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097 光の檻

あらすじ:

 久々のリリムのターン。そしてターン終了。しばらくは出ない。

 この出番のなさ、もしかしてこいつはヒロインではなくモブなのではないか……という疑念が作者の中で密かに生じ始めていた。

 ヤバいな。マジ詰んでる状況だよな。

 聖王都は陥落。住人は避難し、現在は都から少し離れた場所で難民キャンプ状態……ていうのはまあ、仕方ない。俺頑張ったしね。しょせん人間ひとりにできることなんて限られているわけで、俺のやれることはやったわけで、結果はこうなったけどこれはもう仕方ないよね。

 こうなると俺にできることなんてもうないだろうしサンダリア王国に戻ってもいいよね? ……なんて思うんだけどね。俺ってそもそもマキシムたちみたいな勇者とかでも世界を救う救世主でもないし、自分の身の丈にあったことを精一杯頑張る的な人だからさ。

 これでリリムが帰ってきていたらもうさっさとケツまくって帰るんだけど、あいつが生きてるにせよ、あいつがいるのはあの異空間だかにある山の中だろ。助ける手段なんてないし、残り三日で俺死ぬらしいし、一応聖王都奪還のために動いているらしいけど国中から今急いで兵を集めてるから三日じゃあ無理だって話だしなぁ。いや、ホントどうしたもんかね。


「「「おぉぉおおおおおおおおおおお!!」」」


 そんなことを思いながら施設の中庭で黄昏れていた俺の耳に壁の外から歓声が届いた。こんな状況で喜びの声が聞こえることなんてあるのか……と思ったら、聖王都の周囲の崖から光の壁が登って聖王都全体を包み始めているのが見えた。


「なんだ、あれ?」


 あと崖の前で四股を踏んでいるお相撲さんがいる。よく分からんが周りの避難民の皆さんがキャッキャキャッキャしてるところを見ると、お相撲さんことナウラ・バスタルトさんがあの光の壁を作ったみたいだな。

 あの人もなぁ。裏切ったわけじゃなくて、あのデミディーヴァ『クライマー』に操られていただけなんだよな。驚いたのは神の薬草を食べても神力の拒絶反応が起こらなかったことだよ。これまでデミディーヴァが中にいたせいで神力耐性が上がってたから……ということらしいけど、おかげで今のこの陣営では一番の戦力になっている。ま、お相撲さんスタイルはどうにもならんけど。


「神託者殿、ドスコイ!」

「ええと……ナウラさん? ど、ドスコイ?」


 そんで、この砦の中に入ってきたナウラさんが俺に声をかけてきた。

 この中には聖王国のお偉いさんしか入れないらしく、外でワラワラしてた避難民の皆さんは入ってきていないのでこの場にはナウラさんと俺だけだ。

 それにしてもナウラさん、体型どころかキャラ付けが完全にお相撲さんになってる。おかしいな。この人、確か巨乳の美人さんだったはずだ。今じゃあ、ただのデブだ。


「ドスコイ。それはヤワトに伝わる伝統的な神事の掛け声なのです」

「そうですか」


 多分、何かが間違って伝えられている気がする。

 それにしてもナウラさん。遠目に見るとお相撲さんだけど、いや近くで見てもお相撲さんだけど……ただ太ましいのは確かだが、よくよく見れば品があるんだよなぁ。うーん、分かるかな。この肉感が俺の性癖を刺激する。ぶっちゃけた話、アリかナシかで言えば俺はアリだと思う。


「どうしました?」

「いや何でもないですけど」


 キョトンとした顔がやはり可愛く見える。ただゴッツアンデスとかドスコイとか狙い過ぎだと思う。もうね。個性を出そうとして没個性になっている。うん、やっぱりナシだな。


「そうですか。あの神託者殿。その……草をいただくことってできますか?」

「www」

「?」


 通じなかったらしい。


「ええと、草というと神の薬草のことですか?」

「はい。今、体内の神力を使ってしまって……少し心許ないので。いえ、可能でしたらでいいのですけれども」

「神の薬草で得た神力を半分……消費した原因はあの光の柱だと思うんですけど、何をしたんです?」

「そうですね。聖王都が崖に覆われてたのは知っていますね?」

「ええ」


 俺、一度落ちたしな。


「下に流れる川は聖なる力を帯びた天然の聖水です。もちろんそれほど力があるわけではないのですが、魔を退く効果があるのです。これを強化し、聖王都を包みました。今や聖王都は魔を囲う檻と化しました」

「それがあの光の壁?」


 天まで伸びるというほどではないけど、結構な高さまで伸びてる。


「はい、白の守護都市結界と申します。上位の魔物やあの壁を越える飛行能力のある魔物はともかく、中位程度ならば外に出さぬだけの力があるのです。もっとも本当は外から内を守るための術なのですけれども」


 そう言ってナウラさんが悲しそうに笑う。

 責任を感じているんだろう。まあ、無理もない。操られていたということ自体がやはり問題だし、最終的にこんな状況になっちまったからな。


「それで神の薬草のおかわりなんすか。けど、アレって今まで耐えられた人いなかったんですけど」


 俺やリリムは体型が変わってすぐに溢れ出たし、マキシムは見た目の変化こそなかったがやっぱり溢れ出たし、アルゴもあいつは重ねがけみたいな状態だったにせよ溢れ出たんだよな。


さいわいとは言い難いですが、あのデミディーヴァに長く潜伏されたおかげで私は神力への耐性が付いているようです。全てが終わった後は罰を受けましょうが、今は私のできることを最大限に生かして皆の力になりたいと思っています」

「なるほど。それで神の薬草ですか。まあ、一日で回復しますし問題ないですけどね」

「ゴッツァンデス!」


 いや、それもういいから。




  **********




 ナウラさん、モシャモシャ喰ってたなぁ。

 それからナウラさんに話を聞いたところ、どうも教皇様はここで立て直しを図った後、聖王都に一斉に仕掛けるらしいとのこと。聖門の神殿はまだ閉じられていないのだから制圧して奪還しようというわけだ。もちろん突撃される前に門を破壊されたらお終いだが、今はデミディーヴァもいないし、少なくとも魔族や魔人も確認できていない。アルゴが倒した悪竜だけなら門を破壊するだけの頭も回らないんじゃないかってことなんだよな。そんで、今はその襲撃のための会議を行なっているわけだけど……


「アルゴニアス様が生きてる可能性があるだと?」

「ああ、それも確度もそれなりに高い。或いは希望はまだ潰えていないのかもしれぬ」


 砦の中の会議室に並び立つ教皇様に四大司祭、それに聖騎士団の上層部やマキシムたち勇者の面々……と俺。うーん、なんで俺? 場違い感半端ねえんだけど。それで今は四大司祭のトーガって爺さんが話しているんだが、なんでもアルゴが生きているらしいんだよな。


「トーガ様、それはどのような根拠があってのことなのでしょうか?」

「うむ、勇者マキシムよ。霊峰サンティアの侵食具合からの計測だよ。サンティアが完全に掌握されているのであれば、聖王都のみならずさらに深淵アビスに落ちる地が増えておらねばならぬ。霊峰サンティアを中心として聖王国は聖なる力を循環させておるのだ。けれども、瘴気は未だ聖王都に留まっておるわけだ」

「つまり、まだアルゴニアス様は抵抗なさっておるということだな」


 四大司祭のもうひとりのおっさん……名前は覚えてない人がそう言って感涙してる。他のメンバーの中でも嗚咽してるのとかいるな。アルゴってなんか評価高いよなぁ。チンドラなのに。


「加えて神託者殿の額の刻印もあります」

「俺の?」


 ガチャの神様の死の刻印な。もしかして俺が呼ばれたってこれが理由か?


「神託者殿の従者であるリリムとガチャ様が結んだ雇用契約が未だ途切れておりませぬ。聖門の神殿に入ったリリム殿が生きているという状況を考えれば……アルゴニアス様と合流できたのではないかという推測も立ちましょう」

「だとすれば彼女とともに僕の仲間たちもいます。それに聖鞭の勇者サライだって……彼女の生存能力は僕ら勇者の中でも極めて高い」


 マキシムの言葉にダルシェンさんが頷く。サライさんはあの人の奥さんだしな。今すぐにでも助けに出て行きたいって顔してる。


「彼らはまだ戦っている……ということか。ならば、私たちも急がねばなるまい」

「教皇様。では?」

「兵の数を揃え、一週間後に奪還戦を仕掛ける予定であったがな。各地の上位実力者、及び討伐者をメルカヴァで集め……三日後、できるか?」


 教皇様の言葉に会議室がざわついた。メルカヴァってなんだろうってツッコミはないが乗り物的なものなのか? あと三日? 三日かぁ。俺が死ぬのも三日後。うーん。上手く最前線にいければリリムに会える?

 あ、それでか。今教皇様とマキシムが俺の方チラッと見たんだよな。ふたりとも俺のことも考えてくれてたってことか。ありがたい話ではあるけど……うーん、なんかこう、頭の中に引っかかってるんだよ。なんか、もう少しどうにかなるんじゃないかって……


「タカシ、どうしたんだい?」


 マキシムが心配そうな顔でこっちを見てる。

 けど、悪い。今は考えをまとめて……そうだ。門が壊されたらどのみち終わりだ。それが一番の問題で……正面突破だと……いや、方法は他にもあるよな。ああ、そうだ。霊峰サンティアに入るだけなら『俺ならどうにかなる』んだよ。そうだった。忘れてた。と、ちょっと待てよ。これ、普通にいけるんじゃないか。


「神託者殿、何かあるのかな?」


 ニヤリとした俺に気付いたのか教皇様が訝しげな顔でこっちを見ている。他の面子もなんだという顔をしているが、まあそれはいい。ただ、俺の考え通りなら正面から挑むよりは俺が助かる可能性は高いんだ。そのまま門を制圧すりゃあ、聖王国軍だって助かる。となれば、有望な戦力を引き抜くことだって許されるだろう。マキシムや勇者連中を連れていったって問題ないはずだ。

 もしかすると俺にも運が向いてきたかも知れないな。ああ、そうだ。どうにかなるかもしれないぞ。となれば


「教皇様、頼みたいことがあります」

「何か、あるのですね」


 俺は笑顔で頷き、こう口にした。


「まずは金を貸してくれ! 即金で!!」


 ガチャがしてぇ……

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