094 落日の都
あらすじ:
聖剣の返却が無期限延期になった
『永劫に呪われよ神託者!』
あいつの声が聞こえる。だけど、その呪いってのは
「それは違うんだっ!?」
て、あ……れ?
なんだ? 何が起きた? ここ、どこだ?
「体が重い?」
なんだよ。妙に肩が凝ってる。それになんで俺、ベッドの上にいるんだ。あの教皇の間とは違う石造りの部屋だな。もしかして俺は助かったのか。
「となると、万事上手くいったってことかな。ええと……ん、外がおかしくないか?」
窓の外が妙だな。暗いのは夜だからとしても、禍々しい気配とあの紫の雲……は、なんなんだ?
「あれって聖王都だよな。ええと、ここって俺らが落ちた崖の近くか? 砦っぽいが……いや、それよりも」
聖王都の周辺がビカビカ雷が光る紫雲に覆われている。それにどう見てもアレ、身体に悪そうな嫌な感じがするな。それにここは二階か。この建物の周りが難民キャンプみたいになってやがる。一体どういうことだ。何が起きて、どうしてこうなった。さっぱりワケが分からねえ。
「目が覚めたのかいタカシ?」
扉が開いて、マキシム……と教皇様が入ってきた。警護の人は外で待っているのか。ふたりともこっちを心配そうに見てるが、教皇様の方が片腕もないし痛々しいぜ。
「マキシム、教皇様。おはようございます……で、いいのかな。俺どうなったんすかね?」
「落ち着いてタカシ。今は認定式から二日後だよ。君は教皇の間で倒れてからずっと眠りについていたんだ」
「二日? 嘘だろ。だったら聖門の神殿とリリムはどうなったんだよ? ここにいんのか? ザイカンさんたちも」
俺の言葉にマキシムと教皇様のどっちもが顔を落とす。て、こたぁ……まさか
「我が父ローエンも、共に向かった者も安否は不明だ。残念だが今の状況ではな」
マジかよ。リリム、あいつも死んじまったってのか。
「言い訳になるけどね。あれからすぐに聖門の神殿内部から瘴気が溢れ出たんだ。多分霊峰サンティアは落ちたんだ」
「我々は聖王都が深淵に堕ちる前に住人を連れて脱出するしかなかったのだ」
深淵に堕ちる……か。魔都と化し、魔物が出現するようになるんだったな。教皇様の表情も固い。まあ仕方ない。デミディーヴァを倒したとはいえ、この状況は完全に俺らの敗北だ。
「ふふ、不甲斐ないな。この腕をなくしてなお、私は民を守りきることができなかった」
「あ、教皇様。その腕、俺の薬草なら治せるんじゃないですかね?」
「それは無理だ。アレはすでにガチャ様に奉納したもの。もう我が腕ではない以上、回復も再生も意味をなさないだろう」
あの攻撃にはそういう代償もあったってことか。けど、あの時はああする以外にはなかったしな。結局は負けちまったみたいだけど……いや、それでも俺らが生き残ってるから、街の人は救えたんだ。無駄じゃあなかった。
「それに腕はまだ一本、残っている。我が役目を果たすにはそれで十分……まあ、今はなき腕を思えば少しばかり辛い気持ちにはなるがね」
「なくなった……悲しみ……聖剣……もしかすると僕はひどいことを……」
マキシムが何かブツブツ言っている。
そりゃあな。リリムだけじゃない。マキシムの親父さんも聖門の神殿に向かっていたんだ。生存は絶望的。そりゃあ辛いだろうな。そういえば、なんで教皇様がここにいるんだ?
「それで神託者よ。君はその……大丈夫なのかい?」
「大丈夫ですけど、何がです?」
「タカシ、覚えていないのかい? あの戦いの後、君はデミディーヴァと対峙した」
「あ、なんか呪われよとか……言われたな。それで身体が黒く染まって……そのまま」
思い出してきた。全身を黒い雷が走って、俺は意識を失ったんだ。
「落ち着いて聞いてほしい神託者よ。君は今……呪われている。いや、元々かかっていた呪いが増幅されたのだと言っていい。あれを見よ」
教皇様が指差した先にあったのは化粧台で、大きな鏡があって、そこにはマキシムと教皇様と『誰か』が映っていた。いや、どう見ても俺のいる場所に驚いた顔をしたそいつがいた。
「あれって、鏡? え、これ誰?」
そいつの胸はFカップには到達しているように思えた。尻も大きく、腰のくびれはもはや言うまでもない。出るところは出て、締まるところは締まる。均整の取れたプロポーションはもはや人の域を越えている。それに髪は長髪でウェーブがかかっていて、何よりもその顔は確かに面影こそ残っているがまるで別人だった。
「アレは言っていた。永劫に呪われよ神託者と。恐らくは最後の足掻きであったのだろうが……確認した限りでは君の呪いを尋常ではない力で強化したようなのだ」
「あ、ああ……まさか」
そういうことか。いや、あの時にも俺は気付いていた。マキシムの父親から受けた性反転呪術は呪術だ。デミディーヴァがそのことを理解していたかは怪しいが、あいつは俺の中の呪いを発見し、そのまま強化して、そして俺は
……俺は絶世の美女になっていた。
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