051 天使舞う
さて、魔族がやってきた。
戦う?
逃げる?
うん。逃げ場はないし、助けが来るとも思えないわけで、そうなると戦うしかないってわけなんだよね。となりゃあ、先手必勝。あの馬鹿、空飛んで余裕ぶってやがるがこっちはイメージすりゃあ百発百中なんだぜ。
「出てこいライテー」
神竜の盾は一旦カードに戻し、そんでライテーと一緒に雷霆の十字神弓を出す。
『タカシ、あれ敵か?』
「ああ、魔族だよライテー。リリムを殺しかけたヤツだよ」
そうなんだが……なんだよ。こっちが構えたのにまだ動いてねえ。こっちの攻撃が当たらないって確信があるのか? 悪いが俺の神弓はドラゴンの矢除けの加護だって抜くウルトラレアなんだぜ。さっさと貫いてビリビリさせて落としてやる。いや、こいつ……
「これって、どういうことだ?」
「タカシ様、どうしたんですか? さっさとやっちゃってくださいよ」
リリム煽るな。お前、首締められたの相当根に持ってるな。けど、おかしいんだ。当たるイメージはあるが、どう見ても矢がすり抜けてる。
「となると幻? アレって囮か。クソッ、リリム下がれ」
「へ? はい!? キャァアアア」
加速のスキルジェムを発動した。おし、ギリギリセーフだ。
突き飛ばしたリリムが転がっていってるが、まあセーフだろ。全然セーフ。何しろつい今まで俺たちがいた場所にゃあ、馬車を橋から落としたあの馬鹿でかい猪が落ちてきたんだからな。
「ほぉ、気付いたとはな」
「うっせ。恨みは直接返すだなんだ言っておいて豚でプレスとか。せこい真似してんじゃねえよ」
で、あの魔族野郎の姿は……いつの間にか地面に降りてる。いや、幻で油断させておいてとっくに降りていたんだろうな。それに、あのいきなり俺らの真上から落ちてきた巨大な黒イノシシ。ありゃあヤバい。イメージ通りならふたりとも潰されてたし、見た感じからして普通に強そうだ。
「口の減らぬヤツだ。しかし、我が幻影に黒の神獣の不意打ちまで察知したとはなかなかやる。やはり只者ではないのか」
「只者なんだけどな」
しかしマキシムが倒した召喚獣もイノシシだったって言っていたし、つまりはみんなこの魔族の仕業確定で、今回魔人の侍と組んで仕掛けてきやがったってわけだ。ここまで追ってきたってことは狙いは神託者ってことか。
「大体だな。あんた、こっちを神託者と決めてかかってるが、誰から聞いたんだよ。知ってるヤツなんざ限られてるはずだぞ」
「しょせん、施しの神の結束など脆いものよ。闇は貴様らの背にいつだってあるだろうに」
「なんだと……リリム、どういうことだ?」
「多分、適当なことを言ってハグらかしてるだけですよタカシ様」
そうか。そうなのか。ズルいヤツだな。
「……やはり魔族か」
「何がやはりなのか分からぬが、若干馬鹿にされた感じがするぞ人間。しかし神託者など、たまたまあの女の声を聞いただけの愚物であると理解していたのだが……これはなかなか楽しめそうだ」
「タカシ様、気をつけてください。あの召喚士の実力は分かりませんが、黒の神獣ということは闇の神の眷属に該当する魔獣です。下級竜から中級竜には匹敵すると思います」
マジか。なんか黒いオーラを放っていてデミディーヴァに近い感じがあるし、ヤバそうなのは見てりゃ分かるんだけどな。
ともかく厄介なのはサイズだ。川辺の岸と言ってもここはそんなに広くもないし、暴れ回られるとキツい。となれば、こいつに頼りになるのはいつもアイツか。
「出てこいボルトスカルポーン!」
「ふん、あの時の召喚兵か。しかし、狭い部屋の中ならばともかく、召喚体としての格は大したものではないようだがな」
ああ、お前は知らないんだな。まあ見てな。ビックリするからよ。
「ライテー、サンダーレインだ。プロモーションはルークで設定!」
『ラーイ』
そう厄介なのは大きさだ。だったらこっちもデカブツを用意すればいい。そいや、金雲纏った矢をポーンに刺したぞ。
「何? 自分の召喚体を攻撃? いや、これは!?」
驚いてるな。けど、別に味方を攻撃したわけじゃない。ほら刺さった矢が金雲となって雷を放ちながらポーンを覆っていく。そして出てくるのは巨人の骨でできた雷纏う巨大な骸骨兵ボルトスカルルークだ。
「巨大な骸骨兵が出てきた? これはまさかプロモーションか」
そうさ。雷を吸収したボルトスカルポーンはプロモーションしてボルトスカルルークにもなる。3メートルはある巨人の骨の兵士。こいつならあの黒イノシシとも渡り合える。
「ルーク、そのイノシシを掴め。助走をつけさせずに押さえつけときゃどうとでもなる」
勢いをつけさせてタックルされるのはマズイ。そうだ。押さえつけろ。その間に俺たちがあの魔族の召喚士を倒せば……
「それでは私はあの召喚士をぶっ倒します。あの時はよくもッ」
あ、ちょっとリリムさん。いきなり突っ込まないで。
「おい待てってリリム」
違うの。お前にはアーツを頼みたいの。
「任せてください。相手が召喚士なら接近戦で、キャアア!?」
おいおい、リリムさん。アイツ一発で吹っ飛んだぞ。武神の法衣で戦闘力が上がったとはいえ、油断しすぎだろう。あの子、馬鹿なの?
「ふん。あのときの良い声で鳴いてた女か。少しは勇ましくなったようだがやはり温い。まあ待っていろ。その男を殺したらたっぷり可愛がってやるからな」
相変わらずリリムは役に立たないな。一体どう強化したらいいんだ。
で、リリムをぶっ飛ばしたのはなくなっていたはずの左腕から生えた、太っとくてウジュルウジュルしてるヤバい腕っぽい何かだ。あれは召喚して繋げたのか?
なんというか、キモい。
「ふ、恐怖に震えているな」
なんかドヤ顔されてるし、クトゥルフ的なものを感じる。まあいい。口より矢を出したほうが早い。イメージしろ。頭は……流石に殺すのは……だったら身体に当てる。
「馬鹿め。そんな矢など……ぐわっ!?」
よし、刺さった。避けようとしたんだろうが、こっちはそこまでイメージで見てるし直線で当たるからな。悪いがエイム力の低い俺でも当てるぐらいならイージーモードってなもんだ。って、あいつ突っ込んできやがった。痺れてダウンしないのかよ。ヤバい。そこまでイメージで見えてなかった。それにあのキモ腕から黒い煙が出てる。
「こちらの回避を読んで、矢避けを通すか。まさかこの男、勇者に匹敵するのか」
評価爆上がりしてる。嬉しくねえ。
「しかし、所詮は弓兵。潰れて死ね!」
マズイ。あのキモ腕、多分ヤバい。どうする?
だったらまずはイメージだ。ああ、見えた。あれは力場を生み出して俺の全身を殴る……って感じのヤツだな。それなら身に覚えがあるし、こっちだって使える。
「神罰の牙、発動しろ。アーツ・シルヴァーハンマー!」
「闇の腕、潰殺せよ。アーツ・ブラッドハンマーッ……何!?」
おし、相殺した。神罰の牙のアーツは魔族の召喚腕のアーツと同じハンマー系。神聖属性と闇属性の違いはあるが威力は拮抗しているみたいだ。けどな。
「その魔導器、まだ使いこなせてはいないようだが……貴様自身の膂力はスキルもスペルもなしに人を超えているだと。一体何者だ?」
「知るか。ちょっと前までソシャゲの実況主だったんだけどなぁ」
「何?」
ま、お前にゃ理解できないだろうけどな。けど、分かってることもあるぜ。リリムの予想通り、こいつ自身のパワーは大したことはない。アーツ同士の威力が互角なら、この竜腕に魔力をしこたま乗せりゃあテメエのチンケな腕力なんざ目じゃねえってことさ。そんじゃあ一気に
「おらぁッ」
「くっ、この呪魔の豪腕を超えるだと!?」
じゅま? 腕の名前か? しっかし、吹っ飛ばしはしたがダメージはなさそうだな。まあ距離は取ったんだし、だったら神弓で攻撃を……
「ええい、ハンマーボア。いつまで遊んでいる。アレを潰せ!」
ブモォォオオオオオ
チッ、ルークが黒イノシシに弾き飛ばされた。
魔族野郎が魔力を与えて出力を上げたってことか。召喚体はそういう使い方もできるってことかよ。だったら……いやルークは尻餅ついてるし、黒イノシシは止められない。
「タカシ様、危ない」
「大丈夫だ。このイノブタ程度なら」
だったらルークの召喚を解除。そんで再び神竜の盾を前に出す!
「その盾はあのときの!?」
ああ、そうだ。お前の腕を燃やしたシロモノさ。そりゃあ覚えてはいるわな。しかし、どうにか盾を支えられたがあんなでけえのにぶつかったら盾ごと潰されちまう。さっさとやらねえと不味い。
「ハンマーボア、早くぶつかれ! それは不味いッ」
「遅えよ。吐き出せセイクリッドブレス!」
一息吸って思いっきり力を盾に流してやる。今、こいつと俺は繋がっている。
それにだ。ああ、分かるぞ。こうもできるのか。首の横に飾りとして置いてある両腕だが、こいつも操作できる。この金属の腕を操作して地面に固定させ、ドラゴンの首から一気に銀の炎を吐き出させる。
ブモォォオオオオオッ
「ハンマーボア!?」
おっほぉ。おし、黒イノシシを丸焼きだ。
しかも一撃で倒したみたいだな。黒イノシシが黒い霧になって消えていってる。核石が残らないのが残念だが一丁上がり。残りはあの魔族のみか。
「く、クライヤーミリアム様の神獣を一撃でだと? ホテルで見た時から気にはなっていたが……その神竜の顔を模した盾。貴様はまさか」
あ、やばい。アルゴとの関係がバレたか?
「神竜の竜人か」
バレてない。大丈夫だ。
「ならばやはり生かしてはおけんな」
駄目だった。




