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070 ブラックヒストリエ

 聖剣の勇者ドーラ。人は私をそう呼んでいる。

 また雷鳴、聖なる光の化身、疑神殺し……などといったいくつもの異名も得ているのだが、そう呼ばれるだけの実績を上げてきた自信もある。この世界にやってきてから実に十二年の月日が経ったが、我ながら随分と稀有な運命にあったものだと思っている。


 かつて私はここではない、もっと文明の進んだ世界にいた。


 元の名は寅井一茂。異世界の日本という国で生まれ育ち、絶望の末に旅立ちの神アザスによってこの世界にやってきた者だ。

 このアザスという神は世界に絶望した者に逃走という救いをもたらす神の一柱だ。

 人間は困難を前にしたとき、必ずしも立ち向かうことだけが正解ではないのだ。時には逃げることも必要なのだ。

 そして当時の私は世界に絶望していた。すべてを捨てて逃げたくなるほどに。


 そう、すべての始まりは……中学校の頃だろうか。


 当時の私は中学デビューを果たし、生来の黒髪を金に染め、己が何者をも斬り飛ばす聖剣のごとき存在であることを示すべくエクスカリバーと名乗っていた。

 今思えば完全にやらかしていた。だが、あの頃は若かったのだ。何もかもが黄金色に輝いて見えていた。そしてエクスカリバー寅井の名にふさわしいだけの実績もあげてきた。

 浜村西中のグングニル黒田、琴浜第二中のレーヴァテイン松本、中卒上がりのジャックナイフ北見。みな、あの当時の私にとっては強敵だったが勝利した。全国制覇、そんな夢を見たこともある。

 しかし早熟であった私はすぐに己の身の振る舞いに疑問を抱き始めていた。周囲は私をエクスカリバー寅井! エクスカリバー寅井! と褒め称えてはいたが少年はいずれ大人へとなるものだ。それが私は少し早かったのだろう。磨き上げた牙を隠し、戦いの舞台を代えるべく私は金の髪を捨て、勉学に励んだ。

 だが、受験を控えたとある日に、とある言いがかりを教師に叩きつけられたのだ。因果応報とはこのことなのかもしれない。かつてのヤンチャをしたときの業が背後より私に迫ってきていたのだ。


 曰く、多くの生徒のお年玉がカツアゲにあったのだという。

 曰く、犯人は見つからず、被害者は増えているのだという。


 そのカツアゲの犯人が私じゃないかと疑われたのだ。

 中学三年の頃は真面目に勉学に励んでいたのだが、悪行を行った過去はそれを証明してはくれなかった。

 その後に私はお年玉を取られたというタカシという生徒に接触をして見たが、それは当然知らない生徒だった。ただ魂の抜けた顔をして「何も手に入らなかった。何一つ残らなかった。オレに残されたのはただ喰われるだけのゴミだけだったんだよ。笑ってくれよ。オレはすべてに負けた。何もかも失って、嘘を塗り固めた言葉しか紡げなかったんだ」と返してきた。それは心の底から絶望を味わっている顔だった。

 だから私が冤罪なのは当然の話ではあるが、彼らが何かにお金をむしり取られたことも理解できた。その絶望の深さに私は言葉も出なかった。そして確信した。カツアゲをした『ヤツら』は存在している。或いは私が生贄スケープゴートにされたのも『ヤツら』の仕業ではないか……とも。

 結局のところ真相は闇の中だ。ただ、私はその日を境に力をつけることにした。拳だけでは解決できない。勉学だけでは対処できない。であれば、権力を、地位を……だから私は弁護士になり、いつかは政治家になろうと決意したのだ。

 だが、私の試練は大学に入ってからすぐに起きた。

 携帯端末を見ながら友人のひとりがおかしなことを言ってきたのだ。


「え、えくすかりばーとらい?」


 それには思わず目が丸くなった。なぜ彼はその忌み名を知っているのだろうかと。同時に過去に捨てたはずの亡霊の足音が再び背後より迫ってくるのを感じた。


【エクスカリバー】SUPER YANKI【地球破壊斬】


 聞けば、動画サイトの有名な動画を紹介する深夜番組でそんなタイトルの動画が流れていたらしい。

 私はすぐさま携帯端末から検索してその動画に辿り着いた。

 そして携帯端末に映し出されたのは中二の頃の私が、ヤンチャだった頃の私が金色の特殊警棒を構えて振り下ろし、グングニル黒田を真っ二つに切り裂き、ついでに地球も破壊している動画であった。

 

【エクスカリバー】SUPER YANKI【止まるんじゃねえぞ】


 また別の動画では、なぜか私が銃に撃たれて倒れていた。しかもバリエーションが豊富だった。関連動画を追っていくと深夜アニメに私が登場して、アニメのキャラと一緒に戦っていた。意味が分からない。


【ヤンキー先輩】キルゼムオールRTA実況解説


 さらにほかの動画では3Dモデル化した私が、サンプリングされたらしい私の声で、知らないゲームのリアルタイムアタック実況をしていた。パート21まで進んでいて、人気コンテンツになっていた。


【ヤンキー先輩】今期のアニメで一番シコい嫁ランキングを解説する。


 いやアニメとか見てないし、解説されても意味わかんないし、ヒロインディスられた連中によって炎上してるし。


【ヤンキー先輩】アラスカに行く


 行ってねえよ!


 もはや手がつけられなかった。気が付けば対処できないほどにヤンキー先輩はブームになっていた。

 問題なのは身バレして家バレして大学内でもエクスカリバー寅井とヤンキー先輩の異名は浸透していったことだ。

 私は追い詰められていた。普通に考えて見て欲しい。私の知らないところで私が大量に量産されていているのだ。もはや私は私ではなくヤンキー先輩が私であり、私はヤンキー先輩ではなかった。

 あと、るみにゃんを馬鹿にする奴は許さないって脅迫メールが届いていた。るみにゃんって誰?

 ともかく、私は追い詰められていたのだ。こんな世界から逃げ出したいと考えて、どこか遠くに逃げたいと考えて……神の導きにより気が付けばこの世界にいた。


 驚くべきことにこの世界はガチャというソーシャルネットゲームと同じような仕組みが存在していた。こちらにきた特典で引いたガチャアイテムで私は冒険者として生き、さらにはガチャリウム聖王国に辿り着いたときの聖剣ピックアップで勇者の聖剣シスを手に入れた。それは勇者にしか持つことができないのではなく、『所持した者を勇者とする』ゴッドレアの聖剣だ。

 そうして勇者となった私はさらに戦い続け、仲間たちと共についにはデミディーヴァの一柱をも葬った。

 そしてその時の仲間のひとりがナウラ・バスタルト。今や四大司祭となった彼女は私の誘いには応じなかったものの、それでも仲間のひとりなのは確かなのだ。

 だというのに、あの高潔なる彼女が裏切り者だと……憤らぬわけがない。

 そして、それを伝えてきたのが異世界の女だ。確かタカスィとか言ったか。異世界人、それも女性ということであればスィというのはおかしい。共通言語のイシュタル語は言葉を文字に起こすとシとスィとスの差が分かり辛い。だから彼女の名は高須だろうか。

 それと彼女のこちらを眺める目、まるで吸い込まれるように私の顔を真剣に見ている。となればだ。ああ、なるほどな。そういうことか。ふっ……


 この女、私に惚れたな?


※タカシくんは今、性別が女です。

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