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073 男×女 男×男 女×男

 王城で行われた教皇様による秘密会議も終えた俺たちはさっさと病院へと戻ることとなった。このまま王城にいる意味もないし、あの場のメンツはなんか生暖かい目で俺とマキシムを見ていたし、寅井くんは微妙に話すきっかけを掴もうとまだ粘っていたしな。城の中でナウラさんとばったり会ったりしてもポーカーフェイス決められる自信もなかったから、こういうときはさっさと戻るに限るってね。


「あれ、なんでマキシムの親父さんがいるんだ?」


 で、だ。俺がリリムの病室に入ると、そこにいたのはリリムとサライさんだけじゃなくてな。何故かザイカンさんとヒナコちゃんもいたんだよ。

 ん? なんで?

 任務終わったら呪い解いてくれるって話だったけどさ。けど、今日ここに来るってのは聞いてないんだけどな。あ、もしかするとサライさんが呼んだのか……と、ザイカンさんがめっちゃ睨んでる。


「お前に親父さんと言われる筋合いはない!」


 ああ、また口にしてたか。しゃーねえな。じゃあザイカンさんって言い直せばいいんだろ。まったく面倒くさ……


「あるよ」

「ま、マキ?」


 あ、俺が言い直す前にマキシムが口を開きやがった。


「僕がタカシを嫁にするんだからね」

「「「「は?」」」」


 みんな何言ってんだって顔してんね。うん、俺も同じ気持ちだよ。




  **********




「お父さんたちには聖門の神殿のローエン様の護衛にと思って呼んだんだよ」

「そうなのか?」


 とりあえずの状況確認。ザイカンさんたちがここにいるのはサライさんが呼んだんじゃなくて、マキシムが呼んだかららしかった。どうやら先ほどの会議の後に教皇様経由で連絡をしてもらったとのことである。


「この国のナウラ様の信奉者は多いんだ。政敵とも言える他の四大司祭様たちでさえ強い敬意を払っているからね。街中でナウラ様のことを悪く言う人間がいたら集団で説法リンチぐらいはされるかもしれない」


 すごぉく物騒な単語が説法に被せられた感じがしたんですが、翻訳ミスですかね。正直もう少し早くそういうのを教えて欲しかったよね。俺、結構綱渡りだったよね。


「まあ、聖剣の勇者ドーラ様と共にデミ・ディーヴァを討伐した話はサンダリアでも有名ですし、教皇様に最も近き者とも呼ばれていますからね」


 リリムも知ってたのか。しかし寅井くん、こっちに来たのは何年前ぐらいなんだ? 高校のときには元の世界にいたはずだし……色々と活躍してるようだし三、四年前くらいか?


「ともかくね。そんなわけであちらの息がかかっていなくて信頼の置ける……というとお父さんたちしかいなくて、教皇様経由で頼んだんだよ。引き受けてくれるって確定したらタカシに伝えようと思ってたんだけど、問題ないよねお父さん?」

「当たり前だ。教皇様から直々の依頼とあってはな。シム家として受けないなんて選択があるはずもなかろうよ」


 ザイカンさんがそう言って嘆息した。ナウラさんを疑うってことに抵抗はあるけど、教皇様には逆らえないって感じかな。いや、それよりも気になることがあるんだろうな。主にさっきのマキシムの発言について。


「そ、それでだ。マキ、その……どういうことなんだ? そっちの若造をお前、自分の嫁にするというのは? 婿ではなく?」


 娘がおかしくなったと思ったのかな。うん、あなたの娘さんはおかしいですよ。俺の息子さんがいなくなったからって、自分の息子さんを生やすために息子さんになろうとしてますよ。止めて。パパ、全力で止めて。


「言葉通りの意味さ。お父さんたちは認めてくれなくとも僕はタカシと幸せになる。今のタカシならそれができるからね」

「ど、どういうことでしょう? あの……タカシ様は男で……」

「リリム、忘れたのかい? 今のタカシは女だ。だったらタカシが子供を産んでくれれば、お父さんたちだってなかったことにはできないだろう。タカシの性別が変わっていなければ、こんなことはできなかったし考えられなかった」

「なんだって!?」


 考えたくねえよ、そんなウルトラC。


「これまでもタカシが僕に好意を寄せてくれていたのは知っていたし、僕もそれを理解していた。けれども僕は勇者としてそれに応えることはできないと思っていた。一夜だけの関係と割り切ったつもりで、タカシの想いを知っていたのにあえて無視していたんだ」


 おい、リリム。「マジかよ?」って目でこっち見んな。

 今のマキシムの言い様だと俺が男の頃から男のマキシムを好き好き大好き的な感じなうえに一発掘られてるように聞こえるがそりゃ誤解だ。おい、ホホォって顔に変わるな。どういう心境の変化でそんな顔になったんだ? 今のお前、┌(┌^o^)┐ホモォ……って感じになってるぞ。止めようよ、そういう顔は。


「けど、それは間違いだった。道は最初からあったんだ。性別の壁だって乗り越えられるってお父さんが教えてくれた。そしてタカシはこんな建前を気にしないと素直にもなれない僕を許してくれたんだよ」


 いやね。それ、ほら……認定式終わったら親父さんが戻してくれるはずじゃん。で、逃げ切れるはずじゃん……てね。おや、なんというか本気と書いてマジって読む感じで追い詰められつつありませんか?


「マキ、あなたはそれでいいの?」


 よし、ヒナコちゃんがなんとも言えない顔で尋ねてくれてる。そうだヒナコちゃん。女友達として、そこの勇者を思い留まらせろ。こんなの絶対おかしいよとか言ってやれ。


「うん。タカシは僕の子供を産んでくれるって同意してくれたよ。彼はね。僕との愛のためなら性別の差なんて気にしないんだ。ふふ、普通に考えれば断られるよね。僕だってそう思った。でもタカシは違ったんだ。嬉しかった。本当に敵わないって思ったよ」


 断るって選択ありましたか。そうですか。

 そして俺の愛がいつの間にか重いな。愛が怖いな。


「来年ぐらいにはヒナコにも僕とタカシの子供を見せてあげられるかもしれない」

「そうなの。う、うん。少し複雑だけど……そっか。それがマキの決断なら私は応援しないとね」

「ありがとうヒナコ」


 あっさり納得されただと!? バッカ。違うだろ。止めようよ。となると最後は親父さんか! 頼む。娘の馬鹿な願いを拒絶するんだ。ほら、ガッツを見せろ。


「孫……か。私に……」


 この大馬鹿野郎が! ちょっと嬉しそうってなんなんだよ。

 なんで世の男親は息子と娘のそういうことへの温度差が激しいんだよ。男女差別ってのはそういうところだぞ。刺したり刺さなかったり、違いなんてその程度だろ。反対しろ。昨日のようなガッツを見せないか!


「色々と思うところはあるが、なんだか色々と解決した気がするな」


 してねえよ。血迷ったな親父。もうバッカ。馬鹿ばっかだな。畜生、この男はもう駄目だ。


「アルトにとってはかわいそうな話ではあるが……」

「そういえばアルトは?」

「うむ。やはりまだわだかまりがあるそうで今回は来なかった。何、傷は治っている。明日の護衛任務は問題なく遂行できるさ」

「そっか。タカシに殴られたことが堪えたのか。まったくアルトにも困ったものだな。昨日はおかしかったけど僕の一番の親友なんだ。できれば祝福して欲しかったのにな」


 無理だろ。というか、本当に徹頭徹尾マキシムはアイツに気がなかったんだな。かわいそう……いや、今の俺が一番かわいそうなんですけどね。

 あ、サライさんはずっと呆気にとられた顔で黙っていました。多分一番まともなのこの人っぽい。仕方ない。あとでサライさんに相談しよう。 


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