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067 翁の決断

 ダルシェンのおっさんをようやく追い込めたところで、いつの間にか庭の端にじいさんが一人立っていた。

 まあダルシェンのおっさん、なんかマジ顔になってたしちょうど良かったのかもしれねえな。見る限り、ゴッドレアの武器も出してなかったみたいだしさ。それで、あの爺さん。着ているものからして随分と高そうな感じで……多分、あれが


「ローエン様。危ないですからこの場に来ては駄目だと申し上げたではないですか」


 ビンゴだ。やっぱり、あの人がローエンさんか。いや……様を付けた方がいいかな。今の教皇の父親って話だしな。礼儀は大切だ。無礼打ちでもされたら堪らん。


「危ないのはお前じゃダルシェン。確かに見極めを許可したのはワシじゃが、ものには限度というものがあろう。ポンポン爆破やらなんやらしおって。ここの修繕費は護衛費から差っ引くし、サライにも言うておくからな」

「そんなぁ。な、なあタカシ。お前もゴリゴリと男と男の勝負の続きをしたいだろう? こんな中途半端にお預け食らっていいはずないよな?」

「え、別にいいよ?」

「マジかよ」


 そんな顔をしても駄目だ。別に俺は勇者と戦いたくないし、平和に生きたいんだ。だから最初から全力で挑んで「ふっ、ここら辺で収めましょうか」とか余裕ぶっこきながらさっさと終わらそうとしてたんだしな。ローエン様が来た時点で終了だよ戦闘狂。

 それからローエン様がダルシェンから目を離して俺を見た。


「申し訳ない神託者殿。この男がデミディーヴァと戦ったというあなた様とどうしても立ち会いたいと聞きませんでしたのでな。しかし神竜様、いや竜人殿であったと知っていれば最初からお止めしたのですが」

「神竜? 竜人? どういうことですローエン様?」

「ふむ。ダルシェン、お前気付いておらんかったのか。ほれ。神託者様の右腕、まるでアルゴニアス様のものと瓜二つではないか。それにそこの盾も紛れもなくアルゴニアス様ご本人を模したもの。さらには、それを自在に使えるということは神託者様は神竜の力を持っておるということじゃ」


 爺さんの話を聞いてダルシェンが驚いてるな。まあ、俺が神竜の力を使えるのは事実ではある。ただ神竜か竜人かっていうと違うんだよなぁ。


「あの……ローエン様? 俺、神竜でも竜人でもないんで敬語はいらんですよ」

「違う? しかし、その腕は?」


 確かに気にはなるだろうけどさ。その前に一言言わせてくれ。


「この腕についての説明もしますが、先に俺が来た目的を聞いていただけますと助かります」

「目的?」

「そうです。俺は神門の管理者の前任であるあなたにアルゴの伝言を伝えに来たんです」


 ああ、そうだ。俺はようやく、ここまで来れたんだ。




  **********




 それから俺はローエン様に連れられて屋敷の中の執務室へと案内された。

 その場は監視を妨害する魔術が組まれているところで、何を話しても外に漏れないような構造になっているらしい。そこで俺はまずは身の証を立てるために神竜の盾を出して、続けてこの腕のことを説明した。再生の際にドラゴンの因子を取り込み、その後に神の力を注いだ結果、神竜の腕と同じものになったのだと。


「なるほど。竜の血と混ざって変異した腕にガチャ様の力を宿してそのような腕になったと。確かに神竜様はガチャ様の力を注がれたドラゴンですからな。同じ過程を踏めば同じ結果となるわけですか信託者殿」

「あ、はい。それでいいと思います。だから神竜だったり、竜人だったりするわけじゃないんですよ」

「ではないというか……ようするに腕限定で神竜なのは間違いないんじゃないか、それ?」


 ダルシェンがそう突っ込んできたが、言われてみればそうなのか。けど、それでどういう扱いになるか分かんねえな。まあ、魔力を込めればパワーがすげー出る腕で便利ではあるんだが。

 そんで、ローエン様ってのは人当たりのいい爺さんで、案内されたお屋敷の豪華さはやはり流石教皇様の父親だって感じだったわ。そもそも教皇様ってのは血族で継がれていくわけじゃなくて、そのときの四大司祭から選出されるらしいな。で、ローエン様のフォドムス家は代々四大司祭と教皇を輩出し続ける名家なんだと。

 そんな家の庭をオレは派手に壊したわけだが、そこら辺は全力でと言ったダルシェンの責任ということで決着がついた。それを聞いてダルシェンはサライさんに怒られるとたいそう嘆いていたが、俺の知ったこっちゃない。頑張れ。


「それにしても神託者殿がアルゴニアス様の使いだったとは。先ほど見せていただいた盾はあの方より賜った神意の黄金符で出したものなのでしょう? 私もかつて一枚いただきました」

「え、マジっすか。出たのあの盾でした?」

「いえ、神竜の鎧というものですね。ドラゴン用ので私に使えるものではありませんでしたが」


 やっぱり出るのはドラゴン用なんだな。まあデカいし、そりゃそうだな。宝の持ち腐れっていっちゃーなんだけど、本来は記念品みたいなもんなのかもしれない。


「先ほどの神託者殿のように召喚体に持たせて使うという手段もありますが、そもそも神竜の力なくしては操作ができませんのでな」

「となると条件満たしてる俺、よっぽど運が良かったんすね」

「ははは、ガチャ様のお導きでしょう。けれど、アルゴニアス様はここ数十年、神意の黄金符を誰にも渡していなかったハズ。つまりは神託者殿は見た目通りの年齢では……」

「いや、見た目通りですよ。神意の黄金符も神竜の盾もちょい前にアルゴからもらったもんですしね」

「それは……どういうことですかな?」


 ローエン様が少しだけ狼狽しながら尋ねてくる。

 まあ、もっともな疑問だな。ここまでは触りだ。そして俺はようやくここまでのことを掻い摘んでローエン様に話していった。つまり俺がデミディーヴァを倒した後に神託認定をされて聖王国に連れてこられたこと、転移門を経由してアルゴに呼ばれて霊峰サンティアに辿り着いたこと、さらにはサンティアには闇の神の配下の巨大なドラゴンがいて、アルゴが今も追い詰められていることとか……そんな感じの話をな。

 もちろん、ふたりは途中から懐疑的な視線も向けてきたが、そこで証拠となるのが神竜の盾だ。俺の言葉を否定しようにもアルゴのくれたこいつは否定できない。


「待てよタカシ。通常の転移門でもサンティアに行ける? ちょっと信じ難いんだがよぉ」


 俺の話を聞いた後、神妙な顔をしたローエン様の横にいるダルシェンが困惑気味にそう尋ねてきた。そこがまず引っかかるのはマキシムやサライさんと同じか。まあ、この聖王都の急所に外から直行だからな。仕方ねえんだけど。


「管理者にも知らせてない非常用のもんらしいぜ。ま、霊峰の転移門の管理者が知っていたらもう全部終わってただろうしな」

「終わってたっていうのは……管理者が……お前、まさかナウラ様を疑っているのか?」

「いや、俺じゃなくて言ってたのはアルゴのヤツだっての」


 怖い顔すんなよ。あんな人の良さそうな女の人を俺が疑えるわけねえじゃん。


「それにアルゴのヤツって……だいたいアルゴニアス様をそのように」

「黙っておれダルシェン。神託者殿とアルゴニアス様は同じ神竜に連なる存在。我ら人の世のことわりを以って口を挟んで良いことではない」

「しかしですな……いや、分かりました」


 そう言ってダルシャンが浮かした腰を下ろした。

 納得したというか諦めた顔だな。


「ともかくさ。俺はアルゴに言われてこのことを伝えるためにローエン様に会いに来たんだよ。あの盾をみせりゃあ、信用して話を聞いてもらえるって言われたしな」

「神託者殿、ちとその盾のカードを見せてもらえるかの?」

「ん、いいけど。破かないでね?」

「そんな罰当たりなことやりませんて。それにカードは所有者でなければ破壊は困難ですしな」


 あ、そうなんだ。それでローエン様が神竜のカードを手に取って見てるが、何を見てるんだ? って、あれ日付か。


「ふむ。実際に盾を出した以上は偽造の可能性はない。それに日付も四日前で記入されておりますな。信じがたいが……確かにこのカードは信じるに足る根拠ではある。それで神託者様。アルゴニアス様は今、竜卵の中にお隠れになっておるという話でしたな?」

「ああ、今あいつが隠れてる隠れ転移門は空間自体が聖域本体とは切り取られてる。だから霊峰の支配権はまだ奪われていない……らしい」

「馬鹿な。それが事実であれば、すぐにでもお助けせねば」


 ダルシェンが憤ってるけどさ。その助けるってのがなかなか難しいんだぜ。


「なあダルシェン。調べるにしてもナウラが今は聖門の管理者なんだろ? こっちがどうにかする前にナウラに聖門を破壊されたらお終いだってマキシムは言ってたぜ」

「ぬ。確かにな。管理者は外敵から聖域を守る最後の手段として聖門を破壊する術を持っていると……」


 そう言いながらダルシェンがローエン様に視線を向け、ローエン様もそれに向き合って頷いた。どうやら、理解はしてもらえたみたいだな。まあ、あのおっぱいデカい人を疑いたくない気持ちも分かるけど、それでもここまで慎重に来たんだしぶち壊されたら最悪だ。


「確かに神託者様の言うことが事実であれば、ナウラに確認を取るわけには行かぬ。その上で聖門を調べるのは前任者のワシが動くのが一番か。アルゴニアス様はあいも変わらず聡明であらせられる」


 聡明ねえ。実際にあった限りじゃあチンピラにしか見えなかったけどな。


「やむを得ませんな」

「ローエン様?」


 そして、ローエン様がゆっくりと立ち上がって俺に視線を向ける。


「アルゴニアス様の危機に何もせぬという選択肢はありえませぬ。ナウラはワシが選んだ者。正直に言えば今も信じられませぬが、状況はそれで思考を停止することを許してはくれないようだ」

「本当にいいんですかいローエン様?」


 ダルシェンの問いにローエン様が頷いた。覚悟を決めた目をしている。


「間違いであるならばそれで良い。アレも笑って許すじゃろうて」

「じゃあ?」

「ああ、神託者殿。アルゴニアス様のお言葉確かに承った。であれば、機会は……神託者の認定式じゃ」

「認定式って、俺の?」

「そうですじゃ。その場にナウラも出席する。その間にワシが聖門を探りましょう。アルゴニアス様に危機が迫っておるなら……そうノンビリしておるわけにもいかんな」


 まったく、ここまで苦労したぜ。そうか、これでようやく肩の荷を……


「ダルシェン、我らも神託者殿と共に動くぞ」


 おろせないみたいですね。まあ、ここまで来たら最後まで付き合うけどさ。アルゴからはいいもん貰う約束もしてるしな。割増料金ぐらいは請求してやるか。

 聖都崩壊編に続く。


 書き溜め期間に入ります。

 前回よりは早めに再開すると思いますので少々お待ちくだされ。

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