005 天の導き手、その先を示す
天使族のリリム。
施神教の神殿勤めから俺の従者へと転職した少女が今目の前にいる。
天使族と名乗っている通り、こいつの背中には翼が生えている。腕はあるのだから実はこいつ阿修羅的な生き物の親戚なのかもしれない。
ともあれ、そんな阿修羅もどきのリリムが俺にガチャについての講義をしてくれている。
さっきは他の神官や神官長らしい人が来て神託がどうとか今後の対応をどうするかとか話をしていたんだけど、結局後で改めて話し合うとのことで今は解散している。何しろ神様の希望で俺の従者に転職だからな。色々とあるんだろう。
「さてタカシ様。ガチャを行うには施しの聖貨が必要です。これをどうやって手に入れるのかは分かりますか?」
そしてリリムの講義だ。正しいガチャどころか、この世界のほとんどのことを俺が知らないのはリリムも神様に言われて知っているからな。ひとまずはガチャについて教えてもらうことにしたんだよ。
「聖貨は確か月に一枚もらえるんだよな。他はイベントをこなすとか? 転移したり、新しい国に辿り着くともらえるんだろう。それで……後は魔物を倒す……とかかな」
リリムが俺の言葉に頷いた。ああ、やっぱりいるんだよな魔物。まあ、神様も言っていたし、でなきゃなんでガチャで武器をもらえるのかってことだしな。
「そうですね。そもそもガチャとは闇の神クライヤーミリアムの眷属である魔物を打倒するために、ガチャ様が自らの力を我らに貸し与えてくださる契約の儀を示しています。ですから魔物を倒してガチャをするのが一番正しいガチャとなるんです。実際の手順から言いますと魔物を討伐しコアであり、魔力の塊である核石を手に入れ、それを神殿で換金を行い、手に入れたお金で施しの聖貨を購入してガチャを引く……という流れですね」
「その核石ってヤツを換金するのも、聖貨を購入するのも神殿なんだろ。だったら核石を直接、施しの聖貨に換えりゃあいいんじゃないのか?」
なんだか回りくどいよな。わざわざ手間を増やしている理由が分からないんだけど。
「それでは討伐者……魔物を倒して生計を立てる者をそういうのですが……にお金が入りません」
ああ、そうか。別にガチャをするためだけに魔物を倒すわけじゃあないのか。それから俺は納得したと頷き、話の続きを促した。
「はい。そして魔物を倒し、核石を神殿で換金し続けることで実績を上げれば、様々なガチャを受けることができるようになります。それは属性魔術の限定ガチャだったり、対竜装備ガチャであったり。それに地域限定や期間限定のガチャもありますよ」
「ほうほう。けど、逆に言えば何もなければさっきの全なる可能性ガチャしかやれないってことか」
俺の言葉にリリムが「そうですね」と返した。
「全なる可能性ガチャは先ほどのタカシ様のようにウルトラレアを出すこともありますが可能性は限りなく低く、大抵は薬草やポーションのみのショボ……あまりうま味のないガチャなんです。まあ、タカシ様が手に入れたそのカードに関してはまた別なのですが」
俺の持っているカードの束の一番上のものをリリムが指差した。
そこにあるのは最後に手に入れた薬草のカードだ。けれど、表記されている名前には『神の』ってのが頭に付いていて、枠も虹色に輝いていてレアリティもノーマルではなくなっている。
「タカシ様が最後に引いた薬草のカードですが、ガチャ様により加護が授けられているようです。レアリティがゴッドレアになったのもそのためです」
そう、神様が従者とともにくれるって言っていた加護がこの薬草のカードらしいんだよな。
「貴重品……なんだよな?」
「ええ、とっても。どの程度、効果が強化されているのかは分かりませんが、そこに太陽のマークが描いてありますから陽が昇ると復活するタイプのようです」
一日経つと復活するねえ。ゴッドレア、最高のレアリティのアイテムを何度も使えるってのは結構すごそうだな。
「ゴッドレアはウルトラレアと違って運だけではどうにもできません。ガチャ様が選んだ者のみに送られる加護ですからね」
「神様に選ばれてもらえるねえ。完全に普通じゃ手に入れようがないものなんだな」
「はい。通常はもっと特別なアイテムに適用されるはずなのですが……その、薬草にも加護が付与されるというのは私も初めて知りました。考え方によっては、低レアアイテムが最上級入りしたのですから、その効果自体は相当に恐ろしいものになっているのかもしれません。それに何かしらのデメリットが存在する可能性も」
「いや、脅かすなよ」
「脅しじゃないですよ。過剰性能で暴走して自滅……なんてこともゼロとは言えませんから。ガチャ様もあまりそういうところ、考えないこと多いですし」
多いのかよ。マジか。希少なことには変わりないんだし素直に喜ばせろよなぁ。
「でもさリリム。効果は元の薬草を強化した感じになるんだよな?」
「はい、そのはずです。調べる方法はありますから、使用はその後での方がよろしいかと」
「お、おう。分かった」
仕方ねえ。とりあえずは我慢するか。
「それでタカシ様。カードの使い方についてもおそらくは知らないですよね?」
そうだな。ただ、出し方はさっきリリムが見せてくれたから。
「さっきのお前と同じようにカードに呼びかければいいのか?」
「そうです。名前を告げるのと一緒に出てくるんです。このように。出なさい流水の槍!」
リリムがカードを取り出して呼びかけるとカードから水が出てきて、それから水が槍へと変化した。で、今のを俺もやれるってことだよな。じゃあ、さっそく。
「出てこい雷霆の十字神弓。と、うぉ!?」
取り出したカードが俺の声に反応し、雷を出して空中に弓の形を形成していく。そしてカードに描かれていた通りの重ね合わせてXにしたような形の弓が出てきた。なんか、すげえな。けど、弓か。
「なあリリム。確かに武器は出てきたけどさ。矢がないと使えないよなこれ?」
十字神弓はウルトラレアだから強力な武器なんだろうけど、矢がなければ射ることはできないよな。ガチャで出すのか、それとも武器屋とかで買うのか?
「いえ、タカシ様。これはですね。弦を引いてください」
「こうか。おっと、これは雷の……矢?」
弓の弦を引くと雷でできた矢が出現した。放電してるけど俺にビリビリ来ることはないみたいだ。不思議だな、これ。
「これって俺の魔力……とかで出してるのか?」
「いえ。その矢は神弓自体の魔力から造られています。さすがウルトラレアの魔導器といったところですね」
「へえ、すごいなウルトラレア。ところで魔導器ってのは、この武器のことを指してるってことでいいんだよな?」
「はい、そうですね。神の力を帯びた武器を魔導器と言います。魔導器が成長すれば、魔力を消費して使用するアーツが扱えるようにもなりますよ」
へぇ。それって必殺技的なヤツか。けど成長ってどうすんだ? まあ、なんとなく察しはついてるんだけどさ。
「その成長ってのはどうするんだ? 武器を使い続けるのか、それとも魔物を倒して経験値を稼いだりするものなのか?」
「経験値というのは分かりませんが、魔物を倒すというのは正解です。それと先ほど説明したように魔導器にはジェムスロットが付いています。スキルジェムやスペルジェムをセットして所持者の魔力を消費することでスキルや魔術も使えるようになりますよ」
加速のスキルジェムなら二個あるけど……神弓にはスロットが四つ付いてるな。となるとこの弓には両方装着できるわけか。
「スロット数はレアリティに依存していますが重ねることでひとつずつ増やせます。レアならひとつ、スーパーレアならふたつ、ウルトラレアならみっつ。スーパーレアでも最高四枚重ねてスロットを五つにできますし、重ねるたびに性能も向上します。場合によってはレアリティを超えて強力な武器になることもありますよ。戻りなさい、流水の槍」
リリムの声に反応して槍が水になってカードの中に吸い込まれていった。
「それと、これは重要なことですがカードは所有者が破ることで中のアイテムが解放されます」
「解放?」
カードから呼び出すのとは違うのか?
首を傾げる俺にリリムが話を続けていく。
「はい。カードに戻せなくなりますが、誰にでも扱えるようになります。例えば、旅立ちのマントは日常的に使用するでしょうから、破っておいたほうがいいと思います。ジェムみたいにスロットに装着させない限りカードの使用は三枚までですから、そういうものは解放して使ったほうが良いのですよ」
「となると解放すれば三枚制限はなくなる?」
そうなるといくらでも武器が使えるようになるけど、いいのか?
「そうです。ただ、同時に神の恩恵も失います。スキルジェムは力のない宝石に変わりますし、炎の短剣もただの短剣に変わるワケです。神の力が宿っていない薬草や鉄の剣などなら問題はありませんが、魔導器はそうではありません」
ああ、そういうことか。それじゃあ迂闊に解放はできないな。上手い話ってのはなかなかないもんだ。
「なるほど、解放すると俺のこの弓もただの弓になっちまうってことか」
「そうですね。ウルトラレアほどの魔導器なら神の力を失っても武器としては十分に強力ですが、価値は実質千分の一程度に落ちると言われています。よほどのことがない限りはそんな馬鹿な真似をする人はいませんが、いらないカードは解放して神殿で売り払うのが普通です。二束三文ではありますけど、結局はカードは三枚しか使えませんから無駄に持っていても仕方ないんですよね」
そっか。なるほどねぇ。
で、今俺の手元にあるのは……
神の薬草 GR
雷霆の十字神弓 UR
見通しの水晶 SR
炎の短剣×2 R
加速のスキルジェム×2 R
鉄の剣 HN
旅立ちのマント HN
木の盾 N
銀貨 八枚
金貨 二枚
薬草・ポーション多数
銀貨金貨、それに薬草やポーションは多いし解放して売っちゃえばいいか。リリムはマントは解放して……と言ったが、神弓以外は別に一緒に使う必要があるものもないし、解放するとかさばるからまだ別にそのままでいいかな。
「薬草なんかは解放して売り払うとして装備品はとりあえず残しておくよ」
「はい、それでも今は問題ないと思います。増えてきたら考えれば良いことかと」
俺の言葉にリリムは頷き、それからにこやかな顔をしながら続けてこう言った。
「それじゃあタカシ様。次は核石を手に入れに行きましょうか」
「というと?」
「魔物を倒すんです!」
うん……まあ、流れ的にはそうなると思ってたよ。