008 勝利者の休息
腕が強過ぎる自分の力で破壊されて、それでもまた治されて、壊されて、肉片が飛び散って、それでもまだ治されて……
繰り返される。ずっとそんな悪夢を
「う、うわぁああああああああああ」
自分の叫び声が聞こえて、目が覚めた。
夢か? いや、今のは夢だけど夢じゃない。起きたことを俺は覚えている。あのときは冷静でいられたが俺はなんてことをしていたんだ。
腕を何度も壊したり飛び散らせたり……って腕がある? けど、妙にゴツゴツしてる気がするけど……それに身体が動かないし、そもそもここはどこだ?
ええと、地面にシートが敷かれて、寝かされている?
木々に囲まれているし、ここはまだ森の中ってことだよな。
いったい俺はどうなったんだ?
「あ、起きましたかタカシ様」
あれ? すぐ近くからリリムの声が聞こえるな。ああ、俺の頭の上辺りにいるのか。首が動けねえ。うーん。痛いし、動けないしで辛い。
「リリム。なんか全身がバッキバキで……全然動かないんだけど。ここって森の中? ドラゴンはどうしたんだ?」
「覚えていませんか? ドラゴンはタカシ様が倒したんですよ」
俺が倒した? ああ、そうだった。アレ、夢じゃなかったんだったよな。そうなると……ああ、そうだ。確かにあいつを倒したのは俺だ。神の薬草を食べて、あの妙な感じになった俺が核石を貫いてぶっ倒したんだ。
「核石……そういや、壊しちまったんだよなぁ」
「あ、それは問題ありませんよ。その場にあったものは回収してありますし、結局は魔力に分解して奉納するので換金額もほとんど落ちません。それとドラゴンの角も手に入りましたから」
「換金できるのか、良かった。それに角って……あの、その木に立てかけてある二本のそれっぽいののことか。ドラゴン本体はどうしたんだ?」
ああ、そういや意識が途切れる前にドラゴンが紫の霧に変わったのを見たような気がする。
「造魔の霧で生まれた魔物は死ぬと黒い霧になって消滅します。残るのは核石だけですが、時折高密度に魔力が結晶化している部位は残ることがありまして、この角がそれにあたります。野生竜なら霧にならずに色んな素材を手に入れられるのですけどね」
「ハァ……野生竜、そんなのもいるのか?」
霧にならないってことは造魔の霧で生まれたわけじゃない魔物もいるってことだよな。
「そうです。造魔の霧から生まれたわけではない魔物はあまり人間の支配域には近付きませんが核石は上質なものがとれます。それに魔物素材からはガチャに頼らない強力な武器も造れますから、そちらを専門に狙う狩猟者もいますよ」
「へぇ、そうなのか」
俺の知らない色んなことがあるもんだ。まあ、当然ではあるけど。
それにしてもやっぱり体が動かないな。
「なあ、リリム。それでさ。なんだか身体が全然動かないんだけど……俺、どうなってんの?」
「それが……あのタカシ様。右腕のこと、気付いています?」
右腕? ああ、なんかゴツゴツしてる気はするけど……ってなんだこりゃ?
「おい。なんか想像以上にゴツいというか別物なんだけど」
「はい。私にもよくは分かりませんが、形は人間のものながらドラゴンに近いようにも見えます。何がどうしたらこうなるのやら……」
困惑したリリムの言葉の通り、キリキリと首を動かしてようやく目に入った俺の右腕は先ほどのドラゴンと同じような、鱗が生えていて甲冑のような厳つい形状になっていた。いっちゃあなんだが、なかなかカッコ良い気がする。いや……まあ、ともかくなんだろうな、これ?
「いったい何があったんです?」
「いや、何がって言ってもな」
聞きたいのはこっちだよ。
うーん、とりあえずはリリムに覚えていることを話してみるか。
結構こっちでは普通のことだったりするかもしれないしな。
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なんて思ったんだけど、話を聞き終えたリリムは難しい顔をしながら「そんなことが……」と口を開いた。やはり普通ではなかったらしい。
「まずゴッドレアの薬草ですが聞いている限り、能力の強化と超回復……いえ、超再生が一定時間続いているような感じですね。なるほど、神の薬草。さすがはゴッドレアといったところですか」
「いや、感心してるのはいいんだけどさ。それで俺、どうなんの?」
首を動かすのだけでも億劫なんだ。正直このまま死んじゃうんじゃないかと不安になってるんだけど。
「おそらくですが、再生や回復を高速で行ったことによる負荷がかかったのだと思います。それにしては反動が少ない気もしますが」
これで少ないのか。いや、実際にあのドラゴンすら倒したヤベー感じの俺はすごかったとは思うけどさ。
「症状を見る限りは疲労や筋肉痛の類であるように見えますので、身体を休めれば動けるようにはなると思います。それとその変質した腕については再生中にドラゴンの血を取り込んだせいでしょう。こちらはすでにその形状で安定しているようですし、自然と元に戻りそうもありません」
「治らない?」
「そういう治療をできる者もいるかもしれませんが。すみません、私には分かりません」
申し訳なさそうな顔でリリムが謝る。マジか。けど今のところ特に違和感もないし、なんか馴染んでいてあまり気にはならなかったりする。さすがにもうこの世界が夢の中とも思えないしな。元の世界に戻ったときには面倒かもしれないけど……まあ、治療できる人間がいるなら探してみるのはいいか。
「なあリリム。ひとまず治療できるかどうかくらいは確認しておきたいかな」
「分かりました。こちらでも調べておきます。ともあれ、タカシ様。ドラゴンを倒したのですから報酬は期待できますよ」
「マジで?」
「ええ、ですからさっさと戻りましょうね。早く換金しましょう。これだけのものであれば、私のお給金を引いてもずいぶんとお金が入ってくるはずです」
ん? 今なんか聞こえたな?
「リリム、お給金って何?」
「え? 私、雇われてるわけですから……お給金出るのは当然ですよね?」
リリムがちょんと首を傾げる。あ、ちょっと可愛い。けど、ここまでの行動からこいつからは可愛いだけでは乗り切れないものを感じているんだよな。
あーいや、それよりも……そうか従者だものな。俺が雇い主だった。あれ、けど契約ってさ。確か最初に契約書をちょっと見せられただけで、俺内容知らないよな?
「な、リリム。その契約って神様と交わしたやつだよな。だったらお給金出すのって神様じゃないの?」
「そんなことあるわけないじゃないですか。私の雇用主はタカシ様ですよ。ほら契約書にもそう書いてありますよ」
そう言ってリリムが懐から契約書を取り出して俺に見せた。
確かにリリムが俺の従者になることと、対価として俺がリリムに固定給として月金貨10枚と成功報酬の十分の一を払うことを約束すると書かれているな。そうか。給料ってのがあるのか。ああ、ちゃんと見ておくべきだった。けどさ、この契約書おかしくないか?
「なあ、リリム。確かにお前のいう通りのことがこれには書いてあるんだけどさ。契約のサインがお前と神様になってるんだが?」
つまり、そこには俺のサインがない。俺の意思が介在していない。
「え、当然でしょう。ガチャ様の決定は絶対ですし、逆らえば神罰が落ちますよ」
リリムに真顔でそう言われた。神罰かぁ。この場合、多分脅しじゃなく本当に落ちるんだろうな。うん、だったら……まあ、いいか。ドラゴンも倒したしな。なんか理不尽な気もするけど。
ともあれ俺は結局それから翌朝まで動けなかったわけで、その後にリリムの肩を借りてヨタヨタと歩いてようやく町へと帰還を果たすこととなった。
途中ゴブリンが出てきて死にそうだったが、そっちも必死に抵抗してどうにかはなったよ。もう、ホント疲れた。早く休みてぇ。