083 黄金の風
「な、ななな……何が起きた?」
俺が寅井くんをブン殴ってノシたら、一緒にいた男が混乱していた。そういえばあいつなんなんだろう? 人間ぽいけど敵? 敵なの?
『彼はティモンという名のナウラの従者さ。元々あっち側だったらしいね。だから勇者を倒した君に怯えているんだろう』
「怯えてる?」
『そうさ。君は自分のしたことを理解しているのかな? 彼らの天敵である、聖王国最強の勇者を一般人代表みたいな普通の君が倒したんだよ。マトモじゃない。僕だって『え、何こいつ?』って思ってるし』
思ってるんだ。そっか。
「い、意味が分からない。偶然とはいえクライマー様を一度は討伐した……聖剣の勇者が、いくら神の声を聞いたからと言って、勇者でもない、見る限りは戦士としての武威も感じない、ただの女のパンチに倒されただと!?」
「いや、俺も出来過ぎだとは思うけどさ。そりゃあいつも勇者だったんだから、多分あいつの中の勇者的なあいつがなんかこう、抵抗とかしたんじゃねえの?」
寅井くんは仮にも勇者だからな。聖王国最強らしいし、多分そういうことなんじゃないかな。まあカウンターと未来視のコンボはマキシムのお墨付きだから、強力なのは間違いないにしてもね。
「くっ、そういうことか。確かに……そうとしか考えられん。一度は屈服したとはいえクライマー様の力に抵抗できるとは流石勇者というところか」
『いや、あの馬鹿は普通にやられていたけど』
「黙れ、聖剣の精霊。そうやってブラフを仕掛けようと精霊に直接的な攻撃力はない。分かっているぞ。セイクリッドブレスを放つ盾を使うその女さえいなければドーラを復活させることはできんのだからな!」
『ああ、そういう解釈をするのか。なるほどね。神託者、あいつは君を殺すつもりのようだよ』
「聞いてりゃ分かるよ。ライテー!」
『ラーイ!』
距離はある。悪いがあいつにゃ寅井くんやデミディーヴァみたいな圧は感じない。ぶっちゃけ負ける気はしねえ。
「弓、やはり弓使い。先ほどの拳も武器の力に頼ったラッキーパンチか。であれば……万が一にも貴様に勝機はない!」
「ハァ?」
「そして私は魔拳闘士。我が拳は闇の炎を纏い貴様を燃やし尽くす。ただでさえ美しいとは言えぬその顔が醜く焼け爛れ、苦痛の内に死に至ることに恐怖せよ!」
ベラベラ喋ってるが、それで勝機がない理由が分からないよね。
『懐に飛び込まれると厄介かな』
「その前に倒しゃいいんだろ」
「貴様に勝機はないと言っただろう!」
「知るかよ。とっとと射る……!?」
あれ、あの小男が消えた? これは陣内死慈郎と同じものか? だけどな『燃え尽きろ!』俺には視えてるんだよ。
「燃え尽き……は?」
俺の右の竜腕は魔力を込めれば膂力が増し、装着している神罰の牙はUR武器。そんでカウンタースキルがふたつ装着されてるからカウンタースキルの二段階目『致命のカウンター』を当てることが可能なわけだ。もっともカウンターは当てるのが難しいスキルだ。普通ならほとんど外すらしいんだが、俺には神弓の能力である未来視があって『外すことがない』。つまり、銀の竜腕+神罰の牙+カウンタースキル×2+未来視。それがこの
「タカシパァアアンチ!」
「ブバァアアアア!?」
おお、吹っ飛んだ。手応えあり。
『百発百中のカウンターかい。エグいスキルの組み合わせをしているようだね』
まったくだ。さ、あいつはノシたし今は俺にやることをやらないとな。つまり寅井くんを神竜の盾から出ている銀の炎で炙る。
「うぎゃぁあああ」
おおっと、ご飯に振りかけた鰹節みたいに寅井くんがのたうち回っている。
「えっと、大丈夫? これ死なない?」
『大丈夫だよ。ほら、肌は焼けてないだろう。聖なる炎だからね。ガチャ様に選ばれた勇者にとっては燃えるどころか祝福なんだよ。まあ、相手が闇の神の眷属ではない普通の動物とか魔物とか一般人なら燃えちゃうけど』
なるほど。俺が食らったら死ぬってことか。ガチャの神様公認ってのはやっぱり意味があることなんだな。
『反転の効果はドーラの全身を覆っている。コンガリと両面を焼かないと消えないからね。表を焼いたら裏返して、満遍なくやってくれるかな』
両面焼きだな。了解。それにしても悲鳴はうるさいが本人は焼け爛れてはいないのはすごいな。CG感ある。
おお、剣や鎧のトゲトゲしてるのがボロボロ崩れ落ちて、中から金色の装甲が出てきた。サンクチュアリとかを守ってそうなやつだ。聖剣持ち、多分寅井くんは山羊座だな。
「クソッ、まさか近接戦の方がメインだったとはな。謀ったな神託者」
あ、ティモンが起き上がった。しまったな。トドメ刺しておくべきだったか。
「天使の怪物を使役する人物であるとは聞いていたが……けれども単独で勇者を打倒できるほどの拳士とは……いや、それよりもそれ以上はさせんぞ! 勇者の復活など今更状況を覆されてたまるか! ぉぉおおおおおお!」
うぉ、ティモンが叫んで、虫みたいなバケモンに変わっていく。
『死ねぃぃいい!!』
消えた!? また転移かよ。けど、どこに?
『タカシ、上!』
ライテー? 真上? クソ、不味い。視えたが、虫だから手足が無数にあって、全部が動いてて、あんなのカウンター当てらんねえ。俺の腕は一本なんだぞ。いや……これは!?
「やらせんっ!」
『ド、ドォォオラァアアア!?』
うぉ、目の前を黄金の風が通り抜けたと思ったら、ティモンが真っ二つに斬り裂かれた。そして、俺の前には
「これ以上、この私が貴様らにやらせると思うか?」
黒いアフロヘアーの寅井くんが立っていた。
タカシパンチ:確定でカウンターパンチを出す。カウンターを合わせられないような複数同時攻撃や拳の届かない攻撃、範囲攻撃などには弱い。




