第五話 「幼い魔王は仲間が欲しい」
予約設定を明日にしていました、申し訳ありません。
木陰から勢いよく飛び出したレヴィが見たのは、一心に木に実っていたと思われる赤い果実を貪る半透明な青色の粘液だった。
「……こ、これが魔物?」
貪る、という表現が正しいのかは分からないが、果実を体内に取り込んで溶かしていく様子は食事という他ないだろう。
レヴィも思わず毒気を抜かれて棒立ちになってしまう。
形容しがたい水音が一人と一体の周りを覆い尽くしていた。
やがて青い粘液が地面に落ちていた果実を全て消化しきった頃。
(な、なんと声をかければ良いか分からぬ……)
レヴィはそんなことを悩んでいた。手を伸ばしては引っ込め、口を開けかけては閉じて。
(ここは無難にお主にーー)
と、考えがまとまったその瞬間。
「はぁ、食った食った!」
「ひゃわっ!!?」
青い粘液から突然野太い声がし、レヴィは対照的な高い声で悲鳴をあげながら飛びずさる。
心なしか、ぺたんと尻餅をついたレヴィへと青い粘液が方向を変えたようにも見える。もっとも、目や手などの体の向きを判別できるものはついていないのだが。
「何だ? ……人間、いや魔族? にしてもこの匂いは……」
「よ、よ、余はレヴィアストル・クラディール! おおおおお主を余のダンジョンに迎えいれたゃいっ!」
「「…………」」
あまりに見事に噛んだレヴィに、沈黙が訪れた。
(……クラディールってことはやっぱりか。これも何か縁、てことだな?)
青い粘液は表情を見せずに思考し喋り始める。
「んんっ。坊主、ダンジョンってことはつまり俺と主従関係を結ぶ、そういうことだ」
「う、うむ」
「じゃあ何か俺にくれないといけないんだが……。金目の物とか持ってないか? なんでもいいぞ」
「物……。余は無一文なのだ……」
レヴィは改めて自身の現状を理解してしょぼくれてしまう。それから、きゅっと唇を引き結んだかと思うとそのマントを剥ぎ取り、差し出した。
「唯一差し出せるものは父上の形見であるこれくらいしか……。だが、父上なら余のためと言って笑って許してくれるだろう……!」
金糸の装飾が施されたそのマントと、レヴィの言葉を聞いて青い粘液は全力で否定しにかかる。
「そんなもん受け取れる訳ないだろ! カスタロフ様の形見ーー おっと」
「カスタロ……父上を知っているのか!?」
青い粘液はうっかりといった様子で言葉を止めた、が、レヴィが噛みつかない筈がない。掴みかかる勢いで青い粘液に詰め寄った。
「そりゃあ、まあ、な。とりあえずその話は後でするとして……。坊主、あのニンゴをいくつか取れるか?」
「……ニ、ニンゴ?」
「この木になってる赤い果物のことだ。主従契約にはなんらかの対価が必要だからな」
レヴィは濁されるまま頷いて、木の上を眺める。
「この木、やけにつるつるなのだな……。ならば、一昨日リアに教わった魔法で……!」
表情を真面目なものに変えて集中モードに入ったレヴィは、ぶつぶつと呟いてからやがてその腕を伸ばした。
レヴィが目を閉じて深呼吸するのと同時にレヴィの短い腕の周りの空間が歪み始める。実際にはレヴィが体内のマナを腕に集中させただけなのだが、側から見ればそうとしか見えない。
(魔法が使えるのか。誰が教えたんだ?)
青い粘液はじっとその様子を見物する。その心中にはさまざまな感情と疑問が渦巻いているーー
やがてレヴィが目を開け、バッと掌を広げて叫んだ。
「『エア・ブラスト』!」
明確に発声された力ある文言が世界に干渉し、使用者の望む現象を引き起こす。
空気がレヴィの掌に集まり、圧縮され、耳をつんざく轟音のあと射出された。その空気の塊の速度は大して早くないが、木の葉の中、それも果実が多く実っているところに着弾すると、勢いよく破裂する。
破裂と同時に数個の果実と大量の葉が落下した。
「おお、成功だ! ……よし、このくらいの量でよいか?」
自分の魔法に喜びつつ果実を拾ったレヴィは、そう聞きながら青い粘液へと差し出す。
「中々の魔法だったな。対価もこれで十分だ。
じゃあ、今から俺が言った通りに復唱してくれ」
「うむ!」
「ダンジョンの管理者レヴィアストル・クラディールが望む。我の差し出す対価に応じ、我に従え、だ」
青い粘液が教えたのは、魔物との主従契約を結ぶための文言だ。ダンジョンの管理者である存在が頼みを聞いた魔物に対して唱えることで契約が成立し、その魔物がダンジョンに配置できるようになる。
「で、では言うぞ。……ダンジョンの管理者レヴィアストル・クラディールが望む。我の差し出す対価に応じ、我に従え!」
レヴィが赤い果実を抱えたままそう唱えると、レヴィと青い粘液の身体が淡い光に包まれ、お互いの体から出て来た光の線が繋がった。その光の線はゆっくりと伸び、ゆっくりと繋がり、ゆっくりと戻っていく。
「おし、契約完了だ。これから俺はレヴィ様の配下、思う存分使ってくれ」
「不思議な感覚だ……。これが主従契約なのだな」
光の線が繋がった瞬間自分の命が一つ増えたような感覚を味わったレヴィは、青い粘液に向き合って頭を下げた。
「余の初めての配下だ。よろしくお願いするぞ」
この日、レヴィはまた一歩成長した。
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レヴィ「余からもお願いするぞ」
青い粘液「それは俺への台詞じゃないんですか……?」
レヴィ「また次も読んでくれると嬉しいぞ!」