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彼は聖女を愛している ~ 追放された貴族の子 ~   作者: ピテクス
第2章 -鈴の音が聞こえる-
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65 友達になろうよ


 すっかり傷が消えた騎士やウィルは、行われた治癒が特殊であった事には気づいてはいるが、僕ほど深刻にはとらえていなかった。


「噂には聞いていたが!これがゲーガン司祭の秘蔵の子か!」


 目を輝かせてオークと斬りあっていた騎士が言う。


「これほどの奇跡を生み出せるものを育て上げるとは」


 息荒く、回復したての騎士は感動のあまり顔を紅潮させて言う。


 育てられた程度でこんなすごい事ができるわけがない。

 これは彼女の才能だ。平民、それも移民という人間としては一番下の身分から貴族社会の中央教会に引き抜かれただけはある。祈るだけで奇跡を起こせるならそれは神に愛されていると言われてもおかしくはない。


「無事に治って、よかった、です」


 少し疲れた様子のスズは、少しだけ息を荒くして騎士やウィル達に微笑みかけた。


「ご無事です、か、ウィル様」


 肩で息をしながら疲れの浮かぶ顔でウィルに笑いかけたスズは何とも健気に映る。


 祈りをすると疲れるのか……?


 僕にはスズはただ神に祈った()()のように見えたが、祈りの代償はつくらしい。通常の治癒で二人別々に治した方がまだ疲れないんじゃないかと思ってしまうくらいの疲れ具合だ。


「スズ、大丈夫かい?」

「は、い……すぐに回復します…お見苦しいところを」


 肩で息をしてスズは呼吸を整える。どうやって治癒を行ったのか分からなかった。事の詳細を問い詰めたかったけれど、今こんな大勢いる前で聞く気にはなれなかった。聞いたとしても多分はぐらかされてしまうだろう。


 祈りの事を聞くのはあとにしよう――

 そう思って僕はウィルに向き直る。スズの魔法は気になるが、後でも聞ける。

 それより今は、今しかチャンスのないことをしなければならない。


「ウィル、君が無事でよかったよ。立てるかい?」


 微笑みながら僕は、お忍びでやってきているこの国の第一王子へと手を伸ばした。


「あぁ、大丈夫だ。お前は――本当に冒険者をやっているんだな」

「うん、生活のためにね」


 少しだけウィルの瞳が輝いている。まるで羨望の眼差しだ。それはそうだろう。ウィル目線で見れば騎士が苦戦していたオークを倒した僕はまるで英雄のように映ったことだろう。


「レオ、だったな」

「うん。ほら立ちなよウィル。そんなとこに座ってちゃ汚れてしまうよ」


 小さな手を掴みぐいっとウィルを引き寄せて無理やり立たせた。今は堅苦しい作法はむしろ邪魔だ。距離を詰めるならば、トーズ達を見習って作法なく親しみを込めるのが一番だと僕は学んだ。

 あくまでにこやかに親しみを込めて、第一王子に手を触れ引き起こす。無礼極まりないが状況が状況なので騎士達も何も言わない。


「どうだった? 初めての討伐は」

「どうって…………いや、そんなことはどうでもいい!」


 輝かせた瞳をウィルはこちらに向ける。


「お前、オレの騎士にならないか? 騎士を夢見てたんだろ?」


 キラキラとした目でウィルは()()()()()()素晴らしい提案をしてきた。

 殿下直属の騎士の指名……そのとんでもない発言に後ろにいた騎士達もぎょっと目玉を向いて僕を見た。


「お待ちください! 助けられたからと言っても、()()は平民の子ですよ!? もっといい相手がいくらでもっ!」

「失礼だぞ! ()()()の実力はオレが認めた!!」


 コレとかコイツとか失礼な奴らだな、と内心腹立たしいかったが、僕はあくまでもにこやかな顔を崩すことはしなかった。

 貴族の人間、それも本来の次男坊の僕にとって王直属の騎士への誘いというのは、それこそ家をあげて祝福するような大変名誉な事だ。


 今まではそうだった。

 何もかもが崩れ去る前ならば。

 けれど今は違う。僕はもう少しだって騎士になろうとは思っていない。


「せっかくだけど断るよ。僕はやりたいことがあるんだ」


 ウィリアム殿下のありがた~い申し出を断った僕に、騎士たちの眼の色が変わる。

 それはそうだろう次期王様自らの騎士の指名を断ったのだ。けれどここは相手の身分を知らない(てい)でいきたい。

 彼らは身分を隠したいのだ。それに合わせてやる。


「オレの誘いを断っ――」

「友達になろうよ、ウィル」


 憤慨しそうになったウィルに僕は握手をするように手を差し出した。


「え、とも、だ……?」

「貴族だからって平民と友達になっちゃいけない理由はないだろ? だよね?」


 手を差し出して笑顔で僕はそんなことを言う。

 普通は貴族は平民と友達になどならないが、平民相手に騎士になれと言うような殿下ならばそれが通じると思った。


「小僧! 平民のくせにウィル様に失礼だぞ!」

「そうなの? スズだって教会で貴族の友達沢山いるし、一緒だと思うんだけど……」


 嘘だ。

 中央教会の貴族連中がスズと友達をしているとは少しだって思っていない。友人が居るのならば、髪を切り取られ、貴族の少年に暴行を受けているのを庇おうとするはずだからだ。スズの態度から貴族相手に庇われたことがないとすぐにわかる。彼女は中央教会内で孤立無援なのだろう。

 だがそんなこと殿下が知るはずもない。「貴族と平民が友人になれる前例なんていくらでもあるよ」という態度で押し切れば、僕を友人という枠に入れてもらえるかもしれない。友人になることは無理だとしても心象が悪くなることはないだろう。


「平民でも貴族の友達は沢山いるよね? ねっスズ」

「えっ、えっええ! その、貴族の方とは大変仲良くさせていただいてます、です、はい」


 一瞬戸惑ったような態度を見せたスズだったが、僕が言わんとしていることを察したのか、ぎこちないながらに肯定してくれた。


「そう、なのか、友達か……」

「いやかな?」

「いや……いやじゃ、ない」


 少し照れたようにウィリアムはこくんと頷いた。


「じゃあ僕ら三人は友達だね。僕とウィルとスズ。危険を乗り越えた者同士は友達になるって何かの物語に書いてあったから」

「初代勇者の物語か!!オレも、あれ好きなんだ」

「うん、僕もだよ。スズは?」

「えぇ私も好きです。初代勇者様は素晴らしいお方で」


 夜空のようにきらめく瞳で弧を描きスズは美しくほほ笑む。綺麗だと、きっとその場にいた誰もが思っただろう。


「いいんですか?私もご友人に加えて頂いて」

「オレはかまわん。教会の者と父上は仲良くするなと仰っていたが、お前は悪い者じゃなさそうだしな」

「あぁ光栄です、ウィルさま」


 蕩けたような顔でスズはほほ笑む。

 教会内でいじめられているスズにこの国の王子の知り合いが出来れば、少しくらい状況がマシになってくれるかと、スズも一緒に友達として加えたが……とろけたような顔をウィルに向けられると、なんだか少しだけ気に食わない。

 何が、とは具体的に言えないが、なんだかむずむずする。


「平民の友など初めてだ!!」


 きらきらとした瞳で楽しそうに笑うウィリアム王子を前に僕は笑みを深めた。

 ――この縁を逃してなるものか。





お読みいただきありがとうございます。

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