EP1-CP10 新東京
あの事件から1週間。連続殺人事件はピタッと止まり、今のところここ以外は平和続いてる。
私こと雪は、類という変態の家で無理やり住まされているので、平和とは言えない。
類が言うには「おまえは霊力もなんももたない、ひ弱で一般的な女子だから危険だ」と言って、私をこの家から出してくれない。
当の類はというと、夕方に出て行っては、朝方に帰ってくるという繰り返し。その間は、愛用のソファーでグースカ寝てばかり。「これが俺の仕事なんだ……。わかったら眠らせてくれよ」と言うけど、彼の仕事が未だにわかんない。たぶん彼と初めて会ったときに言っていた『ゴーストマネージャー』だと思うけど、それが具体的に何をするのかは不明。
澪さんはというと、あれ以来突然と姿を消した。類は「ほっとけ」と冷たく言い放つだけ。
12月23日午前9時現在、誰もいないこの部屋で私は、朝のニュースを見てる。「もう少しで2008年も終わりですね」「もうすぐクリスマス!」的なことばかり報道している。
誰もいない部屋で、一人テレビを見てたって寂しくないよ。だって今日は祝祭日。あの子達が来るから。
「よっ!ユキィー」
ほら来た。
彼女たちはあれ以来、暇があればここに遊びに来るようなった。
「あれ、あいつは?」
「まだ帰ってきてないよ」
「ふーん、じゃあ出かけない?」
「え…でも…」
類からは、「絶対外に出るなよ。出ても、わかるからな」という、ストーカー的発言を受けていたので、外に出るのはあまり気が進まなかった。
「あいつのことはいいから。行こ!」
「…うん」
私は、まぁ、いいかな、という気持ちで類の家を後にした。
   
‡―†―†―‡
雪と実果と優奈、女3人で、類の家から500メートルも満たないカフェに来ていた。黒のバックに白い文字で『Coffee Black』と書かれた看板目印だ。
有名店なのか駐車場や店内は混雑している。
その混雑中、運良く4人テーブルに座る女性達の姿があった。
「ホント、雪も大変だねー」
類と同居しているということに対してと、前聞いた、自殺未遂をしたことと、その理由について話したことについての同情だった。
「まあね」
コーヒーを少し飲んだあと、ホッとため息をつく。
「私、東京でこんなに落ち着けたの初めて」
「え!そうなの?」
「うん。元々私、千葉にいたから」
大して距離はないのだが、千葉と東京ではけっこう違いがあるのである。特にここ数ヶ月は…。
「へぇーどうして東京に?」
「仕事探しに……」
実果は、悪いことを聞いてしまったような気がして、すぐに言葉が思いつかなったが、雪が話しを続けてくれてホッとした。
「やっぱ、中卒の私を雇ってくれるとこってあまりないし、東京だったらあるかなぁと思ってきたけど、やっぱだめだった」
それでもやはり言葉が見つからなかった実果が、空気を壊さないために頑張って言葉を捜していると、以外なことに隣にいた優奈が口を開いた。
「それで、どうしたんですか?」
その話から離脱して〜。
実果が心から願った言葉である。
「それで自殺未遂。類と出会って、今ここでこうなってるってわけ」
だが、実果が思ってるほど、雪は自分の自殺未遂に関しては何も思っていなかった。
「だけどさ。この東京には驚いたわよ。私がイメージしてたより非現実的だった」
「まぁ……。この数ヶ月で東京は180度回転したから」
「どんな風に?」
好奇心に満ちた目で実果をじっと見る。
「まず、街の地形が変わったし、それに……」
「地形が変わった!?」
「ええ、そうだけど……」
「何、この東京という場所はシーズン置きに地形を変えるんですか?ていうかそんなことができるんですか?」
「それはわかんないけど……と、とにかく街が変わったし、学校の制度も変わったし……」
「女性3人も集まって、恒例のご近所話ですか?」
するといきなり、空いていた雪の隣の席に座り、大きな態度でもたれた。
「ちょ、あんた何よ!」
類が座ったことに実果が不機嫌そうな顔で怒鳴る。
「こいつが店から勝手に出るから悪いんだろ?」
店?
女性3人の頭に疑問が過ぎったが、そのまま聞き流した。
「今の話、俺が説明していいか?お前らも知らない部分もあるだろうし」
「あんたがすべて知ってるような言い草ね」
「だって現に知ってるし、俺天才だし」
実果の顔がますます不機嫌になる。雪のほうは怒る気もせず、呆れていた。
「説明するぞー。まず、東京は3ヶ月前に工事をした。その工事で、道路から建物に至るまで、すべてを変えた。そして、東京23区は今や3区までに減った」
「いったいどうやって?」
「だまれ、質問は後だ」
雪はさすがに実果と同じく不機嫌な顔になった。
「通勤区、通学区、商店区の3つ。通勤区は残業などをなくすために作られた会社密集地域で、午後8時以降の会社への侵入を禁止するシステムだ。しかも、会社はもはや個人の物ではなく、国のものになっている。建物そのものは国のものだが、内容はそれぞれ個人が管理している。だから、1つのビルに会社が何十個というのもおかしくはない。もちろん東京だけだが…」
「それはあたしも初耳」
優奈も同じくというようにうなずく。
「それでちゃんとやっていけてんの?」
「ああ、もちろんだ。それで国の不景気は回復したし、順調そのもの。まぁ、その理由としては、会社が倒産しそうなときは国が支援するが、いらない会社は強制的にやめさせられる。だが、その連立する会社に勤めることができるから、失業者を最小限に抑えられるところかな」
「どうりで物価が安くなったはずだわ」
「で、おまえなんかが通う通学区は……」
「それは知ってる。1つの地域に小中高大の学校が密集していて、学校同士のコミュニケーションや、通学のし易すいようにできてるんでしょ?便利だよね〜。あと、寮も充実して、今では小学校の寮もあるんだよー」
優奈が自慢げに話すが、類が興味ないという顔で目を背けている。
「もういい?」
優奈がまた不機嫌な顔に戻った。
「商店区は別に説明するほどでもない。渋谷とか秋葉とかとなんら変わらん」
「思ったんだけど……」
今まで聞いていた雪が問う。
「それを都民は了解したの?」
「当然だ。教育費、工事のための引越し代は国が負担。会社も倒産しにくいうえに、失業しないとなると断るほうがおかしい。だが、すぐにそれを信じるというわけではなかったがな」
「……あ〜あれですね。あれは誰も信じないかと思いましたけど、まさか証明するとは」
「まぁ、結局は霊力だったんだがな」
「そうだったんですか?」
雪と実果を置いてふたりだけで話を進める。
スイッチが入ったのか、今までにないテンションで類と会話する優奈に雪は少し驚いた。
その気持ちを抑え、その次に思っていることを言い放った。
「ちょっと私たちを置いていかないでよ!」
「そうよ!あたしにも説明してよ」
次は優奈が説明を始めた。
「東京が工事されるときね、本当にそんなことができるのかって、一部の都民が反論したの。それで、国が東京都のみで、テレビを通じて、それを証明させたのよ」
「見たかったな〜」
「でも、どうして国は、東京をそんなにまでして、改善させたかったの?それにどうやって短時間でここまで……」
「短時間でできたのは……正義の暗殺者たちが全部霊力で工事したからさ。国がなぜそれをするかについては……あれだ。国の繁栄のためだろ?その考え方はいいが、方法が間違っている。正義の暗殺者が霊力者を殺して捕獲し、解剖して、霊力を国のものにするというのが目的だろうな。」
すると、実果と優奈は目を丸くして、あ然とした。
「……サイキックって私達のことよね?それこそ初耳なんですけど」
「……もしかして、あの警告はこのために」
「そのとおりだ。あの警告は知り合いに頼んで、全霊力者に俺が警告した言葉だ」
類は深刻な顔になって、二人に顔を近づけた。
「これから正義の暗黒者はますます活発になる。自分達も含め、その周りの霊力者にも再度お前達からも警告しろ」
「でも国はどうしてこんなことを!?」
雪が思わず大声で叫ぶが、人が混雑していて、周りにはあまり気づかれていない。
「国、政治家がやってるわけじゃない。お前には話したが、自殺者達の悪霊がそうさせているだけだ」
「まさか話しには聞いていたけどここまでの影響だったなんて」
実果が顎に手を当てる。
「ん?お前らも知ってるのか?」
「はい…。私達の生徒会の先生が、説明してくれたんです」
類の疑問に優奈が答える。
「ふ〜ん」
そう納得して、類は立ち上がった。
「それじゃ、俺は行くわ。ホント、お前らと話してると疲れるっ。おい行くぞ」
捨て台詞を残して、雪を引っ張り、類は店の外に出て行った。
「なんなのよあいつ!」
実果は一気にコーヒーを飲み干して、乱暴に席を立ち、支払いを済ませて、二人は店を去った。
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