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086 勇者の力

あらすじ:小指がめっさ痛い……魔神さん本体は怒りのあまり八つ当たりで山を砕いた。タカシにフラグが立った。

「てやぁああ!」

「ツェエイ!」


 タカシが去った控え室で勇者マキシムと魔人陣内死慈郎の戦いは続いていた。まるで嵐の如く重神剣グランを振るうマキシムに対して死慈郎は避けに徹しカウンターを狙う。


「一撃一撃が重過ぎる……か」


 死慈郎が目を細めながら、わずかに跳び下がって攻撃を避ける。風圧だけでも吹き飛びそうな勢い。小柄なマキシムの身体からは信じられぬほどの重い一撃が高速で振るわれている。すべてが受けるということを許さぬ必殺。だからこそ死慈郎も容易には打ち合えない。

 対してマキシムにしても全力を出せているというわけではなかった。部屋の中という限られた空間であるためにマキシムは己の本来の武器である神巨人の水晶剣が使えず、今は重神剣グラン、重神の円盾グラムス、そして神の剛力の腕輪を出して戦っていたのである。とはいえ重神の武具は重く、神の剛力の腕輪と相性がいい。ソレを避けながら死慈郎が刀を振るう。


「重い分、動きも単調になる……というわけでもないか」

「当然だね。そんな隙は用意していないよ」

「ぬぅ!?」


 マキシムの剣が一瞬死慈郎の頰を掠める。振り下ろした剣の戻しが速い。重神剣グランと重神の円盾グラムスはただ重いだけではなく、重力に関した力を持つ武具だ。武器の重量を下げることで見た目よりも軽い武器としても扱えるが故に重さを乗せた攻撃の後の返しも苦もなく行うことが可能で、勇者であるマキシムは当然ソレを使いこなしていた。

 もっとも死慈郎の技量も達人の域にある。それはここまでマキシムの攻撃をすべて避けていたことからも、また隙を見せればすぐさま切り返していることからも明らかであった。


「逃げるだけかい?」

「打ち合えば分が悪いのでな」


 マキシムの挑発に死慈郎がそう返す。己の刀が折れるとは思わないが、まともに刃を合わせれば力で劣る自分が打ち負けると死慈郎は理解していた。けれども、死慈郎とて魔人と冠される闇の神のしもべ。攻められているばかりというわけでは当然ない。


「む?」


 マキシムの前にいた死慈郎がわずかにブレる……と、同時に姿がかき消える。その様子にマキシムが己の精神を集中させる。


「また消えた!?」

った」

「させない!」


 背後から聞こえた声を無視したマキシムが剣を振り上げると金属音が響き渡り、死慈郎が天井に向かって吹き飛んでいく。背後からのフェイクの声を看破し、頭上からの一撃をも読んだマキシムの一撃を死慈郎は受けて飛ばされたのだ。


「今のを返すか。つくづく勇者というものは」


 死慈郎が天井に『着地をして』笑う。強者との戦い。それのみを求め、邪神の使徒に堕ちた魔人にとっては勇者との戦いはまことに甘美なもの。とはいえ、先手を打たれ続けて面白くないのも事実。ならば……と死慈郎が剣を握る手を強めた。


「では、こうした芸当はどうかな。秘剣・八葉斬楽」

「!?」


 次の瞬間、死慈郎が刀を高速で振ったのと同時にマキシムの全周囲から飛ぶ斬撃が迫った。それは放たれた斬撃の時間差を瞬間移動の発動距離をズラすことで完全に同一のタイミングで対象を斬り裂く形にする秘剣のひとつ。


「アーツ・フォースシェイク!」


 けれども次の瞬間にマキシムの盾を中心に空間が歪むと同時に斬撃のすべてがかき消された。それは重神の円盾グラムスの、魔力の込められた振動波を放つことで攻撃をかき消すアーツであった。


「そうした手札も持っているとはな。さすがは勇者か」

「続けていくよ。アーツ・グラヴィティハンマー!」


 死慈郎の賞賛の言葉に反応を示すことなく、マキシムは重神剣のアーツをすぐさま放った。ハンマー系統は面の衝撃波を放つ。その衝撃に天井が崩れ、また攻撃を刀を盾に受け切った死慈郎が城の屋根の上に着地する。


「残念ながらそう馬鹿正直に受けてやるわけにもいかんのでな」

「ま、それで終わるとは思ってはいないさ」


 死慈郎の言葉にそう返したマキシムが部屋から屋根の上へと跳躍する。着地と同時にズシャリという重量感のある音が響き渡った。


「ほぉ」


 マキシムの先ほどとは違う姿に死慈郎が感嘆の声を漏らす。


「けれども、僕はタカシを追わないといけないから、いつまでも君と遊んでいるわけにもいかないんだ。ここで仕留めさせてもらおうか」

「連れないな」


 死慈郎がそう返す。

 すでにマキシムの手には重神剣グランも重神の円盾グラムスもない。けれどもその身は白銀の鎧で固め、5メートルはある巨大な水晶の剣を両腕で握っている。


 その姿は死慈郎も知っていた。


 数百の魔物を前にも怯まず、ひと振りで数十の命を断ち、まるで軍隊の如き戦果をひとりで挙げる勇者がいると。それは魔物たちの暴走スタンピートなどでも活躍し、付いた二つ名は『軍勢レギオン』。結果として近年においてはもっとも活躍した勇者のひとりに挙げられるまでになったのだ。


「それが腕輪の勇者の本領というわけか」


 壁も何もない障害のないこの場は勇者マキシムの領域。であれば……と死慈郎は鞘に刀を収め、腰を落とした。無論、それは戦いを諦めたというわけではない。


「……面白い」


 死慈郎が笑みを浮かべ、すり足でにじり寄る。

 そして、次の瞬間に両者が動いた。

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