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彼は聖女を愛している ~ 追放された貴族の子 ~   作者: ピテクス
第1章 -交易都市ハンデル-
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17 スラムの子供



「他の子たちは死なせる気か?」


 自分の口からは、思っていたより冷たい声色で言葉が出てゆく。


 今後を見据えるのならば、

 怪我をしている子や、やせ細った子供たちの事を本気で考えるのならば、

 僕に残った金額を返すべきではない。それこそ借りてでも一時的にこのお金を手に入れる必要があるはずなのだ。


「また盗んで生計を立てるのか、僕から盗まなければ他の人から盗むんだろう? それで何になるんだ、この子も盗んだ制裁として怪我をさせられたんだろう? また繰り返すのか」


眉間にシワを寄せながら、苛立ちを隠せないように言った僕に、トーズは反論した。


「んなこと言われたって俺らが稼げる額なんて知れてるんだよ、ボンボンにはわかんねぇだろうけどな」

「あぁ分からないね。罰されて稼げなくなるリスクを考えれば、君たちが罪を犯す利点なんて少しだって無いんだから」

「難しい言葉ばっか使いやがって! 何が言いたいはっきり言えよ」


 痺れを切らしたのか、短気なのか、トーズの声色に怒りが含まれているのが分かった。

 僕は端的に自分が思ったことを口にする。


「僕は君たちを手助けしたい」


 ぽかんと、口を開けてジェリーとトーズは僕を見ている。

 勝算はあるのだ。口先だけで言ってるんじゃないという事を証明するように、僕は考えたことを説明した。


「さっき仕事もらいにギルドに登録してきたんだけど、そこにある依頼をざっと見てきたんだ、手分けをして時間を決めれば、子供数人がかりでも出来るはずだよ。ギルド側からすれば依頼を達成さえすればいいはずだから、問題はないだろうしさ」

「ま、まて」


「確かに拒否感があるのは分かるよ、靴磨きは屈辱だろう、くつだけにね、ははっ

でもやっぱり生きてゆくためには多少の自尊心は捨てなくちゃね」

「だから、まてって」


 ジョークをスルーされて少しヘコみながらも、気にせず話をすすめる。


「いいや、これは君たちのためになると思うんだ押し付けがましいかも知れないけれど、10になればギルド内で危険な上級依頼も受けれるらしいし、その中には簡単そうなのも……」

「俺の話を聞け!!!」

「え、なに?」


 声を荒げられたので、僕は驚いて説明を止めた。

 少しヒートアップしてしまったみたいだ。ちょっと恥ずかしい。


「あたしも、ちょっと気になるところ聞きたい」


 行儀良く、礼儀正しく、手を上げて質問を投げかけてきたジェリーに僕はニッコリを笑顔を向け「どうぞ」と質問を促せば、少し顔が赤らんだ気がした。


「ギルドに登録して仕事を貰うって、あんたボンボンだよね?なんで仕事なんかもらいに行ったんだい?あんたみたいな人なら、父ちゃんや母ちゃんが好きなもの買ってくれるだろ?わざわざ仕事する意味なんて……」

「あぁ、今の僕には両親どころか、家族の一人もいないからね、この街で生きてゆくためには働く必要があったんだ」


そして僕はまた目的のためにあの街へ帰らなくてはいけない。


「なんだイケすかない×××(ピ――)野郎かと思えば立場は俺らと一緒かよ」

「そういう言葉はよくないよ、だから君はクソガキさんなんだ」


 まったくジェリーと違ってトーズは礼儀の"れ"の字も知らない。仕事を受ける上ではそういう所は改めて貰わないといけないだろう。これじゃ依頼主を怒らせてしまう。


「とにかく、今後を見据えるのなら盗みなんかで生計を立ててちゃだめだ。不安定だし、今回のあの子のように殺されかけてちゃ、大勢の子供を養えない。法に触れずに少なくても安定的な収入をひとまず得る必要がある、だから」

「言ってることあんまわかんねぇんだけど」

「えーっと、盗んで殺されるより、殺されない仕事を思いついたんだ。ギルドから貰った仕事で明日の朝に開始する仕事があるから、ひとまずその仕事を一緒にしようよ」


 長々と話してしまったことを指摘されたので、極めて端的に言った。トーズにとっては難しい単語を多く使い丁寧に話されるより、手短に言った事がよくわかるらしい。

 トーズは少し考えたあと、こくんと頷いた。


「ひとつだけ聞かせてくれ、なんで、そこまで?」

「目の前に困ってる人が居たら助けるなんて普通のことでしょ?」


「俺らには、普通じゃねえよ。街の人達にとっても……」


 少し伏目がちにして、トーズは地面を見ながら苦笑いを浮かべたあと、まるで太陽でも上ったかのように、からっとした笑顔を見せた。


「けど、貸しはあんまり作りたくねぇ、今オレらに出来ることとかあるか?なんでもするぜ」

「うーんそうだなぁ、あぁそうだ。安い宿を教えてよ。今日宿泊する宿は少し割高なんだよね、他に安いところあったら教えてほしいんだ」

「まかせろ」


 歯の抜けたボロを着て汚れた少年は、初めて僕に笑顔を向けてくれた。



お読み頂きありがとうございます。^^

次回: 一般的 魔法事情

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