057 双丘の邂逅
良し。まず、状況を整理しよう。
俺たちはガチャリウム王国へと神託書を届けに来た。
それは俺と神様のやり取りを記録したものであり、同時に俺の確認をもって確定となるらしい。その後の認定式で俺は晴れて神託者の称号を得て、報酬も出て、限定ガチャが解放されるのだそうだ。
報酬は金貨400枚ある。が、マキシムへの借金はとりあえず待ってもらうことにした。払う意思はある。ただ今の俺には限定ガチャが必要だ。サライさんは渋い顔をしたがマキシムは分かってくれた。さすが勇者だ。俺の曇りなき眼からきっと世界の平和に必要なことなのだと察してくれたのだろう。
ちなみにデミディーヴァの神核石を破壊したことは実のところまだ秘密だ。勇者であるマキシムが倒したってことぐらいは伝わっているはずだが、これは神官長の報告書を預かったマキシムが教皇様に直接渡すことになっているとのこと。どうも神の薬草の件は神託者以上に慎重にしたいみたいなんだよな。まあ、俺も大っぴらに切り札を話したくはないから問題はないんだけど。
そんで俺たちを襲った魔族の召喚士だ。あいつには聖王国経由で情報が漏れたのは間違いない。ただ俺が神核石を破壊できることを知らなかったことからサンダリア王国の神官長経由からではなく、あくまで聖王国側のどこかで漏れたと見るべきだろうというのがマキシムの推測だった。連中がその情報を知っていたら、最初から本気で殺しにきただろうって脅された。本当にどんどん深入りしてる気がする。平和に生きたい。
その上に俺はここに来る途中で神竜アルゴニアスと会って、闇の神の眷属たちの企みと四大司祭ナウラの裏切りを知ってしまったわけで……
「……ハァ」
「どうかしましたか?」
おっと、ため息が出ちまった。
美人の神官さんが心配そうな顔でこっち見てるぞ。
「いえ。何でもないです。ここ最近は色々あったんで疲れちゃって」
「ふふ、それはそうでしょうね。ガチャ様とお会いして神託を受けて、それで魔族の襲撃もあったのでしょう。それでもここまで生き残れたのだからきっと神託者様にはガチャ様のご加護が大きいのでしょうね」
加護ねえ。いやぁ、それはどうかと……って、頭がちょっとイタ……この程度でも? いや、すんません。うん、神様の加護万歳。凄い。加護良い。ふぅ。
まったく。チェックが厳しいぜ。こんな世界だから信仰も厚いんだろう。
現在、俺は聖城イスィの中で神託の確認をしてもらっているところだ。
案内された部屋でこの神官さんに内容を読み上げてもらって頷くだけの簡単なお仕事です。なんだかもっと怖いことをされると思ってたんだが、そんなことはなかった。しかし、なんで怖いことされるって思ったんだろうな。不思議だな。
それにこの人、めっちゃ胸デカい。あんまジロジロ見るのも失礼だし、チラ見しかしてませんけどね。まあリリムやマキシムも顔はいいんだけど、こういう落ち着いたお姉さんの方がやっぱり安心はするんだよね。
サライさんは俺に当たりがキツいしさ。
「ははは、ガチャの神様にはいつも見てもらっているみたいです。それで内容に関してはこれで問題ないです。俺の記憶と一致しています」
とりあえず目を通したが、当たり前だが学都で確認した通りの内容だった。何も問題はない。ちゃんと世界がヤバいって感じのことが書いてある。大問題だな。
「そうですか。ありがとうございます。ガチャ様の導きに感謝を。しかし、文面からするに神託者様は異世界人なのですね。色々と苦労されたでしょう」
これまでもそうだったけど異世界人って結構すんなりと受け入れられているんだよな。リリムもマキシムも俺のいた世界のことは知ってたみたいだし。
「ええ、まあ。けど異世界人って、俺以外にもいるんですか?」
「私も会ったのは初めてですけど時折報告はありますよ。実際には報告よりも随分と多くの数の異世界人がいるでしょうけど、何分こちらはあちらの方には色々と厳しいようですし……報告があったときにはお亡くなりになっているということも少なくはありません。痛ましいことですが」
マジか。けど、神様も死にやすいとか言ってたしなぁ。こんな世界に現代っ子が迷い込んだんじゃあ仕方ないっちゃー仕方ないか。俺は随分と運が良かったんだろう。ただ、ひとつだけ気になることもある。
「あの……知っていればでいいんですけど、元の世界に戻ったヤツとかいるんすかね?」
そう、こっちに来れたのなら戻る方法だってあると思うんだよ。最近は色々ときな臭くなってきてるし、戻れるなら戻るって選択肢も考えておきたくはあるんだよな。ただ、そうなると契約してるリリムも連れていかないといけないか。あいつの月の報酬金貨20枚が地味にキツイ。あっちでそんな金出せる甲斐性、俺にはねえしな。
「残念ながら私はそのような話をうかがったことはございません。ただ、気を落とさないでください。あなたはガチャ様のお言葉をいただいた神託者なのですから、きっと救いはあるはずです」
なんだか慰められた。うん、駄目そう。ま、しゃーねえ。別のところでも調べてみるか。
「ありがとうございます。救いを見つけるためにも地道に調べてみますよ。それで神官さん、これで神託の内容については確認が取れたってことでいいんですか?」
「はい。そうですね。この内容で教皇様方に確認を取ります。恐らくは数日中に認定式を挙げて、そこで神託者認定がされることとなると思いますよ」
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「タカシ、終わったみたいだね」
部屋から出るとマキシムがすでに待機して待っていた。
リリムももう普通に人間の形に戻ったのでサライさんもようやくリリムの護衛の方も引き受けてくれた。それにマキシムも今回はデミディーヴァの報告をするっていう用事があったんだよな。
「まあな。確認だけだからすぐに終わったよ。あとは偉いさんでチェックしたら正式に認定してくれるってさ。で、そっちも終わったのか?」
「うん。僕の方は簡単な説明と報告書の提出だけだからね。それで……」
「おや、マキシム様ではないですか?」
あ、確認の神官さんも出てきたか。って、あれ? マキシム。お前、顔が固まったぞ。信じられないって顔をしてこっちを見てるが……あ、元に戻った。で、なんか丁寧に神官さんに頭を下げ始めた。あれ、この人ってもしかしてかなり偉い人?
「お久しぶりですナウラ様」
ん? ナウラ様? 誰? 誰が? あーいやいや、今この場で名前を呼んだんなら、当然答えは決まっているな。ここには三人しかいなくて俺とマキシムと……で、つまりはこのたわわな女の人がナウラ……様? え、マジで!?




