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彼は聖女を愛している ~ 追放された貴族の子 ~   作者: ピテクス
第2章 -鈴の音が聞こえる-
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73 お土産を渡そう!


 たった一週間ハンデルに居なかっただけだというのに、やけにこの街を懐かしく感じる。

 潮の香り、カモメの声、行き交う人々は多種多様……獣人やドワーフと呼ばれる人たちも普通に出歩いている。王都ではほとんど見かけなかった。きっと王都にも彼らのような異人種は住んでいるのだろうが、大手を振って街を歩くことは出来ない事情があるのだろう。

 僕は裏路地に入って迷路のようなハンデルの裏街を進む。入り組んだ家と家との隙間を歩き、つぎはぎだらけのカーテンを開けた先、まだ少しだけ据えた臭いが漂っているその場所が、僕の友達の家だ。


 扉がないので通路の壁をこんこんと僕はノックをする。


「扉なんてねぇんだからそんな事したって意味ねぇだろ」

「一応礼儀だよ、れ・い・ぎ。トーズ、久しぶりだね」

「たった一週間だろ?」


 ぎざぎざの尖った歯を見せつけてトーズは笑う。僕にとっては長い王都での日々であったがトーズ達にとっては僕が来る前と変わらない日常だったのだろうか、そんな言い方をされると少しだけ寂しくなってしまう。


「僕が居なくて寂しかった?」

「メリーとジェリーとちび達寂しがってたぜ、俺は口うるさい小姑がいなくてせいせいしたな」

「性別まちがってない?」

「間違ってない」


 ケラケラと楽しそうにトーズは笑う。この時間ジェリー達は子供たちを引き連れて街の雑用を聞きまわり小遣い稼ぎをしている。彼らスラムの年長たちは持ち回りで病に臥せった子供たちの面倒を見るのだが、どうやら今日の番はトーズらしかった。


「そんなこと言うならお土産はいらないのかな? 心優しい僕はひどいことを言う友達にもイイモノを買ってきてあげたんだけど」

「みやげ!? それを早く言えよ! すげぇ寂しかったぜぇ」


 主人を見つけて尻尾を振る犬の様にトーズは人懐っこい笑みを浮かべて俺によって来る。最初からそう言ってくれればよかったのにと僕は笑いながら、トーズへの土産を取り出した。


「トーズの小刀ボロボロだったろ? ほらこれ王都で人気の鍛冶屋で買ってきたんだよ」

「お〜〜!!すっげぇぴかぴかじゃねぇか!」

「大切にしてよ」

「ったりまえだよ! でもこれ高かったんじゃねぇのか? よくわかんねぇけど、ぶんどったものじゃなかったら剣って高いんだろう?」


 という事は今まで持っていた剣は全部他人から分捕っていたのか……という気持ちをぐっと飲み込む。必要以上に恨まれていないなら、僕が今さら何かをいう事はない。


「まぁね。でも僕もナタを新調したし、みんなにもそれぞれお土産買ってきたんだ、きっと喜ぶよ」

「は――!まっじか、お前しょっちゅう王都行けばいいのにな! そしたらチビ共も喜ぶぜ」

「頻繁にはいくつもりだけど、今回は初めてだからと臨時収入があったから特別ね」


 こうして話しているうちに仕事を終えたのか、ジェリーとメリーに引き連れられて子供たちも帰ってきた。ジェリーとメリーは僕を見ると目をまんまるにして――


「レオさんっ!!」

 からんと杖を落として僕に甘えるように抱きついてきたのはメリーだった。まるで子犬の様に人懐っこいメリーのその姿に僕の顔は自然と綻んでしまう。


「寂しかった?」

「とっても!とっても寂しかったです」

「そうかそうか」


 素直でかわいらしい。どこかのだれかとは大違いだ。

 そんなかわいいメリーの後ろでジェリーは僕を見ていた。なぜか赤く長いまつ毛を下げて少し伏し目がちに苦笑いすると、控えめな声で僕に声をかけた。


「おかえり、レオ」

「うん。ただいまジェリー。君は寂し――」

「さみしかったよ。レオがいないとトーズもしょげちゃって」

「しょげてねぇよ!!!」

「そっかぁ、みんな僕が居なくて寂しかったのか」


 自然と頬が緩む。今まで誰かにこうやって思われた事なんてなかったから、僕が居なくなって寂しいと言ってくれた友人がこんなにも出来たことにうれしくてたまらなくなった。

 ジェリーとメリーの引き連れてきた子供たちも「レオがいなくて寂しかった~!」と口々に言ってくれたことに僕は眉尻を下げた。


「レオだってあたしたちと離れて寂しかったでしょ?」

「そうだね、あそこは息が詰まる――」


 思い出したのは僕が今までいた貴族社会の姿。自分のかつていた場所、幸せな家族の肖像画。嘘ばかりであの人の犠牲の上になっていた場所……ジェリーと同じように苦笑いをして笑顔を返した。僕があの場所で息が詰まらなかったのは、スズといた時だけだったな、とおもいつつ……


 子供たちには王都で売っていた甘いお菓子をお土産としてあげた。なんでも寒い地域でしか取れない砂糖を使っているので、この温暖なハンデルにはない甘味が王都には沢山あるのだ。

 子供たちはすぐに口にお菓子頬張ると太陽のような眩しい笑顔を僕に向けてくれた。


 お姫様にあこがれる女の子らしいメリーには貴族の使っていたレースのハンカチをあげた。

 下級の貴族から上級の商人までが使う、それなりにいい中古屋で買ったものだ。その店の中で品がいいと思ったレースのハンカチを買った。母や姉が使っていたようなレースの品よりは安いものだろうが、それなりの家から売りに出されたものだと分かり、メリーにはきっとこれが似合うだろうなと思ったのだ。

 レースの服なんて僕らは買えない。お姫様にあこがれているメリーにはせめて小物であろうともお姫様気分を味合わせてあげたかった。


 ジェリーにはずっと欲しそうにしていた計算機(ソロバン)をおみやげにあげた。

 初代勇者が発明したという計算機(ソロバン)は大きい金額を扱う商家なら必ずと言っていいほどある。ジェリーが計算機(ソロバン)の使い方を商人のトニックさんに習っていたことを知っていたのだ。欲しがってはいたが、それなりの値段のする物なので昔より豊かになったとは言え、スラム生活をしているジェリーにはまだ手が出せない品だと知っていたのだ。


 僕からお土産を受け取ると思った通り二人とも大層喜んだ。

 ジェリーなんて、そのままソロバンを抱えて「トニックさんに自慢してくる!!」と頬を紅潮させ笑顔で駆けて行ったほどだ。


 メリーはレースのハンカチを太陽に透かして「ほんとうにお貴族様みたい」とキラキラした表情で言っていた。


 喜んでくれてよかった――

 笑顔のみんなを見て僕の顔も自然と綻んでしまう。


 友達におみやげを渡したあとは次は薬草屋のタニザさんの番だ。彼女にはお世話になっている。ロエタニーザ・ゼルフ、初代勇者の最初の仲間にしてエルフの御姫様。彼女には失礼にならないように誰よりも奮発したお土産を手に入れていた。


お読みいただきありがとう。

あと数話でこの章もラストを迎えます。

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