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062 闇を払う拳

「ちょっとアルト。いきなりどうしたのさ?」


 マキシムがアルトの唐突な反応に驚きの顔をしているぞ。まあ、そりゃあビックリするよな。俺もビックリしたよ。紳士的な態度で挨拶したらこのザマですよ。何がいけなかったんだ? このイケメンが激怒する態度を取ったつもりはないんだが。イケメンの思考はよく分からんな。俺がイケメンじゃないから分からないのか?


「は、はは、初めましてだと? マキシムにお世話になっただと? クッ、何を抜け抜けと。どう言うお世話だ? いや、ああ……そういうことか。そういうことだったのか。あのとき、お前は全部理解してて……全部茶番だったってことなのか!?」


 うーん、何を言っているのかは分からんが、滅茶苦茶キレてるのは分かった。俺の何が不満なんだろうな? 顔?


「マキシム、そいつから離れるんだ。そいつは、そいつは……君の隣にいていい人間じゃない!」


 しかもイケメン、唇プルプル震わせながらポロポロ涙を流してるぞ。情緒不安定過ぎるだろう。


「そいつはって、なんなんだよアルト。タカシの何が不満なのさ。もう、ゴメンねタカシ。いつもはこんなヤツじゃないんだけど」

「いや、いいんだけどさ。なあ、マキシム。そっちの……アルトさんは大丈夫なのか?」


 マキシムの反応からして普段とは違って、ちょっと錯乱してるだけだと思うんだけどさ。マキシムの親父のザイカンさんもアルトを気にせず俺を射殺すような視線で睨みつけてるんだよなぁ。親バカなの?

 で、ヒナコって娘は……なんなの? その「ちょっと、何これ。面白い」みたいな鑑賞モードの顔してるんですけど。興味シンシンな年頃の女の子なんですけど。


「大丈夫だと? これが大丈夫なワケないだろう。そんなことはお前が一番よく知っているはずだ!」


 いや、知らんがな。


「クッ、あくまでそう言う態度をとるのか。白々しい。タカシと言ったな。お前は僕をおちょくっていたのか?」

「は?」


 もうマジで分からないんですけど。しかも首を傾げる俺を見て、さらに顔が歪んできたんですけど。もうホントワケ分からないんですけど。このイケメン、情緒不安定過ぎなんですけど。


「アルト、止せ」

「嫌ですザイカン叔父さん。いいんですか? そいつは、その男は僕にあんなことを言っておいて、こんな風にふざけて接して……弄んでたんですよ。あの時の言葉は全部、全部僕の心を弄んで……くっ、うぅぅうう」


 止めろイケメン。二度も弄ぶとか口にするんじゃない。なんだか俺がお前を手篭めにしたような言い様じゃないか。リリムがいたらオホッとか言ってたかもしれん。しかし、あの時ってなんだ? こんな凶相のイカれイケメンと会った覚えもない。こんなイメージ劇画調のイケメン、見たら絶対忘れない自信はあるんだけどな。


「だからさ。アルト、その態度はどういうこと? なんなの一体!?」


 お、マキシムが俺の前に出てアルトに問い詰め始めた。


「それに今の僕はタカシの護衛なんだよ。君がそういう態度でタカシと接して、それでタカシを傷付けようとするのなら僕も容認できない。仲間だろうと僕は君を斬り伏せる!」

「マキ、違うんだ。そうじゃない。その男は君がそんな風に護ってやる価値のある男じゃないんだ」

「君にタカシの何が分かるのさ?」

「分かるよ。君は誑かされてる。いや、なあマキ。違うよね? 嘘だよね?」


 イケメンが意を決した顔で、マキシムに尋ねたぞ。


「話には聞いていたが、やっぱり君自身は何も変わっていない。ただ君の正義感を盾にその男にいいように使われているだけなんだ。それにやっぱり信じられない。君がそんな男に体を許したなんて……なあ、嘘だと言ってくれマキ。君はまだあの頃のままの君なんだって」


 おいおい、こいつ。なんでそんなこと知ってんだよ。というか、もしかして親父さんにもバレてる? ああ、その顔はバレてますね。しまった。ここは完全に俺のアウェーじゃないか。騙された。この場は弾劾の場で、俺は罠に飛び込んだ哀れな子羊だ。となれば、頼むマキシム。どうにか柔らかいニュアンスで、こうなんとか俺とこのイケメン……は無理としても親父さんとの間を上手く取り持つような言葉をかけてくれ。俺が土下座する時間を稼ぐんだ。ほら。


「え、サライってばそんなことまで話したの? ヤダなあ。恥ずかしいし。け、けどなんでアルトがそんなこと言うのさ。僕とタカシが……な、ナニをしたって君とは何も関係ないじゃん。意味分かんないよ」


 違う、そうじゃない。止めろマキシム。顔を赤くして言うな。髪を指でクルクルするな。お前はどうしてそっち方面で強気なんだ。ほら、イケメンがもう完全に魂が抜けたような顔してるだろ。なんか、こう……下痢で腹を壊して5時間トイレで頑張って出てきたときに鏡に映っていた俺みたいな顔だぞ、アレ。


「それにね。タカシは凄いんだよ。詳しいことは色々あって言えないけど、タカシのものを食べて僕はすっごく強くなれたんだ。終わった後はドロドロになったけど……けどその後もタカシも優しくしてくれたし、僕はその……あのとき身体が軽くて熱くて、本当に、本当に凄かったんだから!」

「マキ。お前、そんなはしたないことを」

「お父さんまで何さ。はしたないなんてことはないよ。お父さんだってタカシのものを食べれば分かるんだから」

「私にも食べろというのか!?」


 やばい。マキシムと親父さんがガッツリ腕を組み合った。というかゴッドレアである神の剛力の腕輪持ちのマキシムと組み合ってタメ張れるあの親父さんはナニモンなんだ? なんかあの場の空気が重くなって地面にめり込んでクレーターできてるし。ヤバい。あんな親父さんに問い詰められたら俺が死ぬ。


「くぅ、お父さんも何なのさ。タカシの何が気に入らないんだよ? タカシのこと、何にも知らないくせに」

「何も知らないわけではない。知っている。本人に正しく教えてもらったからな。その男は……最低の屑だ!」


 おや、その言葉……最近何処かで聞いたような?


「話にならない。ねえ、ヒナコもなんか言ってよ」

「あ、ごめん。流石に今のはちょっと……はぁ、マキも大人の階段登っちゃったんだねぇ」

「大人……う、うわぁああああああ」


 あかん。イケメンがぼろ泣きして内股で俺へと駆けてきた。

 目が完全にイッてらっしゃる。


「タカシ!?」

「お前が、お前のせいでマキが、マキがぁあああああ!」


 しかも速い!? さすがマキシムの仲間ってところか。それに剣を抜かれた。神聖属性の魔力って、それ聖剣じゃん。こいつはヤバッ


「タカシィィイ!?」


 それは一瞬だった。凄まじい拳撃になすすべもなく吹き飛んだ。

 タイミングは完璧だった。ああ、そうだ。まるで吸い込まれるように完全に決まっていたんだ。


「ぶべらぁぁあああああ」


 そして、人間が回転しながら吹き飛んでいく姿をこの場の全員が目撃した。


「……馬鹿な」


 ザイカンさんが呟く。だがアルトの無残の姿を見て理解せざるを得ないだろう。誰が勝者で誰が敗者なのかを。

 そう、その場で倒れたのは俺じゃない。アルトだ。俺が放ったその一撃は魔族討伐限定ガチャで手に入れた『カウンタースキル』二個+竜腕の膂力+ウルトラレアの神罰の牙+神弓の未来視、それらすべてが噛み合って生まれた聖なる必殺拳だったのだ!

だったのだ!

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