第六話 「幼い魔王は運が良い」
話が進まず申し訳ないです。
もう少ししたら人型の仲間を増やすつもりなので、どうぞお付き合いください。
「リア、戻ったぞ!」
「お帰りなさいませ、坊っちゃま。ーースライムですか。うまく契約を交わせたようで何よりです」
レヴィを送り出した時から変わらない姿で立っていたリアは、意気揚々、といった様子のレヴィとその隣の青い粘液ーースライムを見て顔を綻ばせた。
「レヴィ様、この魔族は?」
「うむ、小さい頃から余の面倒を見てくれているめいど? だ」
「お初目にかかります。リアと申します」
リアは堂に行った動作で深々と腰を曲げる。その仕草には敬意と感謝が宿っていた。
(どっかで見たことがあるような気がするんだが……)
スライムも返事をしながら、記憶を辿る。それは自分が先代魔王に仕えていた辺りの頃だと思ったが、いまいちぱっとしない。
(まあ、いいか)
スライムは思い出すことを諦め、取り敢えずこれからの予定を聞くことにした。
「それでレヴィ様、俺はダンジョンで仕事をすればいいってことですよね?」
「うむ! 余のダンジョンはまだ魔物がいなくてな。これから増やしたいとは思っているのだが……」
「お二人とも、あまり長く立ち話をしていると日が暮れてしまいますので歩きながらにしてもらえると助かります」
リアはひょいっとレヴィの身体を抱き上げてしまう。朝に出発して昼頃着いた、ということはすぐにでも帰らないと夜が近づいてくるということである。
夜は魔物の時間。
絶対不変の原則。いくらリアといえど、あちこちから出現する魔物をレヴィを守りながら倒すことはできない。ならばそうならぬ内に帰ってしまうのが一番だ。
リアはレヴィとスライムの了承を受けて歩き出す。
「ふんふん、レヴィ様はダンジョンをつくったばかりということなんですね。 そうしたらまず[ダンジョン評価値]を上げることを覚えましょう」
「[ダンジョン評価値]?」
「はい。[ダンジョン評価値]というのは、そのダンジョンがどれだけのもんかっつーのを数字で表したものです。魔物がどれだけいてどのくらい強いか、広さや階層、採れるものなど、全ての事柄が影響してきます」
[ダンジョン評価値]。
これもまた先代魔王が生み出した画期的なシステムの一つである。
先代魔王誕生からしばらくののち、人間種は魔物の駆除を「冒険者」と呼ばれる職業が行うことになっていった。
数十年といえば子供が大人まで成長し、大人は老人、または天へと召されるほどの時間。油断していたわけではなかったが、それでも多くの人間種が戦うことを忘れてしまう。
しかしながら、当然戦がない分魔物達は増え魔王からの指令が末端まで行き届かないようになれば人間種は被害を受ける。ここで知れ渡り始めたのが冒険者だ。
戦うのが好きな者、狩人、村で警備などをしていた者……etc.
彼らは人々の暮らしを守ったり、魔物を狩って治安維持に務めたり、はたまたその素材を日々の生活に役立てたり。それから数年も経たないうちに彼らの地位は盤石なものとなった。
ただ、そんな彼らに憧れてしまう子供達も出てくる。魔物を狩って人々にちやほやされ、なんて職業は羨望の的なのだろう、が、冒険者とはきちんと戦う術を学んだ一握りだけがなれる存在。
夢見て魔物に挑んで命を失う子供、中途半端な強さで戦って無惨に人生を終わらせる青年。そんな忌むべきことが何回も起こってしまう。
そして人々が考えたのが、冒険者達の地位を確立し、また制限しようとする「冒険者ギルド」である。
国が補助金を出してまで立ち上げたその団体は、その名の通り冒険者をとりまとめる役割を持っていた。
村や町から魔物駆除の依頼を受け、それを「クエスト」と呼ばれる形で冒険者に斡旋することや、冒険者達に強さに応じたランクをつけて受けられるクエストを制限すること。
また、一人はみんなのために、みんなは一人のためにという理念で、冒険者が数人集まって構成する「パーティー」制度をつくり、その活動を支援すること。
多くの冒険者から聞いた情報から魔物に「評価値」という倒すための難易度のような数値をつけること。
魔物駆除だけでなく、薬草であったり鉱物であったり、また人助けなども依頼として冒険者に仲介すること。
人間種領を訪れた先代魔王は、立場的には自分の配下である魔物が人間種に及ぼしている影響、そして冒険者ギルドについて知ることになる。
先代魔王が特に感心し、己の作ったダンジョンシステムにまで流用した[評価値]こそが[ダンジョン評価値]の原型なのだ。
魔物を強さや繁殖力、耐久力、その他沢山の事柄から決定した[評価値]。先代魔王は、このシステムを「人々がどのダンジョンが魅力的か」を考えるためにぴったりだと思い、その仕組みを採用した。
人間種がつくった[評価値]はそのまま使用、そして度重なるリサーチで需要、希少性を掴み、鉱物や薬草の評価値を作成、面積と部屋数と階層数でダンジョンの外枠を評価。
その数値を全て足したものが[ダンジョン評価値]で、ダンジョン評価値を前日に利用した人数で割ったものを[ダンジョン人気度]という。ダンジョン評価値は高いほど良く、人気度は1が限度のため1に近いほど人気、というわけである。
そして利用者側はその二つの数値をどこで見ればよいかというと、先代魔王がかつて交渉相手としていた国の現在ーーレヴィ達のダンジョンが位置する「イルキシュア王国」発行の「ダンジョンの地図」で知ることができる。
地域ごとに作られたダンジョンマップにはその地域にあるダンジョンの場所が書いてあり、また触れたダンジョンの名前とダンジョン評価値、ダンジョン人気度が浮かび上がる。ダンジョンマップは魔道具であり、各地域のダンジョンクリスタルと連動することにより買い直しなどを必要としない。
ちなみに何故他の国や地域のダンジョンマップもイルキシュア王国が作っているかというと、そもそもダンジョンクリスタルと同じで製法自体イルキシュア王国しか知らないからだ。
その理由はきちんと存在するのだが……今はいいだろう。
また評価値の情報は、ダンジョン生成後に[ダンジョンの核]となったダンジョンクリスタルに書き込まれている。その情報が様々な術式のうちの一つの効果により地図と連動されているーー
「な、なんだか難しいな……。要するに[どれだけ凄いか]ということ、か?」
相変わらずお姫様だっこをされているレヴィは、しばらくかかって終わったスライムの説明に首を傾げた。とはいいつつも大方のことは理解しているらしい。
「まあ、そうですね。俺をダンジョンに配置してもらったら多少なりとも評価値は上がると思うので、人が減らない内に新しい魔物を探したりダンジョンを強化したりして欲しいところです」
スライムの歩き方……進み方は地面を這っていくというもので、かなり早いはずのリアにも全く苦にせずついていっている。はたから見たら青い粘液がずるずる進んでいるようにしか見えず少し無様だが。
「魔物か……。おすすめの魔物とかはいるのか?」
レヴィは初めて見る魔物という存在に、聞いていたほど怖くはないな、と思うと同時に親近感を抱いて他の魔物とも会ってみたくなってきた。
「やっぱ最初は俺みたいなスライムっすね。数がいる上使いようによっちゃそれなりにいやらしい相手になるんで。後はゴブリンだとかがどんな地形でも活躍できるのでそこらへんですかね」
打てば響くようにすらすらと答えるスライム。そんな彼とレヴィの会話をよそに、リアはこのスライムの評価を高めていく。
(このスライム……。中々やりますね)
坊っちゃまの教育係は私だ、なんていう独占欲に近いものが湧いてしまうが、魔物に関しては同じ魔物のほうがいいだろう。適材適所だ、と自分を納得させる。
「どこにいるかとかは分かるか? 街で地図などの情報を買ったほうがいいのだろうが、何分お金がなくてな……」
「ああ、それなら俺の頭にどんな種族がどこに住んでるみたいなのは入ってるんで、地図をつくりましょう」
スライムの頭が果たしてどこかなのか、そんな興味が湧くが、スライムの体なんて青い粘ついた液体でしかない。意識的な問題だろうとリアは気にしないことにした。
「おお、それは助かる!」
リアは腕にかかる重みを堪能しながら、この一時の散歩を楽しんだ。
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