表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

78/154

078 滅びし者たちの凱旋

 神託の認定式。それは教皇の間にて行われる。聖剣の勇者ドーラである私も当然その場に呼ばれていた。何せ、予言の内容が内容だ。状況を見据えるためにしばらく公表は避けるそうだが、矢面に立つであろう勇者には神託の内容がすでに明かされている。もっとも、今回の認定式はただ、それだけでは終わらないのだけれどな。


(しかし、美しい)


 おっと、思わず呟いてしまったな。いかんいかん。しかし、目の前のこの方を前にしてそう思わぬ者はいるのだろうか。ナウラ様はやはりいつも通りに美しい。闇の気配の欠片も感じない。そもそも、かつて私と共にデミディーヴァ『クライマー』を討伐し、神核石を封印したのは彼女だぞ。魔族たちにとってもっとも憎き存在である彼女が裏切るなどあり得るはずがないのだ。

 だからあのタカスという異世界人の言葉など信じられるはずもない。が、ヤツはマキシムのお気に入り。それに頭も悪そうだったし、口八丁手八丁でマキシムを籠絡する……なんて真似ができる相手にも見えなかった。

 となればあれは魔族と通じているのではなく恐らくは騙されているのだろう。その後ろにいる者の尻尾を掴みたかったが、ああもガードされていては手が出せない。

 まあ、もうじき聖門の神殿の調査が始まれば、ローエン様が答えを出してくれるだろうし、教皇様も本当は理解しているはずだ。きっと泳がせたうえで黒幕をあぶり出そうとしているのだろう。

 けれども口惜しいのはどうあれナウラ様は今回の事態を許すだろうということだ。この優しいお方は自らに嫌疑がかかっていたことを、そう見せてしまった己の不徳として己を戒め、心に陰を落とすのだろう。それが分かるからこそ私にはナウラ様をハメようとした者が許せない。いったい誰が……


「ドーラ殿。どうかしましたか?」

「あ、いえ。今回の認定式。内容が内容ですから、少々緊張しまして」


 おっと、ナウラ様に声をかけられてしまったぞ。どうやら顔に出ていたらしい。私も修行が足りないな。

 まあ、どうかしていた本当の理由は別にあるんだが神託の内容が気になるのも確かだ。何しろ闇の神が活性化し、人類は全滅。そして世界は始原よりやり直す……などという神託はどう控えめに考えても非常に危機的な内容だ。これはこれで考えねばならない話ではある。


「世界の終わりをガチャ様が告げるなど、恐ろしいことです。けれどもガチャ様は神託者殿をお寄越しになったのですから、これは我々の終わりではなく、打ち勝つための試練でもあるのでしょう」

「そうですね。破滅の神託はかつてもあった。それを我々はこれまでもずっと打破して来た。神話大戦とて生き残ったのです。今回も我々は勝つでしょう」


 そう、私がこの世界に来てから調べた限りでも過去に同様の破滅の神託は何度か告げられている。そのたび確かに危機は訪れたのだが、その時代の勇者たちが戦い、回避して来たのだ。神託は絶対ではない。可能性のある不幸な未来を提示し、回避するように指し示すガチャ様からの慈悲なのだ。

 問題はあのタカスという女だ。見るからに頭が悪そうだったからな。ガチャ様の加護であるゴッドレアのアイテムを得ているのは確かで、実際にガチャ様とあったのも間違いないらしいが、しかし……


「しかし、視線がこちらに集中しておりますね」


 む、ナウラ様も気付いてしまわれたか。仕方ないことではあるが。

 この教皇の間にいる全員がすべての説明を受けているわけではないが、それでも意識せざるを得ないのは彼らもナウラ様を中心に動くような配置につかされているためだ。聖騎士団も気付かれぬような配置はしているものの、ナウラ様を包囲するという、その意図するところを察してしまえば心穏やかではいられまい。それが視線となってナウラ様にも届いてしまっているのだ。


「ティモン、何かありました?」

「さて。どうでしょうか。聖剣の勇者殿は何か聞いておりますかな?」

「いや。特にはな」


 むう、このティモンという従者は苦手だ。

 私とナウラ様のパーティがデミディーヴァを討伐した後で雇ったと聞いているが、私のことを嫌な目で見てくる。ナウラ様に寄り付く虫のようにでも思っているのだろう。しかし、私は擬神殺しの聖剣の勇者。ナウラ様と並ぶに足る格ならばあると思うのだが……


「まあ、いいでしょう。これはどうやら漏れていたのかもしれませんな」

「漏れていた?」


 なんの話だろうとナウラ様が首を傾げた。私にも分からない。だが、その意味を模索する時間はここから先にはなかった。急速に増大した闇の気配が外から感じられたのだ。


「これは……」


 そして次の瞬間だ。教皇の間のステンドガラスが割れ、無数の赤く光る虫が飛び込んで来たのは。


「なんだ?」


 あれは火爆蟲? 魔族の操る召喚術だ。なぜアレが今この場に入って来れる?


「教皇様を守れ!」


 そして爆発が起こる……が、聖騎士団があの程度でやられるわけもない。

 教皇様を守るのは聖騎士の鎧と聖壁の大楯をガチャで引いた重装甲の騎士たちだ。共鳴効果により正しく聖なる壁となって教皇様を守る聖王国の盾。しかし、それでも何人かが吹き飛んだか。アレを放ったのは相当な大物のようだが……


「ほぉ、それなりにはやれるか。まあ、それもそうか」


 そして割れた窓からヌッと入って来たのは巨大な黒い右腕を持つイノシシの化け物?

 アレは不味い。我が聖剣でなければさすがに対処は難しいな。


「んッ」


 あれ、背中が熱い? 刺された? 何に?


「ドーラ様?」


 おや、ナウラ様が目を見開いて俺を見ている。ああ、これで確信した。この方はやっぱり裏切ってはいない。けれど


『久しいな勇者よ』

「お……前は!?」


 影だ。影の中に誰かがいる。いや、誰かじゃあない。その気配を私は知っている。心の奥底に刻まれている。そうだ。こいつは私たちが倒したはずの闇の神の欠片の


「お前は『あのとき』のデミディーヴァか!?」


 直後、ナウラ様の影から黒い炎が噴き上がり、私の意識は闇に包まれていった。


 おお勇者よ。闇堕ちしてしまうとは情けない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ