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074 安心と言う名の毒が退路を塞ぐ

「いや、バッカじゃないの」


 病院でザイカンさんたちと軽い打ち合わせをした後、俺はサライさんを呼んで相談をすることにした。相談の内容は簡単に言えば、マキシムに子供を作ってくれと言われたのでどうにか回避できないのか……という感じであった。

 その返答が「バッカじゃないの」だ。

 キツいことを言いなさる。わたくし、そこそこ傷付きやすいタチなのですが。心はガラスでできているのですが。


「アンタね。嫌ならなんで即座に断らなかったのよ」

「マキシムが好意を持ってくれていることは素直に嬉しいと言いますか、そういうのを無視したくないと言いますか」

「大方、なんだかんだと男に戻ってマキシムとよろしくやりたいとか思ってるから、断れなかったんじゃないの?」

「そういう線も否定はできませぬなぁ」


 わっはっは。サライの姉さんは勘が鋭いですなぁ。

 けどねえ。実績1とはいえ、こっちは記憶にございませんって有様ですし。どうにか記憶に残ることをしたい……そういう気持ちって大事なんじゃないかって俺思うんですよね。


「本当にどうしようもない男よね、君」

「そうですかね。誤解されがちですが、思ったよりは良い人だとは思うんですよ俺」

「どうだか。悪人ではないだろうけど、頭は悪そうだ」


 肩をすくめて苦笑い。呆れていますね、この人。


「サライさんって……俺のこと嫌い過ぎないですか?」

「酔った勢いで大事な友人をキズモノにした悪い男を好きになれるとでも思う?」

「ごもっとも」


 うん。説得力のある言葉だね。


「けど、あの子が拒否してないんだから私がどうこう言うことでもないのよ。ただ私の気持ちの問題。それで君にとっての問題はあの子が男になって君の子供を作ろうと考えているということだったわよね」

「ああ、そうだよ」

「いんじゃない。別に? 刺したんでしょう。刺されなさいよ」


 勘弁してください。刺した記憶はないんです。


「それに時々そういうカップルもいるからおかしな話じゃあない しね?」


 いるんだ。まあ、そういうことができる方法があるならね。性癖は人それぞれだね。ハァ……それじゃあ俺はマキシムの聖剣の台座になるしかないというのか。相手がイケメンであればノンケでもホイホイ喰われることに抵抗はなくなるのだろうか。


「いや、そんな絶望的な顔にならなくても……でもね。タカシ、勇者ってなんだと思う?」


 いきなりなんだ? 話題を変えて濁そうってことか。まあいいけど。


「ええと。そりゃあ、ガチャの神様に選ばれた強い戦士じゃないんすか?」

「そうね。ガチャ様に選ばれることで勇者は勇者と呼ばれる。けれど、勇者ってのはね。選ばれたから強いんじゃない。強くなる資質を持っているから選ばれてるのよね」

「資質?」


 どういうこと? そんなものがあるのか? 魔力が高いとか?


「それはね。有り体に言えば『直感』よ」

「直感?」

「そう『直感』。より良い未来を選択できる能力……とでもいうべきかしら。それを持つ人間はさまざまな者になれる可能性を秘めている」

「サライさんも直感持ちってことっすか?」

「そりゃ私も勇者に選ばれたわけだしね。とはいえ、私にはそれほど強い直感はないわ。ともかく勇者ってのは『直感』の強い人間が勇者としての指向性を持たされて勇者という形になった人間なわけね」


 なるほど。才能あるやつを神様があらかじめツバつけて、自分の望む方向に育ててるってわけか。


「サライさん。勇者ってのが直感持ちだって話は分かったけど、それが結局なんなんだよ?」

「ようするに勇者は自分の目的のために常に最善の行動を取れる人間なのよ。特にマキシムは直感が優れている。ゴッドレアが腕輪でなければ聖剣の勇者ドーラよりもあの子の方が名の知れていたはずなのよね」

「つまり」

「多分……回避するの無理じゃない?」


 なんと、さらに追い討ちをかけるための説明だった。


「でもさ。マキシムは男になっても美形には変わりないわけだし、あの子に抱かれるなんて聖王都の女性なら誰もが憧れるのよ。光栄に思ってみたらいいんじゃない?」

「勘弁してください」


 パパならまだしもママは嫌なんです。いやママが駄目なわけではなく、ただ男と生まれたからには男親でいたいだけなんです。男女差別とかそういうことじゃないんです。


「私としては別にいいんだけどね。ただ、そんなに嫌なら呪いを解いちゃえばいいじゃない」

「あの親父さんも乗り気なんだから困ってんだろ」


 なんか孫の話出てから急に乗り気になってんだよ。リリムとヒナコちゃんも賛成派に回ってるし味方がおらんのですよ。


「あのね。ザイカンに無理に頼む必要はないのよ。別にここは聖王都だもの。呪いを解ける神官だっていっぱいいるわよ」

「あー、そうか」

「かけた本人ならそりゃ簡単に解除はできるけど、本人以外に解けないものじゃないでしょ」


 なるほど。そういえば呪いを解いちゃダメよって言われていたし、それはつまり逆に言えばザイカンさんに頼らずとも解けるってことか。

 うん、うん。少し安心した。とりあえず今日、明日でどうにかなるわけじゃないし、明日の認定式を超えたら呪いの解除方法について調べてみるか。ああ、安心した。

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