085 魔神の腕
あらすじ:持ち上げるだけ持ち上げた挙句ブームが過ぎると途端に誰も見向きしなくなるのはよくあること。ここ最近のブイツーバーの状況と自分を分不相応に重ね合わせたタカシは特に意味もなく未来に不安を感じるのであった。
「使徒様。俺が盾になろう」
「あ、はい」
『このザクロムが全身全霊をもって貴様を殺す』
「嫌です」
さて、どうしたものやら。どこぞのボスキャラみたいなナリをしているが、神の薬草食ったリリムがどうにか倒せた相手だぞ。そんなのを相手にして果たして勝てんのか?
『大丈夫タカシ。今のアレは完全じゃない』
「ライテー?」
『目覚めたばかり。あの時の魔力ない』
マジで? 確かに以前に比べて威圧感が薄いような気がする。再生怪人は弱いの法則通りということか。
『精霊が余計なことを。だが、以前はあらかじめ蓄えていた魔力を使っていただけのこと。今の私が弱体化しているというわけではないわ』
「それ、どのみち前より弱いってことだよな」
『黙れッ』
「どこを見ている!」
おっと。俺と話している間にライアンのおっさんがザクロムに突撃していった。ああ、そうか。別に俺が倒す必要なんてないんだ。だったら援護に徹するだけでいい。俺は弓使いだしな。
「我が槍を避けたか。使徒様の矢は当たったようだが……」
『クソッ、あの矢……威力はまあまあだが、なぜか当たる。竜眼の力か?』
竜眼とかいう特殊能力じゃあねえよ。十字神弓の力だ。けど、普通に射って当てたんじゃあロクにダメージは与えられない上に頭とか重要な部分は何度未来視で視ても刺さったヴィジョンが視えない。守りは完璧ってことか。
「ライアンのおっさん、こっちじゃ当たっても大したダメージはねえ。フォローする。そっちで仕留めてくれ」
「承知した。おぉぉおおおおおお!」
おっさんがザクロムに向かって再度突撃した。そして繰り出される槍さばきが恐ろしいくらいに冴え渡ってるんだけど、ザクロムもそれを全部弾いてる。まったく付いていけねえな。で、俺はその間をすり抜けて射るわけだけど……当たりはするけどダメージがなあ。
『チィ。あいつ、チクチクと!?』
「この間隙を縫って正確に撃ち抜くとは。なんという精度だ」
褒められた。ま、未来視はウルトラレアの神弓の能力だからな。素人の俺でも当てられるようにできてるってわけだ。けど、やっぱりダメージは弱いか。だったらこいつはどうだ。
「神竜の盾、ダッシュだ!」
『あの盾が走っているだと!?』
俺の神竜の盾は飾りの手足を動かすことで自由自在に動く。聖王都に来てから把握したことでザクロムは知らなかった能力だ。
『奇怪な真似を。チッ、こんなもの!?』
「盾が魔族と組み合った!?」
『だが、距離を取っている。魔力が供給されなければセイクリッドブレスも放てんだろう!』
「なんだ、バレてんのかよ?」
『魔力の流れを見れば分かるものだ。私は召喚士だからな』
「あっそ」
バレてる。けど、気付いてないよなぁ。すでに雷霆の十字神弓は一旦カードに戻して、こいつを俺は出してるんだぜ。
『なんの音だ。む、鎖? それが盾と使徒と繋がって……まさか!?』
「まあ、そういうことだ。魔力ならこいつを通して供給できるんだよなぁ」
『クッ、竜頭が口を開いて……ギャァアアアア!?』
神竜の盾が口を開き、吐き出された銀の炎がザクロムを襲う。
距離が離れた神竜の盾からセイクリッドブレスを吐かせるために俺が新たに出したのはスーパーレアの神竜鋏だ。トラバサミのドラゴン版。鋏と鎖でできていて、鋏で神竜の盾を掴んで、こうして鎖を伸ばして俺自身と繋がってるわけだ。名前の通りに神の力を帯びているわけで、俺の竜椀から魔力を通せばセイクリッドブレスだって出るんだよ。
『こんな隠し球もあったのか』
「悪いな。俺もぶっつけ本番で上手くいって良かったよ」
なんとなくいけると思ってたけど、実際にちゃんとできて良かったな。ともかく魔族にとっては大ダメージのセイクリッドブレスを全身に浴びせられたんだ。これでこいつも……
『顕現せよ魔神の腕よ。我を掴め!』
な!? 地面から黒い腕が出て、ザクロムを掴んだ。同時に銀の炎がかき消えていく。
「セイクリッドブレスを消しただと」
「あれはリリムの極限の神罰を防いだ腕か。厄介なもんを出して来たな」
ザクロムの両腕も黒いが、それをでっかくした感じの右腕がザクロムを通過して宙に浮かんでいる。あれはヤバいな。以前ほどの圧は感じないが、強力なのは見ただけで分かる。なんか周囲の空気が歪んでるし。
『振るえ魔神の腕よ』
「おっさん。下がれ」
「ぬうっ」
おっさんが狙われたか。このままじゃ間に合わない。だったら神竜の盾で……っと、巨大な黒い腕が盾を弾き飛ばした。あとおっさんもいっしょに吹っ飛んだ。おっさん動かない。ヤベエ。
『クク……あれでは助けたのかどうか分からんな』
「うっせえ」
終わっちまったことは仕方がない。あの腕でぶん殴られるよりはダメージは少なかったと信じよう。それに神竜鋏はカードに戻したが、神竜の盾はダメージが通っているのかまだ動けない。ただ、目の前のザクロムの方も余裕ってわけじゃなさそうだな。
「それにそっちも余力なさそうじゃないか」
『一部とはいえ、魔神を顕現させているのだからな。けれどもこの腕ならば貴様とて!』
ザクロムが叫んで宙を浮かぶ巨大な腕をこっちに向けて放って来た。
「チィ、当たれ!」
神弓を再び出して爆裂の神矢を当てた。が、爆発はしたが……効いていない?
『無駄無駄。魔神。即ち、神よ。我らが主ではないが半端な神力では抗することもできぬ存在よ!」
「マジか。無駄弾撃ったな。けど、だったらアーツ・サンダーレイン!」
十字神弓のアーツ、雷属性の雷の雨ならどうだ。頼むぜライテー!
『ラーイ!』
そして俺が放った矢から金色の雲が噴出し、そこより降り注ぐ雷の雨が黒い腕に刺さっていく。ただ足止めこそできたが、こいつはほとんどダメージが通ってなさそうだ。
『タカシ、雷霆の十字神弓。雷は神の力に最も近い』
「それって……効き辛いってことかよ」
そういえばそんなことを前にも言ってたか。けど、そうなると十字神弓が駄目なら神罰の牙も駄目だし、セイクリッドブレスも通用しないし、爆裂の神矢も見ての通りだろ。あ、竜水の聖矢はどうなんだ。聖属性と神属性の差ってなんかあるのか?
『タカシ!』
「やべっ」
アッブネェ。ブン殴られるギリギリで避けれたか。
『避けたか。勘のいいヤツだ』
未来視に加速スキルの恩恵だな。考える時間もない。あのデカい黒い腕がUターンしてまた飛んで来てる。ロケットパンチかよ、あれ。神竜の盾は……ああ、『動き出した』か。だったら活路はある!
「アーツ・シルバーハンマー!」
『効くものか!』
ああ、神力入りは効かねえって話だろ。単に向かってくるロケットパンチの威力を殺すだけさ。そんで竜椀に魔力を注ぎ込んで、
「おらぁああ!」
『魔神の腕が逸れただと!?』
つぅ、痺れた。けど狙い通りだ。魔力を思いっきり注ぎ込んだ竜椀の攻撃を一番脆い小指にぶち込んでやった。神力とか関係ねえ。単なる拳の物理攻撃だ。それでもあの腕の攻撃を逸らすだけで精一杯だったがそれで十分なんだよ。俺は『ひとりで戦ってるんじゃねえ』んだからな!
「おっさん、頼む」
『何ぃ!?』
何を驚いてやがる。どうやら魔神の腕の制御に集中してるのは確からしいな。おっさんならお前が俺にロケットパンチ撃ち込んだ時にもう目が覚めてたよ。ま、今さら気付いてももう遅いけどなぁ。
「アーツ・ホーリーコメット!」
そしてロケットパンチが止めようと動く間もなく、ライアンのおっさんが投擲した聖槍がザクロムを貫いた。




