068 反転する世界
これまでのあらすじ:
SNSで炎上して辛くなったタカシは異世界に飛ばされ、天使娘リリムと勇者娘マキシムと共にガチャったり、魔物倒したり、ドラゴン倒したり、神さま倒したりと楽しく日々を過ごしていました。
世界終わっちゃいそう的な神様の言葉を聞いたタカシは、それを神託として聖王都に届けていることになり、道中でチンピラの神竜をなりゆきで救助。聖王都に向かうついでに神域の危機も報告することとなり、魔族に狙われつつも聖王都に到着し、神域の危機も教皇様のお父さんに届けることに成功しました。
じゃああとはみなさんで頑張ってください。俺は金もらってガチャしますんで……と思っていたのだがそうもいかず……再びタカシは光と闇の戦いに巻き込まれていくのであった。
「神託者殿の認定式が決まったのですか?」
聖門の神殿の中にある執務室。そこでは四大司祭のひとりナウラが従者ティモンにそう問い返していた。
世界滅亡の神託のことや神託者への魔族の襲撃、さらには勇者マキシムによるデミディーヴァの討伐の報告など、ここ数日の聖王都は騒がしい話題が続いていた。
とはいえ、表向きは静かなものだ。本来であればデミディーヴァの討伐を成した勇者を大々的に賞賛すべきではあるのだが、倒した手段も不明だし、封印すべき神核石も現存していないとのことで、詳細が分かるまで情報は高司祭までに留めるようにとのお達しが来ていた。
また神託者の認定式も大々的に行うべきとの話もあったが魔族の襲撃とそれが聖王国側からの情報漏洩によって行われたことも判明し、神託の内容の深刻さも相まってそちらも当面は伏せられることが決まっていた。この神託はいずれ教皇より告げるべき刻に告げるべきであろうと。
「はい。明日に教皇の間で行う予定とのこと。四大司祭としてナウラ様にも招集がかかっております」
とはいえ、神託者に何も……というわけにもいかない。
神託の所有権の移譲を済ませる必要はあるし、そこに神託者を確認したナウラが出席するよう招集がかかるのは当然のことではある。とはいえ、それは想定よりもはるかに早かった。
「あの方が聖王都に来てから数日で……すでに条件は整っているにせよずいぶんと急いでおりますね」
「はい。神託者殿が魔族の襲撃を警戒しており、なるべき早く済ませたいとのことで……教皇様が神託者の要望を通したそうです」
ティモンの言葉にたわわなる胸を揺らしながらナウラがため息を吐いた。
「神託者殿の経緯を考えれば、致し方のないことではありますか。まったく、我が聖王国は何故にこうも魔族の侵入を許してしまうのか。けれども一度認めてしまえば神託者殿を襲う理由は無くなりますし」
「そうですな。認定されれば神託は聖王国の管理におかれたものとなります。本人の重要性が薄れれば神託者殿に対しての危険も薄れましょう。とはいえ……ですな。ねぇ『クライマー様』」
その言葉と共に部屋の中の光と闇が反転するような奇妙な現象が起こった。直後に床のナウラの影よりズルリと黒い宝石が浮かび上がり、空間を邪悪なる気配で満たしていく。
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「ふむ、もう間も無く誰も彼もが死ぬ。であれば神託者ひとりの命にもうなんの価値もあるまい」
そう答えた女はもはやナウラではなかった。その目は暗く、黒く、深淵そのものであった。邪悪、最悪、災厄という概念が形となってその場に現れたと言われても誰もが頷くであろう巨凶の気配がそこにはあった。その姿にティモンは感極まった顔で笑みを浮かべる。
「お目覚めですかクライマー様」
「お前が名を呼んだのだ。であれば出ようよ。この中は息がつまる。はよう、自由になりたいものだが」
「申し訳ございません。しかし、神域も八割は掌握しました。もうしばらくお待ちを」
ティモンが数秒前とは打って変わって苦々しいという顔をして、そう報告をした。神域である霊峰サンティア、施神教の聖地は今やそのほとんどを彼らが掌握していた。もっともまだ邪神の色に染め直してはいない。
施しの神ガルディチャリオーネは自らの神域を侵されようとも未だ静観しているのだが、それはアレが能動的に動かぬ神であるが故なのだ。何かしらの異変に誰かが気付いて救いを求めれば、権能を用いてガルディチャリオーネが救いの手を施す可能性があった。一見して有利な立ち位置にある彼らだが現在の状況は決して楽観視できるものではなかったのである。
「まったく、忌々しいあの駄竜めが無駄な抵抗をせねばこのようなことにはならなかったのですが」
「ガルディチャリオーネの力を直接受けたトカゲだ。我がアヴァドンをあそこまで追い詰めるとは思わなんだが……それで、トカゲの行方はどうなのだティモン?」
「はい。やはり次元を超えて隠れている可能性が高いかと。今は死慈郎に任せています」
「ふふ、そうか。次元抜刀流。我が手駒でもアレはなかなかのひと振りよ」
「……左様で」
わずかに間を置いてティモンがそう返した。魔族と名乗っていても血の薄いティモンにとって闇の神の魔人としてある陣内死慈郎の存在は妬むべき存在だった。
クライマーはそんな配下の心の内を当然察していたし、目の前から発せられる負の感情は彼女の糧そのものでもあった。そうしてわずかに笑みを浮かべながらクライマーは窓の外へと視線を向ける。
「まあ良い。それでは妾はしばし眠ろう。状況が動けばまた我が名を呼べティモンよ」
「はっ」
ティモンの返しにクライマーは満足げに頷くと、周囲を覆う邪悪な気配がナウラの内側に吸い込まれていき、反転していた世界はゆっくりと正常なる姿を取り戻していった。
そこにはもう不浄なる力はなく、再び意識を取り戻したナウラはわずかにボウっとした後に少しだけ首を傾げ、その様子にティモンは黙し、何も語ることはなかった。
一方で、タカシは今……
(あー、ガチャしてえ)
おっさんたちに囲まれて作戦会議中だった。




