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彼は聖女を愛している ~ 追放された貴族の子 ~   作者: ピテクス
第1章 -交易都市ハンデル-
22/87

20 初仕事はお上手に



 トニックは、木箱を担いでいた獣人を呼びつけた。牙が大きな豚鼻の猪に似た獣人に、説明してやってくれと頼むと、自身は元の船からの荷降ろしを確認する仕事に戻っていった。責任者なのだろう、朝だというのに色々と忙しげであった。


 呼びつけられた猪っぽい獣人はトニックから説明を受けると、鉄製の僕の拳ほどの大きさのコテと、僕が小さくひざを抱えれば、すっぽりと身体が入ってしまいそうなかごを持ってきてやってきた。

 毛深い牙を持った男はスゥッと息を吸い込むと、良く響く声で僕らに聞いてきた。


「怪我してないか! 少しでも血が出てる場所はないか!」

「ありません」

「ないぞ」

「そうか、じゃあこれで船底についてる貝を取ってこい」


 ぽんと籠とコテを投げるように渡され、あわてて抱えて受け取ると同時に驚くべきことを言われて、僕は目を白黒とさせた。その横でトーズは僕の反応を楽しむように悪戯っぽく笑っていた。ジェリーはそんなトーズを見てあきれるように頭を抑えている。


「……はい? 船掃除って船の人が乗る場所を掃除するんじゃなくて?」

「そんなのオレらでも出来るだろ。お前らが掃除する場所は、甲板じゃなくて、船底。

 海に浸かってるままの船底についている貝を取るのが仕事内容だ。このカゴのいっぱいで依頼達成だ」


 植物のつるで編まれているからか、見た目よりは軽いその籠を背負いながら、頬が引きつる。


「詳しい事はそっちの、トーズだったか? が教えてやれ」

「まかせろ。このコテで船底についている貝をそぎ落として籠に入れるんだ。船を傷つけないようにするのにはちょっとしたコツがいるけど、レオならすぐさ。コテに魔力を這わせて魔力で引っ付いてる貝の間に差し込むんだ」

「ちょっと、その前に……水の中って息はどうするの」

「気合だ」

「……きあい」

「あとサメが来たら頭殴って殺せばいい」

「え?」

「口に手を突っ込むと怪我するからな、頭を殴ればいい。思いっきり殴れば死ぬからな」


 何を言っているんだこいつは。


 サメといえば、聖女様が教えてくれた。海にいる生き物で、船に乗り上げて人を食べたり、"さーふぁー"という職業についている人が好物の、すごく怖い生き物のはずだ。その恐ろしさを聖女様は語ってくれた。閑静かんせいな漁師町が恐怖に沈む原因となった恐ろしいサメ……ジョズーの恐ろしい伝説を――


「水の中でサメと戦うとか気は確かなの?」

「だから金払いがいいんだよ。俺以外の兄貴分は皆死んじまったけどさ……」


 小さいながらにその中で生き残ってきたトーズは確かにこの道のエキスパートなのかもしれない。だが命を張る報酬額とは到底思えない金額に寒気がした。


「一人だと流石に死にそうだから最近はやめてたんだぜ。ジェリーに止められたしさ」

「なっなるほどね」

「お前はまだサメと戦えなさそうだから、貝取りは任せた。サメは俺が全部やっつけてやるよ!」


 少し心もとないが、経験者がいるというのは頼もしい。

 問題は、僕が海で泳いだことがないってことくらいだろうか。川や海で泳いだ経験は無いが、敷地内にある噴水には、兄に苛められてよく投げ込まれていたので、なんとか泳ぐことは出来るだろう。けれど深いところに潜った経験はないし、海流というものを体感したことはない。


「僕、海では泳いだこと無いんだけど」

「最初はみんなそうだ、泳げるようになるぞ」

「泳げなかった人はいないんだね、なら安心だ」

「あぁ、泳げなかった奴らは生き残ってないからな。いないぞ」


 トーズの言葉に頭を抱えそうになる。

 助け舟を出してもらえるようにジェリーを見れば、トーズの説明にジェリーも呆れ顔だった。


「海ではってことは泳いだことはあるのよね?」

「うん噴水で」

「フンスイ? まぁいいさ、それと大体同じだよ、船の底って言ったってそんなに深くないはずだから大丈夫。苦しくなるちょっと前に浮かんできて息継ぎすればいいのよ」

「わかった、とりあえずやってみるよ」

「まぁ俺様が助けてやっから任せろって」


 不安でしかない。そもそもトーズは口ぶりからすると教えることが壊滅的に下手くそだ。泥で出来た船に乗るような気分だ。

 けれど僕がここで帰ってしまえば、契約不履行けいやく ふりこうになってしまい、ギルドから罰則がされる上に、初めて依頼を受けたトニックからの印象も悪くなるだろう。それは流石に避けたい。命を張る金額には似合わないが、今回ばかりは我慢するしかない。


 それに、ここのサメは子供のトーズでも倒せるようなサメらしいし、聖女様が語ったような恐ろしいジョズー伝説のサメではないだろう。なんとかいけるかもしれない。そんなに怖がることもないだろう。


「んなに怖がるなよ、大したことないって」

「わかった、そこまで言うなら大丈夫だよね」


 それにサメは魚だ冬に食べるフィッシュパイの友達だ。魚は僕らに食べられる存在だし、好きな食べ物だし怖がる必要なんてない。僕は食べたことはないが、聖女様は魚で作るスッシーという料理が好きだったらしいし、なんならスッシーにして食べてしまえばいい。



 そう海に入るまで、思っていた僕を殴りたい。



 深い青色が360°広がる水の中、トーズと共にジャバンと音を立てて飛び込めば、僕らを歓迎するように、白い歯をにっと笑顔を浮かべて――



 大きなサメが出迎えてくれた。



いつもお読みいただきありがとう。

いいですよねサメ。とてもいいカッコイイ。^////^

次回:サメ イズ シャーク

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