009 再び運命に手をかける
「どうやら、体は順調に回復しているようですね」
俺の様子を見にきたリリムがそう口にした。
ああ、そうだな。ロウトの町の宿屋で丸一日寝た甲斐あって俺の体もだいぶ動くようになっていた。まだ辛い感じはあるが、昨日や一昨日よりは随分とマシな状態になっているのは実感できる。
「万全とは言えないけど一応普通に歩ける程度にはなったな。ところでリリム、お前、昨日は俺を宿屋に置いて出て行ったけどどこで寝てたんだよ?」
「え? タカシ様。私、この町に住んでいるんですけど」
あ……そういやそうだよな。あれ? けど、そうなるとこいつって今後どうするんだろう。俺もずっとこの町に居続けることもないとは思うし。
「リリム。お前、ここに住んでるってことはこれからどうするんだ?」
「どうするというと……タカシ様がこの町に滞在しているのでしたら神殿の宿舎に部屋がありますから、しばらくはそちらに住めますが。ただ契約により私はタカシ様の従者となりましたから、タカシ様が町を出るのであれば私も当然ついていきますよ」
「んー、そっかぁ」
まあ神様が付けてくれたわけだし、解雇もできそうもないしな。
契約自体が俺を介してないからどうすることもできない。
「ところでタカシ様。腕が化け物になったというのに全然応えてませんよね」
「ああ、それなあ。よく分かんないけど、なんかこの腕が身体の中で一番調子良いんだよ。他はまだかなり痛いんだけど腕だけは全然元気で。あと全体的に身体が引き締まった感じがするんだよな。どういうことだろ?」
そう感じてるだけじゃなくて、実際に筋肉がついているのも確認してる。なんだか急激に鍛えられたって感じだ。
「それはおそらく神の薬草によって超回復が起きたのかもしれませんね。無理をした分、身体がそれに合わせようとした結果ということでしょうか」
「というと、もう一度神の薬草を食べればさらに?」
「ええ。プラスタカシ様が説明してくださった肉体を破壊するほどのムチャをする必要はあるかもしれませんが……やりますか?」
うーん。それは嫌かな。昨夜も何度か夢に見て飛び起きたんだよ。うん。テンション下がったわ。ないわ、それ。
「あれは完全にスプラッターだったしなぁ。それに薬草飲んだ後は妙な感じになったんだ。怖いものなしというか、なんでもできるような感覚があった。ちょっと暴走したら手に負えないような……せっかく貰ったパワーアップアイテムだから有効に活用したいんだけどなぁ」
あの、酔っ払ってやらかして記憶だけは残ってるような感じになるのはいただけない。正直、適当に使うと死ぬほど後悔しそうな予感があるんだよ。
「そうですね。ドラゴンをも倒せる力ですから慎重に考えた方がいいかもしれません。神の薬草の効果を調べるならば、学都に行った方が良いでしょうね」
「学都?」
学ぶ都? 勉強でもする街があるのか?
「はい。このロウトの町を出て王都に向かう途中にある、サンダリア王国でも有数の大都市のひとつです。学問の都で様々なことを調べることもできますし、知り合いの鑑定士がいますのでそちらならばおそらく神の薬草の効果も分かると思います」
「ふーん、それはいいかもな」
色々と調べられるとなると、元の世界に帰れる方法とかも分かるかもしれないな。まあ、別に今あっちに戻りたいわけじゃないんだけど。
そういや今あっちってどうなってんだろ? やっぱり行方不明扱い? 実家の連絡先とか知ってる人いないし多分連絡もいかないとは思うけど。案外誰も気にしてないかも? だいたい俺って家出の実績あるし、社会人が今さら行方不明になっても大して調べられもしないよな。悲しい世の中だよなぁ。
「なんだか黄昏た顔してますけどタカシ様、それで今日は予定通りにいけますか?」
「ああ。まだ痛いけど、億劫ではあるけど……さっさと確認したいしな、俺も」
俺がそう返すとリリムが頷いた。
何しろ、ずっと楽しみにしていたんだ。前回はボーナスかき集めて引いたけど、今回は自分の力で得て引くわけだからな。るみにゃんアナザーや雷霆の十字神弓を引けた俺だ。ここ最近の俺は完全に乗っている。
それじゃあ行きますか。ドラゴンを倒して得たガチャ資金を受け取りに施神教の神殿へ。
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そして俺たちが向かったのは、施神教の神殿内にある換金所だ。
核石の換金は神殿の役目で、その後に核石は神様に奉納されるそうだ。とはいえ換金されたお金は施しの聖貨を購入させることで自分たちの元へと戻ってくるわけだから神殿の出費も実質的にはそれほどでもないらしい。
なるほど、よくできた仕組みだな。
「タカシ様、一般的にゴブリンは一体金貨2枚です。神託によれば金貨1枚はだいたい二万円だそうです」
「神託?」
「ええ、たった今ガチャ様にお教えいただきました」
今かよ。神様って暇なのか。というか神様って普段何してるんだ? ニート? あ、頭が痛い。これ神罰か? 嘘です。暇とか思ってません。あ、痛みが消えた。なるほどこれが神罰か。怖いな。本当に見張られてるぞ。
「どうしました?」
「あー今、神の奇跡ってやつを受けて……いや、話を続けてくれ」
俺の様子に首を傾げたリリムだが、気を取り直して説明を続けていく。
「貨幣の価値ですが、金貨1枚で銀貨10枚、銀貨1枚で銅貨40枚です。基本的に討伐者は大体六人パーティで一ヶ月ゴブリンを二十体ぐらい討伐すると言われています」
リリムが口にした討伐者というのは魔物を倒すことを生業とした人間のことらしい。まあ、今までの流れからして俺もそうすることになりそうだけどな。
しかし一ヶ月でゴブリン二十体って思ったよりも少なくないか? いや、昨日戦った感じだと……ゴブリンって思ったよりも強いし、そんなに簡単に倒せるもんじゃないか。それに探索に時間がかかるのがネックだな。森に行けばすぐ出会えるわけでもない。
それよりも金貨40枚。円だと八十万円か。けど六等分で月額約十三万円。どうなんだ、それって?
「なあ、リリム。命をかけてのわりには……金額、結構微妙じゃないか?」
「そうかもしれません。ですので通常はそこに依頼報酬がプラスされます。それでだいたい月にひとり頭金貨10枚程度が稼げるとのことですね。私の基本給もそこを基準にされているのでしょう」
それに成功報酬十分の一をプラスですよね、あなた。
しかも神様との契約で強制ですよね。何気にキツい気がしてきたんだけど。
「これでガチャ貯金を考えると生活費は一ヶ月5枚程度でしょうね」
「で、施しの聖貨は金貨2枚と」
換金所の横には聖貨の交換所がある。そこには聖貨1枚で金貨2枚と書かれている。1回四万円のガチャとか。完全にボッタクリだよなぁ。て、待てよ。最初113回のガチャって実質四百五十二万円か。俺の生涯通した課金量の二分の一とか、ずいぶんと放出してたんだな。
「それをふまえて聞いてください。ドラゴンの核石はなんと金貨200枚です!」
「すげえ」
俺は素直にそう口にした。つまり四百万円。あれがか。いや、でも……多いというにはちょっと微妙だな。神の薬草があってどうにか倒せたようなもんだ。あんなのそもそも普通は倒せねえってことを考えると四百万だと割りに合わなくないか? それに……
「なあリリム。核石割れてただろ? 問題ないって言ってたけど本当に大丈夫なのか?」
「それは大丈夫ですよ。欠けた分もちゃんと回収してますし。奉納するのに壊れているかどうかは関係ありません。それと、それだけではありませんよ。タカシ様はドラゴンスレイヤーの称号も貰えます」
「おお、なんかすごい……気がするけど、それって何かあるのか?」
俺の問いにリリムがニンマリと笑う。
「はい。限定ガチャが引けます。加えて依頼が出ているわけではないのですが、ドラゴンに関しては国から報奨金の金貨120枚が出ます。こちらも神殿でいただけますのですでに貰っています」
「限定ガチャ!? それに金貨がプラス!」
限定ガチャ。惹かれる言葉だ。るみにゃんが出るわけでもないのに、可愛い女の子が出るわけでもないのにガチャと聞くと血がたぎる。限定と聞くとやらねばならぬと心が訴えてくる。
「あと昨日の帰りに倒したゴブリン三匹もプラスで合計金貨326枚」
そう言ってリリムが換金を終えた金貨を俺に見せた。おう、いいね。金だね。マジで。
「それから私の一ヶ月の基本給が金貨10枚、成功報酬32枚をとりあえず貰いますね」
あ、金貨が抜けていく。うん。何か言おうと思ったんだけど、頭が痛くなりかけたので多分ケチつけたら神罰が来そうな予感。まあ、動けない俺を助けてくれてたわけだし、むしろ俺の取り分の方が全然あるんだけどね。
ともかく俺の取り分は284枚。つまり142回ガチャが回せるわけだ。あ、いや……さすがにな。なんとなくタガが外れてる感があるが、一応生活資金は残しておかないといけないし、全部使うとか馬鹿な真似はダメだよな。うん。
「それとタカシ様。限定ガチャは大型魔獣討伐ガチャです。限定ガチャの解放期間は一週間で、その後は大型魔獣を討伐するまでは再び解放されることはありません」
「マジで?」
いきなりチャンスってヤツか。ええと、全部で142回か。待て、全部を使うわけには……
「あのタカシ様。それとですね。大型魔獣討伐ガチャは……1回引くのに施しの聖貨が2枚必要になります」
「は? マジか!?」
金貨が1枚二万円で、施しの聖貨は金貨2枚分。2かける2かける2……つまり1回八万円のガチャだと。何考えてんだ? 消費者庁があれば捕まってるぞ多分。
だが今の俺には金がある。金があるということは……
そして、俺は施しの聖貨を100枚購入した。大丈夫だ。ウルトラレアを引けば元は取れる!