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065 三人目の勇者

「ほら、こっちだよ」

「ああ、ここが聖王都の離れか」


 病院を出てサライさんに連れられた先は聖王都の南端にある地区だった。

 そこはサンティリアムと呼ばれている、この聖王都内でも高い地位にいる人間が住んでいる場所だ。なんでもローエンさんもここにいるらしいんだが……


「なんか、緑が多いっすね」

「ここは霊峰サンティアと同調させたエリアでね。神聖属性の魔力が満ちてるから邪悪な存在はこの先には入れない……はずよ」


 サライさんが少しだけ言い淀んだのは、そもそも大元のサンティアが今魔族に乗っ取られてるからだろうな。ただ、木々が生い茂っていて空気がサンティアに似ている感じがあるのは間違いないか。

 にしてもだ。ちょっと揺れるな、これ。


「こら。自前だからってあんま触んないの」

「ハァ……別にエロい気持ちでやってんじゃないっすよ。なんか気になるんですよねえ」


 ザイカンさんにかけられた呪いで女体化した俺の胸は膨らんでて違和感がある。大きさはそこまでじゃねえが、まあ気になるわけですよ。

 そういやマキシムもこの呪術かけられて男になったことあるんだったっけ。ってことは下が生えたってことだろ。デカかったのかね。なんつーか、あいつのは相当デカかった気がすんだよな。


「いいからやめておきなさい。無防備なのよアンタ。ここに来る途中も地区の入り口の衛兵が胸をジロ見してたの気付いてなかったでしょ」

「え、マジっすか?」


そういや、なんかこっちをチラチラ見てた気もしたんだが……マジか。


「サライさん。つっても俺男なんですけど。そんなのの胸見たって気持ち悪いだけじゃないですか?」

「そんなこと相手が分かるわけないでしょう。顔だって中の中ってところだけど整ってないわけじゃないし、十分イケるって思われてるから」

「え、俺ってイケてます?」

「変なところに反応するわね。ブサイクじゃなきゃやれるならやるでしょ……って話よ」


 あー、直球ですな。まあ言いたいことは分かったけど。


「それにアンタ隙が多すぎるわ」

「隙?」

「そう。女として生きたことがないから心構えもできてない。自分がそういう対象に見られてないと思ってるわよね。けど、残念ね。昨日みたいに記憶なくなるほど酔っ払ったら翌朝には知らない男の横で寝てることになるわよ。賭けてもいいわ」

「マジで?」


 なんかトンでもないこと言われてんだけど。想像したらメチャクチャ鳥肌立ってきた。穴がありゃ誰でもいいのか。ヤバいな男。マジ怖いわ。男が滅べば世界は平和になるような気がする。


「気を付けなさい。そっちの趣味があるなら別にいいけど」

「そういうのはいらんです。とりあえず呪いが解けるまでは酒場に行くのを止めます。部屋でテキトーに飲みますわ」

「それでいいわ。性反転呪術エクセスをかけられた男はそういう手合いに絡まれやすい傾向にあるって言われているわ。自分を男と思ってるから距離感が近くなるんじゃないかって話よ。知り合いにもそういうのが……あ、これはちょっと止めときましょう。笑えないから」


 何されたのその人? いや、知りたくないけど。それに女としての心構えとか言われてもワケ分からんしなぁ。まあ色々と不便なこともあるけど、どうせ認定式が済んでザイカンさんたちに説明できるようになれば解いてもらえるわけだし。ちょっと珍しい体験してるぐらいに思っておこう。


 そんで、このサンティリアムの中を進んで行くと、ここまで来るまでに見た中でも一番立派そうな門のある屋敷の前に辿り着いた。

 門には無数の天使とガチャの神様らしい女神が彫られていて左右には大きな石柱があって、白亜の石のブロックが積まれた壁が続いている。


「勇者サライ様。ようこそいらっしゃいました」

「こんにちはロジャー。タカシを連れて来たわよ」


 門の前まで行くと門番らしい男とサライさんが挨拶を交わした。事前に連絡していた相手っぽいってことは、ここがローエンさんの家ってわけだな。で、ロジャーが俺を見てサライさんに尋ねてきた。


「それで、そちらの方がそうですか?」

「ええ。事前に連絡しておいた通り、これ女性に偽装しているわ」


 ああ、そっちまで連絡ついてたのか。


「はい。確かに……女性にしか見えません。タカシ様も大変でしょうが、魔族に狙われているとなればどれだけ用心しても足りるということはありませんので今は耐えてください」


 この門番の人、ロジャーさんが親身になってそう言ってくれた。いい人だなあ。

 つまりは魔族対策の偽装ってことで話が通ってるわけだ。まあ、実際にそういう効果もあるかもしれないしな。


「ありがとうございます。ちょっと胸と股間が気になるけど、今の所はそこまで不便じゃあないですよ」

「だから人前で揺らすんじゃないの。はしたない」


 サライさんに睨まれた。


「それじゃあタカシ、ここからはアンタひとりで行きなさい」

「え?」

「こちらもそう聞いています。屋敷まではこの道をそのまま進めば到着いたしますし、おひとりで入るようにとうかがっていますので」

「あれ、ふたりとも来てくれないのか?」


 もう目の前じゃん。ローエンさんってのは結構なお偉いさんなんだろ。だったらサライさんも付き添ってくれりゃぁいいのに……って思ったんだけど首を横に振られた。


「ロジャーは門番でここから離れられないし、私は邪魔だから来るなって言われてるのよ」


 邪魔? どういう意味だ。けど、まあ仕方ないか。確かにひとりで会うってのが相手の要望だって来る前にサライさんも言ったしな。

 しかし、中に入ってみると入口の門だけじゃなくて屋敷の中ってのも色々凝ってんだなあ。そこらに置かれている女神の彫像だけでもスゲー高価そうなんだけど。それに女神像ってあのデミディーヴァと似ているし、ちょっと見ていて怖いん。似てるってことは瓜二つのガチャの神様をちゃんとモデルにしてるってことなんだろうけどさ。それであれが目的地の屋敷か? あの木と木の間に見える如何にもって感じの……


「ヨォ、来たな」


 そして、俺が道の先のだだっ広い広場に入ると、そこに厳ついおっさんがひとり立っていた。

 それからこっちを見て、なんだか待ってたぜって顔してきた。待ち伏せ? けど、魔族の気配はないし、かといってローエンさんって高齢だって聞いてるからそっちでもないだろうし……となると。


「来たな……ってあんたがローエンさんってわけじゃあないよな」


 おっさんが頷いた。というと、もしかしてこのおっさんがサライさんの旦那さんの……戦鎚の勇者ダルシェンか?

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