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彼は聖女を愛している ~ 追放された貴族の子 ~   作者: ピテクス
第1章 -交易都市ハンデル-
32/87

30 盗賊ニューマンの話2



 なんだなんだなんだ、アレはッ――


 ニューマンは暗闇に紛れる魔獣のような何かから、必死に逃げていた。

 息が上がるほどに必死に走ってるのに、必死に走っているのに、「ねぇねぇ」と耳のすぐ後ろから自分を呼びかける声が聞こえる。


 なんだこれ、なんだこいつは、俺が何をしたっていうんだ。なんで俺ばっかりッ……



 ――始まりは数分前――



「ニューマン! 野郎共を呼んでこい。

 ったくアイツらは、どいつもこいつも集合の時間すら守らねぇ、次の襲撃の話もしなきゃなんねぇのによぉ」


「へいボス。なんかさっき寝てやしたんで起こしてきますね」


「んなもん見た瞬間起こせや! てめぇも集合時間知ってんだろうが!!」

「へっへいボス、すいやせんすいやせん」


 変態クソ野郎のくせに真面目ぶってんじゃねぇよ。

 そんなことを心の中で呟きながら、ボスに対してペコペコと頭を下げて部屋を出た。


 俺は急いで、赤毛の女の子を地下牢へと入れてきた帰りに見た、眠りこけている仲間を起こしに行く。


 ボスが時間にうるさいのなんて皆知ってる筈なのに、何やってんだよ……なんて思いながら足を進める。仲間を起こしに行くのが遅くなれば、俺だって、あの変態ボスからお仕置きを受けるからだ。まったく理不尽極まりない。



 先ほど見かけた昼寝中の仲間がいた場所には、他にも何人かが壁に寄りかかり眠っていた。


 なんだなんだ、みんなお昼寝中か? 生まれたてのガキかよ。なにやってんだよ、ボスすげぇ怒ってんだぞ……

 煉瓦造りの冷たい壁に寄りかかって、寝ている仲間の肩に手を置いて、揺さぶって起こそうとする。けれどそれは叶わなかった。


 とん、そう軽く手を触れただけで、仲間の体は糸が切れた人形のように床へと倒れていった。

 つい強く押してしまったのかと、慌てて仲間を揺り起こすが、がっくりと身体すべての力が抜けて、まったく反応がない。


「おっおい、体調悪りぃの、か? おい、大丈夫か? しっかり……」


 うそだろ、うそだろ、血の気が引いてゆく音が聞こえる。

 俺以外、誰も居ない場所で、なんでか仲間の意識がない。それもこいつ一人だけじゃない、周りにいる全員が眠りこけるだけだと思っていたけれど、よくよく見てみれば全員がただの人形のように、その場で力なく座らされているだけだった。


 指の先から冷たくなってゆくのを感じる。

 みんなで昼寝なんて、おかしいってなんですぐに気づかなかったんだ。


「しっ、死んでるっ……!!!」




「死んでないよ。ちゃんと確認しなよ」


 俺以外、居ない筈のその空間で、不気味な子供の声が響いた――


 首筋から雪が入り込んだような、一瞬で身体の芯が冷えた感覚がした。急いで左右を見回すと誰も居ない。


 幻聴? いやそんなはず……


 すんすんと、獣が獲物の臭いを嗅ぐような音が聞こえて、幻聴なんかじゃないと思った瞬間、俺は部屋から抜け出した。


 あそこに居ちゃ殺される。そう本能的に思ったんだ。

 ボスに知らせなきゃボスに知らせなきゃ、仲間が殺された!! それもあんなに強い仲間を一瞬で! 物音もたてずに!


「うーん、トーズ、あの人は僕がもらうね、多分トーズじゃ殺しちゃうから」


「殺さねぇよ、今までも加減しただろうが」

「彼は例外。言ったらトーズは手を出しちゃうから、秘密ね」


 そんな声が後ろから聞こえた気がした。

 全速力で走る屋敷の廊下は、長年管理されず放置されていたこともあって、屋根や壁が崩れて砂ぼこりが廊下に舞っている。

 一生懸命走れば走るほどに足が滑り、ずりずりと靴が砂と擦れすり減ってゆく音が聞こえる。


 全力で走っているはずなのに、少しも逃げ切れている気がしない。足が遅いわけじゃないのに、まるで化け物はすぐ後ろにいるみたいなっ……


「ねぇねぇ」


 必死に走ってるはずなのに、耳の後ろから俺に呼び掛ける声が聞こえる。

 怖い、本能的に恐怖を感じる。俺にはわかる。こいつは人間じゃな――


「こげの臭いがするんだよね。ジェリーをさらったの……おまえだろ?」


 足を動かさないと、早く動かさないと、逃げないと、逃げないと俺は死――



 気づけば、俺は全身の痛みと共に、地面を眺めていた。



 何が起こったか分からずに、きょろきょろと周りを見れば、十数メートル先に色素の薄い子供の姿が見える。

 あの距離から魔法で攻撃でもされたのか? いやさっき声は耳元で聞こえた。

 ということは子供のいる場所から、今の場所までの十数メートル、子供の形をした悪魔に吹き飛ばされたんだ。



 じゃり、じゃり、砂と靴がこすれるような音を立てながら子供が近づいてくる。

 近づいてきた悪魔は。無表情で何でもないような顔をしてそこにいた。


「ジェリーを返してもらおう」

「ゆる、ゆるいて」


「君がジェリーを連れ去ったなら、今どこにいるのか知っているだろ? 赤毛の女の子だよ」


 がたがたと震える唇で、目の前の悪魔に自分は命令に従うという事を証明することしか、今の俺には出来なかった。



「ちか、地下牢に、います」


お読み頂きせんきゅー!

面白かったらブクマ入れてください。作者とても喜ぶ^^


次回:捕らえられた美少女達

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