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第十話 「幼い魔王の第一歩」

10話


ダンジョン生成から十三日目






夜になり、もう冒険者が来ないと判断したレヴィはスライムを多目的室へと呼び出した。


結局この日はノルディスの後に三人ほどダンジョンへ来たのだが、全てスライムに瞬殺、という結果で終わっていた。



「お主はただのスライムではないのか?」


レヴィは椅子に腰掛けたまま目の前にいる青い粘液へ問いかける。


「リアの話では普通スライムは弱い、とのことだったのだが……」


しかしレヴィはこのスライムを[配置]する時種族名がスライムとなっていることをしっかり確認しているため、より不思議なのだ。

ダンジョンのパネルは誤魔化せない。これは絶対である。


「そうですね、スライムですけど、ただのスライムですけど、ちょっとばかり強いです」


((ちょっとばかり?))


ノルディスのすぐ後に来た、筋肉ダルマのような巨漢をあっさり殺すほどの強さがちょっとばかりのはずがない。

珍しくレヴィとリアが同じことを思った。


「な、なるほど。その理由とかは分かるのか?」


「まあ一応カスタロフ様ーー先代魔王に仕えるスライム全体のリーダーなんかやってたんで、当たり前っちゃ当たり前なんですけど」


軽く言ったスライムだが、その言葉はレヴィとリアにとってかなり大きい。


「ち、父上の部下だったのか……」


(まあやはり、という感じですね)


今は亡き自らの父と関わりのあった人物ーーいや、魔物と出会えたことに深い何かを感じるレヴィ、スライムのその強さに納得したリア。

二人の反応を見ながらスライムは続ける。


「勿論先代が主人の間にこの力を使う機会はなかったです。それより俺の名前とダンジョン強化について考えてもらえると嬉しいです」


先代の話はまた今度にしましょう、と正にそのことを聞きたそうにしていたレヴィは少しがっかりしたような顔になるが、意識を切り替えてスライムの言葉に耳を傾けた。


「スライム、だと他のスライムが増えた時が面倒臭いですし、名前がないと本当の力を出せませんから。なんでもいいですよ」


所謂[真名]である。

魔物は主人とする存在に名前を貰うことで真の力を発揮することができるのだ。その真の力、というのは、個体差にもよるが普通通常の力の数倍から10倍と言われている。



「なるほど……。なら余のレヴィアストルからとってレアル、はどうだ?」


思いの外ぱっと決めたレヴィ。スライムは喜色がはっきりと見える言葉で受け入れた。


「良い名前ですね。ありがとうございます」


と、スライムーーレアルがそう言うと、レアルの体が淡く発光し、薄暗い多目的室に僅かな明るさを齎す。


レアルが主人であるレヴィから名前を受け取ったことを示す現象だ。

これによりレアルの力は大きく上昇したはずである。


「うむ!」


レヴィは満足気に頷いた。


(名前から取る、か。親子ってのはこういうところで似るんだな……)


二百年近く前のことを思い出し、あまり似てないような先代とレヴィの意外な共通点を見つけ、レアルは無い顔を綻ばせる。残念なから以前の名はとうに失われてしまっているが、あの日の喜びは今でも忘れることが出来ない。



「んで、ダンジョン強化の方なんですが。俺が配置されてダンジョン評価値が上がったことで、多くの客が来るようになりましたーーつい今日も四人来ましたし。そして同じように増加した入場料のおかげで、多分何かしら強化できるくらいお金が貯まってるはずです」


レヴィはそう言われ、パネルのある壁と反対向きになっていた椅子から降りようとするが、またもレアルが口を挟む。


「あ、その管理用のパネルは管理室、じゃなくてこの多目的室内だったら何処にでも出現されられますよ。ちょっと空間に浮かぶよう念じてみてください」


「うむ……? 分かった。……ぬ、ぬ〜ん!」


レヴィは椅子に座り直し、目を閉じて唸った。

少し、いやかなり滑稽だが、レヴィ当人は必死にやっているつもりである。


するとすぐに壁に表示されていたパネルがレヴィの目の前に浮かび上がった。分かりやすく例えるならホログラム、だろうか。

大きさ等は全く変わっておらず、そのまま壁から移動したようだ。


レヴィは感心の声をあげつつ、


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

始まりのダンジョン 管理者:レヴィアストル・クラディール


ダンジョン情報 ダンジョン強化

ダンジョン配置 ダンジョン編成

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


の[ダンジョン情報]をタップした。


ぱっと表示される大量の情報。なんとその情報量は、一画面に収まりきらず三ページまで続いていた。


レヴィは一ページ目の収入という欄に目を留める。


「ふむふむ。ーー利用料1000G!? じゅ、10倍ではないか……」


改めて魔物を配置すること、そしてレアルのすごさを思い知ったレヴィ。また、ダンジョン資金4500Gを見て感動する。

自分のダンジョンが育ったという実感を数字で見ることができたからだからだろう。


「4500、まあまあですね。明日は魔物を連れてきて欲しいので、取り敢えず部屋数を増やしましょう。1500Gのあまりは居住空間用の家具でも買ってください。生活するのに寂しすぎるので。

あとすいません、久しぶりの戦闘で眠気やばいです。いきなりで悪いんですけど帰らせてもらいます」


レアルはてきぱきと指示を出す。やけに詳しいところが、その強さと同じような謎を感じさせるーー

レアルはそれから疲れたと主張し、早々に居住空間から出て行った。一見自分本位に見えないこともないが、レアルの様子は疲れを端々に出していたし、レヴィ達を案じた提案も心からのものだ。二人もそれを分かっているので何も言わなかった。



その後、レヴィは3000Gを使用して[普通の部屋]を購入し、ダンジョンの一層右翼部に配置した。


「リア、家具は何を買えば良いと思う?」


既に眠たそうなレヴィは、椅子に頬杖を付きながらリアに問いかける。


「坊っちゃまのお好きなものでいいと思いますよ」


レヴィは[ダンジョン強化]から開いた居住空間用家具のカタログをスクロールしていく。

ダンジョンの居住空間には、お金を支払うことで様々なものを置くことができるのだ。勿論それをダンジョン外に持ち出すことは不可能だが、その分豊富で瞬時に購入できるというメリットがある。


5分間にわたる熟考の末、レヴィが最終的に決めたのは〈ふかふかなベッド〉だった。値段はぴったり1500G。

お金がなくなってしまうのにも関わらずベッドを買ったのはーー






「このベッドは本当にふかふかだな。すぐ寝てしまいそうだ」

「それは何よりです」

「? リアも一緒に寝るのだぞ」

「……! 坊っちゃま……♡」

「なっ、だ、抱きつくのはやめっ、んぶっ!?」

「よしよし、これからは毎日二人で寝ましょうね……」

「んー! んー!」


………………。

…………。

……。












夜は静かに更けゆく。やけにまぶしい月明かりがケモノ達の本性を暴き、闇に満ちた世界に混沌をもたらす。




イルキシュア王国をずっと南へ行った森の中、ここにもケモノがーー居た。


四つ足で血を流すソイツは遥か遠くの遠くに見える人間種達の光を目指し、這う。芽吹きだした新芽を痛々しい前脚で踏みつけ、雪解けのあとに現れた木の根につまづく。


ただその紅い瞳だけは輝きを失わない。


身体に宿るケモノを剥き出しにしてソイツは、吼えた。





夜は静かに更けゆく。ケモノ達を寛容に受け入れ、果てに沈黙を創り出す。









人間種領のとある大国の王都のとある宿屋の一室。窓から差し込む月光に、ベッドに眠る二人は照らされていた。



ノルディスとルージュもこの夜に思い出を作りました。書きたかったんですけど、雰囲気が壊れるので後書きに。


いつも読んでくださっている方、本当にありがとうございます。初めての方、ブクマはしてないよって方はどうぞブックマークをお願いします!



「私からもお願いするよ」

「ルージュ? 誰に話してるの?」

「誰だろうね……? ああ、でもノルディスの心配してるような人じゃないからね」

「べ、べつに心配なんて……」

「私はノルディス一筋だよ」

「……ぼ、僕も(ry

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