表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/154

007 その者、破壊と再生を司る

 ああ、タカシ様が逝ってしまいました。いえ、行ってしまいました……ですね。

 まあ、言葉のアヤではなくなるかもしれませんが。

 けれども思ったよりもやりますねタカシ様。加速のスキルジェムを使いこなしています。相性が良くて何より。

 ただ移動速度はドラゴンよりも速いようですが、ドラゴンって飛ぶんですよね。ほら、やっぱり飛んでしまいました。ピンチです。不味いです。

 それにしても従者になって早々にご主人様を亡くしてしまうかもしれないとは……それも死因が私をかばって囮になったせいともなると、ぶっちゃけガチャ様はお許しにはなってはくれないでしょう。ああ、困りました。タカシ様に助けられたことは素直に嬉しいのですけど、いっそタカシ様をかばって昇天した方が良かった気がします。でも、もう今からじゃあ追いつけませんし、どうしようもありませんね。

 私も神託を受けて浮かれてたんでしょう。天使族にとってガチャ様から直接導きを得られるなんてのは究極の栄誉です。地元に帰ればお祭り騒ぎになること間違いなし。堕天してるうちの一族ならなおさらでしょう。

 だから、ついつい勢いでこんなところまで来てしまいましたけど考えが甘かった。見通しの水晶と雷霆の十字神弓があればゴブリンなんて簡単に一掃できると思っていましたし、そんなことはつゆ知らぬタカシ様が指示した私を有能と考えてくれるはずでしたのに。

 こんなところでドラゴンに出会うなんて最悪の展開です。闇の神の勢いが増している現状を考慮しても運が悪過ぎる。夢も希望もない人生にようやく光が差したと思ったのに、所詮世の中そんなものなんですかね。

 まあ、愚痴っても仕方がありません。タカシ様が逝ってしまった場合には私もあとを追いましょう。そうすれば色々と面目も立ちましょうし、これ以上実家の負担が増えるのも。

 おや、ドラゴンが落ちて……ほぉほぉ、もしかして翼を破ったんですか。タカシ様やりますね。さすがわたしの主人様。良かった良かった。

 あ、でもここからでも伝わるくらいドラゴンから怒りのオーラが出てますよ。ありゃあ本気のブレスが吐かれますよ。不味いですね……って、あれはなんです?




  **********




 ゴッドレアの神の薬草。

 カードから取り出した薬草は虹色の光を放っていた。見ただけで、その草に恐ろしい力が込められているのが分かる。そして、俺はそいつを迷わず喰らった。何しろ時間はない。あと数秒でこの場が炎に包まれて俺は焼け死ぬだろう……なんてのはもちろん理解していた。ネットで炎上した俺がこんなところでリアルに炎上するなんてなどと他愛もないことを考えもした。

 けれども薬草を食べてすぐに『問題はない』と理解できた。

 俺の中に何かが宿ったのを感じたんだ。それが炎など恐れるものではないと教えてくれていた。


 直後、俺は大地を蹴って迫る炎のブレスの真下をくぐった。


 グガァアアア……ガア?


 一気に強力なブレスを吐き終えたドラゴンが首を傾げている。

 まあ、それはそうだろう。その場には俺の骨も、燃えカスすらも残っていなかった。そのことにドラゴンも違和感があったのだろう。けれどもそれも当然だ。俺は炎を浴びてもいないし、今はこいつの真下にいた。


 グガァッ!?


 お、気付いたか。けどもう遅い。俺は一気に右腕の拳を振り上げてヤツの白い腹へとブチ込んだ。


 グギャアアッ


 ドラゴンが苦痛の叫びをあげる。ヤツの腹には今俺の右腕が突き刺さっている。メリメリと音がする。俺の右腕が、踏み込んだ右足が、全身の筋肉が盛り上がっていくのを感じる。

 着ていた服が内側からの圧力によって吹き飛んだ。それでもなお筋肉は膨らみ、俺は勢いのままに拳を振り切ってドラゴンの巨体を弾き飛ばす。


 アンギャァアア


 ゴロゴロとドラゴンが転げていく。

 突き刺しながら振り切ったからな。内臓破裂ぐらいはしてるだろう。

 もっとも、その代償として俺の腕もあらぬ方へと曲がっていた。いや、これは千切れかかっているな。血が盛大に噴き出し、指はグチャグチャに折れて、骨も突き出ている。

 まあ仕方がない。殴った相手がドラゴンだ。筋肉の鎧で身を包んでいたとしても人間の身ではこうなって当然。むしろ、この程度の損傷で済んだことは奇跡とも言える。

 とはいえだ。『この程度』なら何も問題はない。何しろこの身には本物の奇跡が宿っている。ほら、バキバキと骨を砕きながら元の形へと腕が戻っていく。肉が膨張して傷口を塞いで、内部の骨を砕きながら形を整え、同時に傷を塞ぎ再生させていく。そう、これが神の薬草の力だ。内より無限に湧き出てくる生命力によって死という概念はもはや俺には意味を持たない。

 今の俺は無茶が無茶ではない。ああ、全身を巡る血がマグマのように熱い。血液の中に宿る神の力がすべてを可能としてくれるのが分かる。

 おお神よ、俺は今あなたと一体となっているのを感じる。

 

 グガァア


 おや、ようやく立ち上がったドラゴンが俺を見て唸り声をあげているな。

 怒りと警戒を同居させた眼差し。どうやらアレは逃げ出しもせず、俺と戦うつもりらしい。力の差も分からないか。哀れな獣だ。

 せっかくだからこのまま拳で応じてやりたいという気持ちもあるが、生身で戦い続けるのはさすがに『まだ』無理がある。ま、武器ならこいつがあるか。


 雷霆の十字神弓。


 俺はこの世界でも有数の性能を誇るという神弓の弦を一気に引いて、雷の矢を十本出現させた。今の俺ならば分かる。この弓は弦を引く力をあげることで矢をさらに増やせる能力がある。より深くこの魔導器と通じることでそれが理解できている。

 ならばもっとだ、もっと力を込めろ。もっと強く引き続けろ。そうして俺が力を込め続けると生み出された雷の矢は百に到達した。同時に引いた弦の力に耐えきれなくなった右腕の筋肉がブチブチと千切れていく。


 オォオオオオオオ!


 ドラゴンがこちらに対して炎のブレスを吐き出した。

 けれども同時に弦の力に耐えきれなくなった俺の腕の筋肉が爆散した。タイミングは上々。腕から血と骨と筋線維が飛び散り、弦から指が離れて弓から一斉に矢が放たれる。


 そして轟音が鳴り響いた。


 吐き出された炎のブレスと百本を超える矢が空中で激突し、炎と雷が混じってその場で爆発が発生した。もっともその後に吹き飛んだのはドラゴンだけだ。これも当然の結果だろう。俺の百本の矢はただの矢ではなく雷の矢だ。密集した百本の雷はそれぞれが共鳴して面の威力を持ち、迫るブレスごと吹き飛ばしたんだ。


 ギュギャァアアアア


 悲痛な声が聞こえるな。まったく最強の種族であろう存在が情けない。

 その目に怯えが宿ったのは分かったが、残念ながらこちらも破損した右腕はもう修復を終えている。細胞の再生が早いせいで血が蒸発して赤い煙が昇っているがまあ問題はない。

 一方であちらの方も再生能力が多少はあるようだが、全く追いついていないな。ならばあと一息。


 俺は加速のスキルジェムを発動させてトドメを刺すために一気に駆け出した。


 雷霆の十字神弓は百本の矢を放ったことで魔力が尽きて今は矢を出せなくなっている。こちらの限界も近いし、次の一撃には間に合わない。となれば、手持ちにある武器はハイノーマルの鉄の剣か。俺はそれを取り出すとドラゴンの傷付いた腹部へと抉り込むように剣を突き刺した。


 グギャァァァ!?


 ドラゴンが吠える。傷付いた腹部へとさらに追い打ちをかけられたのだからドラゴンといえどたまったものではないだろう。無論その嘆きの声を構うことなく俺は剣をさらに突き入れ、魔物の心臓である核石まで刃を到達させた。

 そして俺が力任せに刃を捻って粉々に核石を破壊すると、ドラゴンは絶叫しながらその場で紫の霧となって消滅していった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ