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053 光の中の闇

「ウギャァアアアアアア!!??」


 イッテェ。危ねえ。か、川に落ちてなんとか助かった。流されそうになったが、どうにか岸に上がれた。相殺の衝撃だけでこの威力かよ。余波で死ぬところだったぞ。マッチョは加減てものを知らないな。


『ア・レ、生・キ・テ・ル?』


 って……あの肉天使、首を傾げてるぞ。ナチュラルに俺が生きてることを不思議がってるんですけど。


「り、リリム。お前、今俺が死んだと思ってたって顔してたよな?」

『ウ・ウ・ン、チ・ガ・ウ・ヨ』

「嘘だ!」

『ウ・ル・サ・イ・死・ネ』


 普通に死ねって言われたよ?

 ああ、これが神の薬草の暴走か。あんなに清楚可憐……とは言い難いが、黒い部分は基本隠す主義のリリムさんがこのザマとは。悪感情持たれたまま薬草使われると本当にこっちが殺されかれんな。ヤバいわ。気を付けよう。うん、今も猛獣を前にしてるような感じだし。


『タ・カ・シ・サ・マ。ソ・レ・ヨ・リ・モ・マ・ダ・生・キ・テ・ル』


 ああ、生きてますよ。俺は! ん、俺は?

 いや、ちょっと待て。マジかよ。あの魔族、いつの間にかデッカイ魔獣になっていて、すっげえボロボロだけどまだ立ってやがるぞ。あれがあいつの本性ってことかよ。ボロボロだけど。

 それにしてもさっきの一撃の威力なら上級竜にだって結構ヤバいダメージ与えられると思うんだけど、地面から出したあのでっけえ黒い手プラスあの姿になって止めたってことだよな。すごかったんだなあの魔族。もう虫の息っぽいけど。


『クソッ。何という化け物だ。今の一撃……こんなものが増えれば、勇者どころではないぞ』


 おいおいおいおい。なんだよ、アレ。まだ姿が変化していく。

 なんか、あの黒いイノシシに似ている? 

 いや、もっと禍々しい化け物に変わった。もう人間の原型が残ってないぞ。こりゃあ、ヤバ……


『マ・ア・イ・イ・ヤ。二・発・目・イ・ク・ヨ』


 ……くはないですね。あの魔族改めキモデカイノシシが顔青くしてるし。そりゃあどうにか耐えきったと思った攻撃がまた来ると思うと辛いよな。さっき、お前にあの虫出された俺もそうだったよ?


『二度続けてだと。クソッ、このバケモノがぁああ!!』

『オ・前・ガ・言・ウ・ナァアア』


 あ、リリムさん。ちょっと気にしてたんですね。そんで突っ込んできたキモ豚にドーーーン。ああ、こりゃあさすがに死にましたわ。クレーターできてるし、あいつが黒い霧になって消えていく。呆気ない終わりだったな。でっかい核石も残ってるし、つまりアイツは……というか魔族って魔物なのか?


「まあ、とりあえずは拾っとこう」


 やっぱりデカい。こいつは結構な換金額になりそうだ。

 それにしても極限の神罰ってこんな威力だったのか。神の薬草の効果もあるんだろうけどすっげえ強力。これなら今後もリリムさんのマッチョ天使化は使えるな。うん。武神の法衣でマッパではなくなったわけだし、これなら安心して薬草食ってもらえそう。な?


「残・リ・ハ」


 え、掴まれた?


「飛・ブ」

「お、おぉぉおおおおおおお!?」


 こいつ、俺をどうしようってんだ。

 るのか? まさか次は俺をるのか? って、崖の上まで飛び上がった。おお、上は森が広がってるがここからなら聖王都まで辿り着けるだろ。なんだよ、残りはとか言うから殺されるかと思ったじゃねえか。核石も落とすところだったよ。危ねえ。


「まったく、ちょっとビビったぜ。けど、ありがとうリリ……」


 プシャーーーー


 あ、リリ汁。




  **********




「ザクロムが失敗した?」


 凍りつくような冷たい女の声がその場に響き渡った。

 今はすでに日も落ち始めた頃合いだったが、その場は外よりも仄暗い、闇の気配に包まれていた。そこは神殿の中だった。そして、その場にいたのは女と二人の男だ。大きな胸をたわわに揺らす女を前にマキシムに陣内死慈郎と名乗った侍と、タカシ達を襲った者とは別の魔族が立っていた。


「神託者がアレを倒し、神壁を踏破したというのですか?」

「左様ですクライマー様。すでに聖騎士団が彼らを救助し、今は聖王都に入ったとの報告が入っています」


 魔族が女にこうべを垂れて、そう返した。その言葉を聞きながらクライマーと呼ばれた女が眉をひそめた。


「まったく想定外ですね。ザクロムは人間を甘く見る悪癖がありましたが……だとしてもたかだか声が聞こえただけの者に倒されるほど弱くはない。つまり本命は勇者ではなかった?」

「さて、あのマキシムという者も相当な手練れでしたがな」


 死慈郎がそう口にした。肩口に斬られた跡があったが、すでに治癒したのか着物の切れた合間からは傷口は見えない。


「死慈郎、お前ほどの男でも倒しきれませんでしたか」

「はい、クライマー様。手傷は負わせましたし、邪魔さえ入らなければ……とは思いますが、あちらも本来の得物ではなかったようです。時間の猶予もなかったこともあり、少々もの足りぬ結果とはなりました」


 そう言いながらも死慈郎は嬉しそうな笑みを浮かべる。確かに今回は退いたが、まだ戦う機会はある。それを死慈郎は予感していた。源内死慈郎という男が闇の神に己を捧げたのは、このような強者との戦いを未来永劫続けたいと願ったためであった。


「もっともデミディーヴァ様を討ち取ったというには足りぬかと。やはり神託者たちに何かあるのかも知れませぬな」

「私もそう思います。そしてクライマー様、ザクロムからの遺言も先ほど届きました」


 そう言って魔族が持っていた籠から赤い輝きを放つ蛾を放つと、それはクライマーの前まで飛んで、その場で光の粒子となって弾けた。それと同時に彼らの脳裏には二つの単語が響き渡る。


『天使の怪物』

『神託者は神竜に連なる者』


 それこそが召喚師ザクロムが消える前に残したダイイングメッセージであった。ザクロムはリリムに敗れる直前、仲間たちに最後の言葉を託したのである。


「天使族の方に何かあると? それに神託者が神竜に連なる者ということはまさかアルゴニアスの?」


 動揺する魔族の言葉にクライマーが「いや」と口にする。


「神託者は我らが霊峰を襲う以前にこちらに来る予定だった。アルゴニアスはまだ見つかっておらぬが、アレが助けを呼んだのでは辻褄が合わぬ」


 霊峰サンティアの護神竜アルゴニアス。不意を打って致命傷を負わせたはずだった忌むべき神の獣は未だ行方知れず。短期間でサンティアを乗っ取る予定が崩れたことで彼らは今焦っていた。

 そのため一時的に外部へと注目の目を向けさせるために神託者を殺害する計画も立てたのだが失敗に終わったばかりか手勢を失う結果となってしまったのだ。


「神竜に連なる者に天使の怪物。我が同胞をも打ち倒すほどの存在か。黄昏の刻限を前に厄介な者たちが現れたものだ」


 クライマーがそう口にして目を細める。

 対処すべきか否か。サンダリア王国でのデミディーヴァ降臨を失敗に終わらせるほどの相手だ。ザクロムを失った今は下手に動かず、当初の目的を完遂すべきではないかと。


「いかが致しましょう。殺しますか?」


 死慈郎の問いにクライマーは首を横に振った。


「確かに其奴らは我が同胞を殺した者たち。危険な存在だ。しかし、アルゴニアスをこちらが封じている以上、気付かれたということはないはずだ。であれば、今は下手に手を出さぬ方が良かろう」

「そうですな。悪母竜アヴァドン様が霊峰を支配すれば、この聖王都も深淵アビスへと堕ちる。余計な策が身を滅ぼすのはザクロムが身をもって知らせてくれたこと。今はアルゴニアスの探索を優先すると致しましょう」


 魔族の言葉にクライマーが頷く。


「それでは、これにてこの場は解散とする。あの女によろしくなティモン」


 クライマーの言葉にティモンと呼ばれた男が笑みを浮かべて頷き、そして世界は反転した。





「あら」


 西日差す部屋の中で女性がひとり、声をあげた。

 すでに時間は夕刻。空の様子からそのことに気付いたその女性、ナウラ・バスタルトは自分がついうたた寝をしてしまったのだと理解すると少しばかり苦笑して、豊満な胸をたわわに揺らしながら立ち上がった。


「おや、ナウラ様、お目覚めになられたのですね」

「なんですか『ティモン』。いたのなら起こしてくれれば良いのに」


 少しばかり咎めるようなナウラの言葉にその場にいたティモンと呼ばれた男は「ははは」と笑う。


「最近はお忙しいようですから、少しはお休みになられないと……と思いましてね。雑用は片付けておきましたので、そちらの書類に目を通していただければ今日はもう大丈夫ですよ」

「お休みにって、あなたの方こそどうなのかしら。まったくティモンにはいつも頭が上がらないわ」


 まだ寝ぼけているのか、どこか惚けたような声をしたナウラだが、優秀なお付きの言葉には素直に従うべきと考え、そのままたわわに揺らしながら自分の机へと向かっていく。

 そこは聖王都の中にある聖城イスィの東側にある聖門の神殿。ナウラはそこを預かる四大司祭のひとりであった。

 彼女はいまだに己が事態の中心にいるのだと知らない。光のナウラ、輝きの者、たわわなる果実などと呼ばれる彼女は未だに己の身に起きている状況に気付いていない。

 その身より溢れる光の属性の内に闇の神核石が潜んでいることなど、今はまだ……

聖都崩壊編に続く。

※次章は四月中の更新予定です。

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― 新着の感想 ―
そういえば今章、魔属襲来編ってなってますけど魔族の誤字、だったりとかは…
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