29 盗賊ニューマンの話
**盗賊の視点でお送りします**
畑の仕事は疲れるうえにつまらねェ
街の仕事は大変なうえに上手くいかねェ
冒険者なんてモンは馬鹿がする仕事さ、命を懸けたってはした金が手に入るだけ。冒険者の上級になれるのは元から才能があるやつ。
生まれ育った、なんっにもない村が嫌いで嫌いで仕方がなかった。
自由も何もない村社会。少しでもはみ出れば寄せられる侮蔑の眼。
でっかい男になりたいなんて夢は、ゴミみたいな村に生まれた瞬間に叶わないものと神様が決めやがった。
街の人間は恵まれてる。生まれた瞬間に自由がある。
商人なんてモンはもっと恵まれている。親が頭がいいから子も頭がいい。
貴族なんてモンは、もっともっともっともっと恵まれてる。だから恵まれない俺らが貰うのは当たり前のことだ。
シケたボロイ屋敷でも、自由がある金がある。
金があれば街に行って女も買える。攫った女もいるが、そいつらはぎゃーぎゃーうるせぇから俺は嫌いだし、ボスのもんだから手を出そうとも思わない。
村の土臭くてクソの臭いのする女じゃなく、都会のいい女も金さえあれば俺にだって手が届く。
最高の生活だ。仲間たちと食って飲んで犯して、生きることをめいいっぱい楽しんでいる。
「ニューマン! 見回り行ってこい」
「へいボス」
一日に何回かある巡回は、一番下っ端の俺の仕事だ。
めんどくせぇし嫌いだ。
早く新しい仲間でも入ってきてくれたら、俺もボスみたいに顎で使える立場になるのによ。
ボスは頭がいい。魔除草なんてなんの役にも立たない、まじない程度の草を大量に撒いて、拠点に魔獣を本当に近づけさせなくしたし、ボスのおかげで未だに拠点が誰かに気づかれた事はない。
街のバカな奴らは、東の街道は盗賊が出るんじゃなく、凶暴な魔獣が住処にしているから、街道を通った人間がみんな行方不明になると思ってやがる。
ボスはソンケーはしてるけど、少し嫌な性癖がある。でもそれに目をつぶれば最高のボスだし、頭もいいし、分け前もくれるし、何より強ぇ。惨めだった村での生活に比べれば、天国にでもいるような気分だった。
屋敷の周りを見回っていると、 子供のような声が聞こえた。
なんだ? と思いながら身を隠してみてみれば、3人の子供がオークの死体を囲っていたのだ。
子供のうち2人は材料の採取を始めているのか、手に持っている刃物にべったりと紫がかったオークの血を付けている。
なんだ、たまたまオークの死体を見つけたガキか、ボスに報告するまでもないし、軽―く俺が追い出そうか、でも面倒くせぇなぁ……
そう思った時、血まみれのガキ2人の近くに居たもう一人子供、赤毛の女の子の顔に目がいった。
――かわいい。
真っ赤な髪は乱雑に切られていて、その可憐さに一目見ては気づかなかったが、大きくクリクリとした眼に、小さな唇。白い肌は赤い髪と映えて、よりかわいらしく見える。ちゃんと整えてやれば、すげぇべっぴんになりそうだった。
ボスが気に入りそうだ。あの赤毛の子をボスに貢ごう。
そうすれば俺の盗賊内での地位も上がるし、いい女も買える。いいことずくめだ。
無防備に川へと水を汲みに来た赤毛の獲物へと、後ろから近づき身体ごと抱え、俺は走って拠点へ戻った。
「暴れれば殺す」そう言えば赤毛の女の子はすぐに大人しくなったし、他の泣き叫ぶ連中よりよっぽど扱いやすい。
拠点に居るバカな女共と違い、頭のいい子だと思っていた。
今度は長持ちするといいなぁ……子供を埋めるのは、どうも後味が悪りぃからな。
「最高じゃねぇかニューマン! 今日ほどお前を仲間に入れてよかったと思った事はねぇぜ!」
「ありがとうございやすボス!」
「ほかに異常はなかったか?」
「ん? ええっと、なかったっす!」
赤毛の女の子と一緒に来ていたガキ共の事、すっかり忘れてた。
侵入者を放置してきたなんて知られちゃぁ、俺が怒られるし、ボスに怒鳴られるのが嫌で咄嗟に嘘を付いちまった。
けど別にいいだろ、ここらじゃ行方不明は珍しいことじゃねぇし、この拠点は知られちゃいねぇ、万が一発見されたって、ガキ二人に何ができるっていうんだ。
口に布轡を咬ませた赤毛の女の子は何やらもごもごと言っている。くそ、このガキ、俺が今ボスに嘘ついたことチクる気じゃねぇだろうな……
「赤毛のおじょうちゃん、名前はなんていうのかなぁ? ニューマン! 布を外してやれ!! 可愛い声が聞こえねぇだろ愚図が!」
「へっへい、ぼす」
言うなよ言うなよ、俺がガキを見逃したなんて言ったら、お前の友達を殺さなきゃいけねぇ。
女の子の耳元でそう言いながら布轡を外す。
「お嬢ちゃんお名前は?」
「クソ野郎、地獄へ落ちろ」
「あぁ、生意気な方が可愛いってもんさ。けどなァ礼儀は弁えねぇといけねぇ」
ボスはそう言いながら赤毛の女の子に近づいて、肩に手を乗せる。
ビクリ、と女の子は肩を動かしたが、気丈な性格なのか、ボスを睨む目をやめようとはしない。
「この若さだ、きっと綺麗な身体なんだろうなぁ……日に焼けた肌の下はどうなってるのかお兄さんに教えてくれないか?」
小さく震えている赤毛の女の子は歯をむき出して、ボスの顔に向かって「ペッ」と唾を吐きかけた。
「っにすんだこのクソガキ」
ボスの顔にべちゃりと唾が着くと同時に、ボスは眉を顰め腕を振り上げて、女の子を殴りつける。「きゃあ」という声と共に、赤毛の女の子は床へと、どしゃっと音を立てて倒れた。
「しつけのなってねぇガキだ。ニューマン。地下牢にいれといてやれ、時期に素直になる。
あいつらみたいにな……」
「へいボス」
震えている女の子の肩を支えて地下牢まで向かう。
女の子は泣かなかったが、震えていた。
かわいそうになぁ、でも仕方ねぇよ。あんなところにひとりでいたお前が悪いんだぜ?
俺がしたのは仕方ないこと、ボスへの貢ぎ品は大切だし、気に入られたいし、この子には少し同情するがなぁ。
昼間から酒を飲んでいる仲間を素通りして、女の子を地下牢へ投げ込んだあと、ボスの元へ帰る。
ついさっきまで酒を飲んでいた仲間達は、飽きたのか寝入ってしまっていた。
まったくこの盗賊団で一番の働き者は俺だぜ……
ニューマンが異変に気付くまで、あと少し――
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次回:盗賊ニューマンの悲劇




