087 ハードラックダンス
あらすじ:真面目に戦っている。
腕輪の勇者の本領。
それを死慈郎は決して甘く見ていたわけではなかった。
闇の神の眷属。魔人のひとりとして己の力を自負してはいたが、他者を侮るような安い気概は持っていない。己が戦いに魅入られていることを死慈郎は骨の髄まで理解していたし、闇の神の側にいるのはただ、己の刃がどこまで届くのかを知りたかったが故だ。
「ぬぅっ」
その戦いに魅入られた男が防戦一方となっていた。
ゴッドレア化した剛力の腕輪の膂力を付与されたマキシムの攻撃はその全てが必殺であり、5メートルの神巨人の水晶剣の斬撃の猛威はあまりにも凄まじい。死慈郎が入り込む隙もないほどに。
「これが軍勢の本領というわけか」
雲海の如き魔獣の群れにひとり突撃し、そのすべてを形残らぬ肉片に変えたとも伝えられていたし、巨大なドラゴンを正面から挑み破壊し尽くしたこともあったとも死慈郎は聞いていた。その理由は目の前の状況を見れば事実だと分かる。また周囲に人がいても、部屋のような限定された空間でも使えないこともよく理解できた。
嵐と呼ぶのも生易しい。加減のないマキシムの攻撃はもはや一種の災害だ。けれどもマキシムが振るう5メートルの水晶の剣は巨大で重く、であれば振るった後の返しに隙ができるだろうと死慈郎は考えたのだが、その認識すらも大きな誤りだった。
「跳ねただと!?」
真上から振われた水晶の刃を死慈郎が避けた直後に真下から攻撃が来たのだ。とっさに死慈郎はその攻撃も避けたものの風圧だけで身体が揺らぐ。
「避けたか。勘のいいヤツだね」
マキシムが眉をひそめながらそう口にした。
ここまで見せていなかった切り札のひとつを外したのだからマキシムの表情が険しくなるのも仕方のないことではあった。そして、その切り札とは神巨人の水晶剣にのスロットに装着されたスキルジェムの能力であった。装着されたスキルの名はバウンド。超重量の武器を跳ねさせることも可能なスキルだ。
「まったく……これだから勇者というのは。容易に我らが力を飛び越える」
「容易とは心外だね。僕らが努力していないとでも? 勇者っていうのは積み重ねることを怠らない者のことを言うのさ」
己が能力を見極め、最適で最高の結果を生み出す。勇者の恐るべきところは、その異常な成長速度だ。そうした者が施しの神に見出され、勇者として神託を受ける。勇者だから特別なのではなく、彼女らが特別な存在だからこそ勇者と任命されたというのが正しい。
「今ならもう僕はデミディーヴァにだって後れはとらない」
「それは某に勝ってから言ってもらおうか!」
そう吠えるのと同時に振り下ろされた攻撃を前に瞬時に転移をした死慈郎だが直後、視界に再び水晶の刃が迫るのが見えた。
「我が転移先を見破っただと!?」
「君の行動はもう読めたよ!」
バウンドした刃が死慈郎が現れたマキシムの頭上の空中に向かい、死慈郎はそれをとっさに刀で受け、そのまま流そうとも流しきれず弾かれる。けれども直後に死慈郎が再び転移を行なう。
「死ねぃ!」
転移した死慈郎が弾かれた勢いを利用して刀を振るおうとし、
「無駄だよ」
「なんだと!?」
けれどもそこに『空中で』バウンドした刃が襲いかかり、さらに死慈郎を弾き飛ばした。そして……
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「おらぁああ!」
『魔神の腕が逸れただと!?』
つぅ、痺れた。けど狙い通りだ。魔力を思いっきり注ぎ込んだ竜腕の攻撃を一番脆い小指にぶち込んでやった。神力とか関係ねえ。単なる拳の物理攻撃だ。それでもあの腕の攻撃を逸らすだけで精一杯だったがそれで十分なんだよ。俺は『ひとりで戦ってるんじゃねえ』んだからな!
「おっさん、頼む」
『何ぃ!?』
何を驚いてやがる。どうやら魔神の腕の制御に集中してるのは確からしいな。おっさんならお前が俺にロケットパンチ撃ち込んだ時にもう目が覚めてたよ。ま、今さら気付いてももう遅いけどなぁ。
「アーツ・ホーリーコメット!」
そしてロケットパンチが止めようと動く間もなく、ライアンのおっさんが投擲した聖槍がザクロムを貫いた。
「ぐわぁあああ!?」
あと、ついでに外から飛んできたおサムライさんも貫いた。
「あれ?」
やった……ぜ?
???




