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082 激戦

あらすじ:自分を勇者だと思い込んでる偽寅井くんが偽ではない可能性が出てきた。つまり寅井くんはただ頭がおかしかったのである。

『闇の神に操られているあそこの駄目勇者が持っている聖剣キャリヴァンの精霊だよ』


 偽寅井くんと戦っていたら、聖剣の精霊さんが出てきた。

 見た感じ、中性的な少年だか少女だか分からない外見の精霊だ。まあ精霊に性別とかあるのか知らんけど。というか今さりげなく大変なこと言わなかったか?


「ええと、君は聖剣の精霊で、それで寅井くんは本物ってこと?」

『そういうことだね。というか君、ドーラの過去のこと知ってるみたいだね』


 おっと、寅井くんって言っちまったか。まあ同郷の異世界人ってぐらいしか話してなかったはずだしな。寅井くんの名前を知ってるのはおかしいか。つっても別に隠すことでもないからいいんだけどさ。


「まあな。寅井くんの伝説は今でもあっちじゃあ語り継がれているからな」

「は? どういうことだ?」


 話に聴き耳を立てていたらしい寅井くんの顔が固まった。


「すでに十二年、さすがに……ネットのヨーツーバーだって廃れているはずで」


 十二年? やっぱバグってんな。けど、別に嘘じゃねえし。


「いや、ヴァーチャルヨーツーバーのヤンキー先輩って言えば、俺がこっちに来る前だって週一で更新してたぞ。確か先週は第十二回今期のアニメでいちばんシコい嫁ランキングで猫耳のあざといキャラをめっちゃ推してたな。いや、俺はあんまアニメ見てねえからよく分かんなかったけど。というか中学時代の同級生が頑張っているのを見るとなんか勇気が出て来るっていうかさ」

「まだ続いてんのかあのシリーズ!? というか俺じゃねえし!」


 知ってるよ、本物の寅井くんじゃないのは。けどさ。ネットで炎上して俺も弱ってた時期だし、本物じゃないにせよ、かなり似てるというか70パーセントぐらいは本物っぽいし、だったら本物みたいなんもんだしさ。同級生が頑張ってるんだなーって思うことで慰められることってあるじゃん? なのに今のアンタは……


「うるせえ。あの人は、ヤンキー先輩は本物より本物になっちまってるよ。みんなから愛されてるんだよアンタは。なのに今のアンタのその様はなんだ!?」

「なんだじゃねえよ! 全然嬉しくないから! 肖像権侵害だし。いや、ざ、戯言を。俺の、いや私の動揺を誘おうっていう魂胆だな。そうはいかんぞ、闇の神の手先め! どこで知ったのかは知らんが私を惑わせることなどできないと知れ!」


 メチャ動揺してるじゃねえか。それにマジなんだけど。今思い出したけど、確か何年か前にヴァーチャルヨーツーバーのアニメがやったときにも六話でゲスト出演してるんだよな。


「あんたのしていることが誰かに勇気を与えていた。それが分からねえのかよ寅井くん!」

「分かるわけねぇえだろぉお!」


 えー、結構すごいと思うんだけどな。おっと、こんだけ乱れた心で飛ぶ斬撃とか撃たれても俺の前には神竜の盾があるから効かないっての。まったく、寅井くんはこういうところが駄目だな。


『やるね神託者。ドーラは精神的に脆い部分があるからね。揺さぶって動揺を誘う戦い方はありだ』

「そいつはどうも。で、君はヴァンって言ったっけ? どうなってんだよ、これ」


 アレが本物だとしても明らかにまともじゃないぞ。そもそもダルシェンさんと戦ってた時点でおかしいんだしさ。ダーク寅井くんというか寅井くん(狂)というか。


『彼は擬神デミディーヴァ『クライマー』の能力『反転』にやられたんだよ。所持する魔導器ごとね。デミディーヴァが潜伏していたナウラに近かったからね。とっさのことで僕も反応が遅れた。ま、ドーラが油断し過ぎなんだけど』

「デミディーヴァ? あいつから?」


 今教皇様のところでダルシェンさんと対峙しているあのデミディーヴァのことだよな。別んところでも聖騎士の団長が見たことある怪物と戦ってるが、どっちも状況は芳しくはない。


「反転ってなんだ?」

『文字通りに属性を反転させるんだ。白から黒に。黒から白に。そういう力があのデミディーヴァにはあって、今僕らは追い詰められているというわけだ』

「力……スキルってことか」

『神の力だから権能という。ともあれ、この部屋も反転させられて司祭たちは力を上手く発揮できないし、恐らくヤツは自分の属性を反転させてナウラの中にいたんだとも思う。やられたよ』


 権能……スキルの上位版かね? だから気付かなかったってことか。それで隠し通せるものなのかが俺には分からないけど、実際みんな騙されてたわけだしな。神の力、恐るべし。


「おい、お前たちは何を言っている。戦っている途中だぞ。それにそのちっこいのはなんだ?」

『ちっこい? おやおや、君の精霊を忘れたのかいドーラ?』

「ふっ、そんな禍々しき姿で何を言う。ゴブリンの親戚か何かであろうよ。なあヴァン?」

「え、ええ? わ、私? 私ですか? いや、そうですね勇者ドーラ。ああ、その通りだ。まったく私がヴァンだ!」


 いきなり話を振られたティモンがハッとした顔で頷き、適当に言葉を返した。あれは自分の立ち位置がそういう設定にさせられていたことに気付いていなかったヤツの反応だな。


「ふふ、そうだなヴァン。君の愛くるしい姿とあの小鬼とでは何もかもが違う」


 あ、ティモンが引いてる。あれ、小男のおっさんだしな。


『うわ、キモい』


 こっちの精霊さんはこっちの精霊さんで自分の主人に辛辣過ぎませんかね? ライテーはこんなに可愛いのに。


『ラーイ?』

「ん、なんでもないよ。今のままのライテーでいてくれ」

『ラーイ!』

「で、どうすんだよアレ」

『アレ、普段よりもナルシス入ってますね。反転の効果が良く分からないけど、どうも今の彼は非常に自意識過剰らしい』

「ゴブリンのような顔でよくもまあ……ヴァン、見てみろ。あの哀れな小鬼を」

『ああ、うっとおしい。殺しましょう』

「おい!?」


 判断早いなコイツ。


『端的に言ってこの国の危機ですし。僕を扱う勇者が聖王国を滅ぼす原因になったとか笑えないでしょう。どうやってガチャ様に申し開きすればいいんですか?』


 知らんがな。


『というわけで処分しましょう』


 決断早すぎるわ。つか流石に人殺しは難易度高いというか、同級生を殺めるのはちょっと……


「なあ、寅井くんはあんなんだけどさ。まだ助けられることだってできるんじゃないのか?」

『いや、そういうのいいんで。殺っちゃいましょうよ』

「聖剣なのに殺意高すぎるだろ!?」

『聖剣って言ったって所詮は命を奪う道具ですし。殺す以外の用途なんてないのですよ。どう言おうが殺しは殺し。大義名分ってのはただの言い訳に過ぎません』


 まあ、確かにそうだけどな。だからって、何とかなるならなんとかしたいだろう。現代人としてはさ。


『けど、不可能ではないですよ』

「マジで?」

『はい、セイクリッドブレスです』


 それ、神竜の盾から出す炎だよな。ああ、そう言えばさっき炎で剣を炙ってこいつが出たんだったか


『あれで炙ればいけるかもしれません。実際、僕はそれでこの精霊体を外に出せたわけで』

「なるほどな」

『けど、いいんですよ。っちゃっても? 殺してあげた方が本人のためかも? 僕の名誉のためにも?』


 多分、一番最後が本音ですよね?

 ともかく、つまりは寅井くんを焼けばいいんだな。あれ、それはひょっとして普通に死ぬのでは? いや、聖なる炎だし、邪悪な力だけが燃えたりとかそんな感じになってくれるはずだ。多分。


「ふっ、できるかなお前たち程度が!」


 うぉっと、考え事してたら寅井くんが神竜の盾を飛び越えて接近してきた。いや、こっちは弓使うわけだし、剣を使うならそりゃ攻めてはくるわな。でも、そっちがその気なら俺も遠慮はしねえぜ。いくぜっ!


「喰らえッ」

「タカシパンチ!」

「いたっ」

「タカシパンチ!」

「止めろっ」

「タカシパンチ!」

「よ、避けられ?」

「タカシパンチ!」

「ぶべ」

「タカシパンチ!」

「ぐっ、ぼうやべで」

「タカシパンチ!」

「っ」

「タカシパンチ!」

「ひでぶっ」

「タカシパンチ!」

「ひでぶっ」

「タカシパンチ!」

「ひでぶっ」


 勝った。よし、あぶろう!

激しい戦いだった。

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