第二話 「幼い魔王は知りたい」
続きは本日もう一度投稿します
ダンジョン生成から十二日目。
ぱちり。
身体が自然に七時になったことを知覚し、リアの意識はぱっと一瞬にして覚醒する。
リアがこの小さな部屋で目を覚ますのは今日で十一日目だ。が、しかし足の上の重みと温かさは初めてのもの。
(このままもう一日でも寝れそうですが、今日は坊っちゃまに魔物を連れてきてもらいたいので……)
リアは名残惜しそうに優しく未だ眠りこける男の子ーーレヴィを揺らす。
「坊っちゃま、朝ですよー……」
出来ればもうまだ起きないでほしい、そう思ったリアの期待を裏切るようにレヴィはあっさり目を覚ましてしまった。
「んむぅ……。おはよう、リア……」
ただ、レヴィは眠たさ故か体重をリアに預けるようにもたれかかる。
「おはようございます、坊っちゃま。……まだおねむですか?」
「うむ……」
レヴィの長めの金髪を愛おしそうに梳くリア。レヴィもレヴィで微睡んでいるようだ。
「坊っちゃま、今日は魔物を探しに行きたいのですがいいですか?」
「ん、リアが決めたなら余はそうする……」
「了解しました」
二人はこんな調子でしばらくまったりと朝を堪能していたのだった。
「リア、余は準備おーけーだ」
レヴィが今身に付けているマントとタキシードのようなものは一着しかなく、服自体その他に布でできたごく一般的なものしかない。
そのため着替える必要が特にないレヴィは顔を洗ったりといったことですぐに準備を終える。
「私はまだなのでもう少し待ってください」
「うむ、ゆっくりでいいぞ」
今朝まで二人が寝ていた小部屋には、ダンジョン管理用のパネル、例の豪華な椅子、そして扉が一つだけあった。そして今レヴィは小部屋に、リアはその扉の向こうにいた。
ダンジョンの管理者はダンジョンの様子に応じた広さや質の別空間の居住施設を得られるのである。レヴィ達の[始まりのダンジョン]はダンジョン生成から何もしていないため、現在は二つの部屋が使用可能だ。
リアのアドバイスのもの二人が決めた分け方は、片方が生活用、もう一方が物置。生活用は、基本家として使う部屋で、物置は食料や水、服などを置くで、着替えをするときは物置に行く、という交わし事もある。
ちなみに居住施設の材質に関してはダンジョンの壁、床の材質の中から選択可能、広さはダンジョン自体の広さに比例、部屋数は階層数に比例である。
ぱたんと扉が開き、リアが出てきた。リアの服は三着分着まわしであり今着替えたらしいのだが、大きな変化はその装備だ。黒のワイシャツとスカートに溶け込むようにして左腰に漆黒の刀、右腰に短剣が数本、背中にはリュックサックを背負っている。まるで戦にでも行くようなーー
「坊っちゃま、お待たせしました」
「うむ! では余に掴まるのだ」
「はい、失礼します」
リアは椅子から降りたレヴィの肩に触れる。胸を張るレヴィだが、身長差はそれでもは二倍近くもあった。
「『転移:ダンジョン入り口』!」
一拍呼吸を置いたレヴィは力ある文言を口に出す。すると、二人の身体に光が纏わり付き、次の瞬間部屋には誰もいなくなっていた。
人間種領の中央に位置する大国「イルキシュア王国」。そこから南に伸びる道沿いの両脇に広がる平原。
一面に低い草が生え、何にも遮られることなくさんさんと太陽の光が降り注いでいる。春の陽気な空気は暖かく、しかし何処にも人影は見えない。
そんな穏やかな平原に、ぽつんと岩の塊と、一枚の木の板が存在していた。よく見てみれば岩の方は洞窟の入り口のような形を模していて、木の板は看板のようだ。
[始まりのダンジョン 100G]
と黒い文字で書かれている。
動くものは草くらいであり、ずっとそれは続くと思われたが、突如として岩の横に二人分の人影が生まれた。いや、光の塊から出てきたというのが正しいだろう。
「今日も良い天気だな」
「私も散歩は好きですけど、坊っちゃまのお肌が心配です……」
太陽の眩しさに目を薄めながら出てきた二人は、あらかじめ決めてあった方角へとまっすぐ足を進める。
二人が目指すのは街道を向いたダンジョンの入り口の正反対、つまり地図上での西に当たる。
そちらにはしばらく先に、低い木がまばらに目立つようになり何より魔物と呼ばれる存在が生息しているのだった。
「なあリア」
「はい、なんですか?」
てくてくと小さな歩幅で歩くレヴィに、その隣をぴったり追従するリア。
「目的地に着くまで、父上がしたことをもう一度教えて欲しいのだが……。あとは、余の"チカラ"についても」
「……少し長くなりますが」
「うむ。いつまでも知らぬふりをしていてはいけないと思うのだ」
「では、まず魔王のチカラについてお話ししますーー」
魔王のチカラ、それは魔物を操り、魔王の象徴とされる魔王城の主となるというものである。
魔物とよばれる、魔力を帯びて異質な動物。
彼らは大気に満ちるマナの影響を受けて生まれ落ち、本能的に人間種を憎み、その強靭な肉体と生まれ持った魔法で見かけ次第攻撃する。
魔王はそんな魔物を意のままに操る能力を持っていた。そして魔王城の管理者権限も。
魔王城は現在のダンジョンの原型となった、城状の魔王の居城である。ダンジョンと同じように中で魔物が死ぬことはなく、更には魔王に仕える魔族も同様パワーアップされ不滅。
要するに、人間種側からすれば魔王討伐に際してのラストステージであり、魔族にだけ特別有利な最難関でもあるのだ。
勇者も同じようなチカラを持つ。具体的には、自分を支持する者への支援効果効果や
魔族への攻撃が強まるといったもの。
魔王と勇者のチカラのせいで長年争いは止むことがなかった。
「余もそのようなチカラが……!」
立ち止まって自分の手を見つめ、唖然としたように呟くレヴィ。そんなレヴィを、リアはお姫様抱っこの要領で抱きかかえてしまう。
「なっ、リア?」
「夜までに帰れなくなってしまうので、移動の際はこうさせていただきます。あと、残念ですが坊っちゃまに宿るチカラは少しというか、かなり弱いものです」
抱き抱える前と全く変わらない速さで歩きながらリアは話を続ける。
「元々子供だからといって魔王や勇者のチカラは受け継がれたりしません。坊っちゃまが魔王のチカラを持つのは、ダンジョンクリスタルのように先代の魔法のお陰なのです」
「父上は何のためにそんなことを……?」
「全て坊っちゃまの為、愛し、守りたいが為ですーー」
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