088 反転する勝利
あらすじ:だんご二兄弟
『ガァ、なんでお前が!?』
「某が何故にこんな」
「な、なんだか分からんが……爆ぜよ聖槍フォーシア!」
ライアンのおっさんの言葉と共にふたりを貫いた槍が爆発した。
あの槍、俺の爆裂の神矢に似た武器だったのか。スゲェ威力だわ。どっちもバラッバラになっちまった。それにしても死慈郎がここにいるってことは……
「あれ、ライアンさんがやったのかい?」
崩れた天井から馬鹿でかい水晶の剣担いだマキシムが飛び降りてきた。体の方は傷ひとつついてないか。さすがだな、こいつ。
「マキシム、来てくれたのか」
「もちろん、君を護るためなら僕はどこにだって現れるさ」
ははは、コヤツめ。俺の中の乙女心がキュンキュンするようなことを言いやがる。早く男に戻らないとやばいかもしれない。
「それで……状況は?」
マキシムがダルシェンさんや教皇様たちを見る。当然あっちでも戦闘は継続中だ。寅井くんが参戦したことで戦況は一変……という感じにはなっていない。教皇様と司祭たちのバックアップにより寅井くんとダルシェンさん、それに聖騎士団が戦ってるが、すでに戦力の半分以上はデミディーヴァに倒されている。こりゃあ、さっさと救援に向かわないと。
「ナウラ様に以前に討伐したはずのデミディーヴァが取り憑いたらしい」
「マキシム。敵はもうアレだけだ。神の薬草を使っちまおう」
デミディーヴァ以外の敵は倒した。お膳立てはこれで完了。あとは囲んでぶっ倒すだけだ。そう覚悟を決めた俺の前でマキシムが少しだけ何かを考えてから口を開いた。
「うん。いや……ちょっと待って」
「なんだよ?」
『ほぉ。二人目の勇者。それに神託者。或いはアレの使徒か?』
「うぉ」
な、いつの間にナウラさんが目の前に? いやデミディーヴァか。教皇様たちのところから一気にってことは、こいつも転移できるのか!?
「タカシ、離れてッ」
マキシムの神巨人の水晶剣をとっさに振り下ろし、デミディーヴァがそれを避けた。怖ッ、俺の鼻先を水晶剣が掠めたぞ。
『ほぉ、神力の宿った巨剣。なるほど、サンダリアの軍勢は塵芥を専門にしていたはずだが……妾に対抗するすべは得たということか。我らが一柱を狩ったというのもあながち嘘ではなかったらしい』
「ははは、もう雑魚専などと言われていた僕じゃあない!」
あ、少しだけマキシムの顔に影が見えた。こいつ確か神力が宿ってる武器がないからデミディーヴァ相手だと役に立たなかったらしいんだよね。それがコンプレックスだったのかもしれないな。ともあれだ。この状況、俺らにとってはいい感じだ。すでに寅井くんたちもこっちに向かって走って来ている。こっちにゃマキシムもライアンのおっさんもいる。ちょうどデミディーヴァを挟み込む形になったってわけだ。
そんでこいつは教皇様たちの戦力を削りつつあったが、それでも戦いは拮抗していた。少なくとも前の地下ダンジョンにいたヤツほどの圧力は感じない程度の実力だ。がははは、これは勝ったな。
『神託者。これは勝ったな……という顔をしておるな』
「う!?」
心を読んだのか? さすがデミディーヴァってことかい。
「タカシは顔に出やすいからね」
「うるせえよマキシム。けどさアンタ。実際んところどうよ。余裕ぶってるけどもうお前ひとりだぜ?」
『だから?』
「分かってんだろ? ぶっちゃけお前からは以前に倒したお仲間ほどの力を感じねえし、それに周りを見てみろ」
完全に取り囲んだぜ。勇者三人に教皇様たちのバックアップもある。この状況なら負ける気がしねえ。タコ殴りで終わらせられる。
「こっちは大勢。あんたボッチ。それに部屋の瘴気も薄れてきたんじゃあねえのか?」
そう、戦力の削られた寅井くんたちがデミディーヴァと戦えていた理由がそれだ。部屋を覆っていた禍々しい瘴気がもう相当に薄れている。つまりQED。俺たちの勝利の証明完了だ。
『それで?』
「お前はここで終わりってことだよ……だよな? な、マキシム?」
マキシムも頷いている。よし、大丈夫。俺の推測は間違っていない。これなら、このまま神の薬草なしでも勝てるはずだ。
『なるほど。瘴気が薄れてきたか……確かに頃合いかもしれんな』
「そうだ。正義が勝って悪が滅びる。これで」
『では……解こう』
「は?」
瞬間、世界が変質したような感覚があった。
「なんだ?」
「これは……部屋の空気が変わった? いや戻った?」
マキシムが驚きの顔でそう口にする。確かに部屋を覆っていた瘴気が消え、神聖な空気に変わった。これならさらに俺たちに有利に
「どういうことだ。教皇の間の力がこれほど衰えている……だと?」
ん、教皇様ビビってる? どういうこと? え? 正面にいるデミディーヴァの気配が一気に増して……
『反転させた瘴気で部屋を穢し中和し続けていたのだ。この場は神域をさらに深めたような絶対不可侵の領域であったからな。妾ですらそちらに力を注がねばならぬほどに』
「ちょ、ちょっと、待て。なんだ、そりゃ?」
ふざけんなよ。この気配、この圧力。前に戦ったデミディーヴァと同じじゃねえか。ということはこいつ、これまで本気じゃなかったのか?
「ぐぁあ!?」
「何ッ?」
そして、驚いている俺の後ろでライアンのおっさんの悲鳴が聞こえた。同時にマキシムが何かの攻撃を受けたのか水晶剣を盾にした形で吹き飛んでいく。
「おいおい、嘘だろう?」
肉片の塊みたいになった死慈郎のカタナがライアンのおっさんを斬り裂いて、同じようにエグい姿のザクロムがマキシムを攻撃したんだ。離れた場所ではティモンも同じように復活している。こりゃあ、どういうことだ?
『妾の力は反転。生と死を反転させることなど造作もない。まあ、即席故少々不恰好になってしまったが』
少々どころじゃなくめちゃグロテスクだよ。それにデミディーヴァも本気になったってことだろ。ヤバい。この状況にビビってるの俺だけじゃねえ。聖騎士たちも司祭たちも絶望的な顔してる。ちょっと「その程度で俺たちが負けるとでも?」とか言ってくれる人いませんかね? ねえ寅井くん? って、お前顔色悪すぎだろ。ビビり過ぎだろう。
『それは世界を護る者と壊す者の決戦と行こうか。世界の命運、ここで决しようぞ!』
それ実質的なクライマックスじゃねえか!?
戦えタカシ。世界を救うために!




