じゃない。竜にもあたしにも関係がある。命を無駄にさせるな!」
茜は静かに怒鳴った後、ドアを開けて「今日は帰りな」と言って、二人を部屋から出した。
「そろそろあたし達も、本格的に動く時期かな……」
口の中の飴をガリガリッと噛み砕いた。
そのとき、追い出された勇たちは、ゆっくりと階段を下りる。
「竜。お前、俺に隠し事してないか?」
「……」
竜は勇の質問に表情を変えずに、黙って階段を下りる。
「あの女からも、茜からも、俺に警告突きつけてくる」
あの女とは澪のことである。あの時の澪の言葉を思い出した。言葉は違うが、警告していることが、茜が警告したことと同じような気がした。
「澪がお前がわかると言っていた……」
「先輩。俺は隠してる事なんかない。ただ、先輩だけが知らないだけだ」
「どういうことだ?」
勇は途中で立ち止まり、後ろを振り返った。
「先輩以外の霊力者はみんな知ってる。先輩と裕輝以外が知らないだけで……」
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