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047 疑惑の壁を砕き真実へと至る

前回までのあらすじ。

リリムが男を連れ込んだ(疑惑)。

 リリムが男を連れ込んだ?

 それはマズ……いや、待て。別に俺が慌てる必要はないんじゃないのか?

 そうだとも。動揺する理由はないはずだ。何しろ俺とリリムは雇い主と従者で、別に男女の関係ではないんだからね。あいつがプライベートで何をしていようと俺の知ったこっちゃないはずだ。

 いや、まあね。ちょっとショックではある。ああ、認めよう。たとえ恋愛感情を抱いてなかろうが男というものは身近な女性に知らない男の影がチラついたら少しばかり心に揺らぎを覚えるものなんだ。わずかばかりのNTRネトラレを感じてしまう存在なんだ。

 ただ、それも昔の話。俺とて実績1の男だ。かつてならばリリムを心の中でビッチ呼ばわり、その内「へいビッチさん」とノリで口走って普通に嫌な顔をされてちょっと凹んでしまっただろうが、今の俺は男を連れ込む程度のことは許容できる器がある。実績1の男だからな。

 そもそもだが酒場で別れてからわずかな時間に男女の仲になるようなサクセスがあの女にあるとは思えん。見た目可愛いが、かなり辛辣な性格だからな。となれば、恐らくはデリバリーで頼んだんだろう。そういうサービスもあるんだろうな。ファンタジーだしな。怖いなファンタジー。それにデリバリーか。今度調べてみよう。

 まあそこそこ金は渡しているし、あいつが日頃のウサをそういう形で晴らせるならそれはそれだ。仕方ない。あいつが一晩己をその男に姫と呼ばせてハッスルしていようが個人の問題だ。プライベートと割り切ろう。

 ただ心の中でビッチさんと口にするのは許して欲しい。ごめんな。心の緩衝材みたいなものなんだ。ちょい前まで童貞だった男にはやっぱり難易度が高……ん?

 なんだろうか。リリムの光が少しずつ弱くなっていっている気がする。

 それに見通しの水晶で見た普通の人間の光の色って大体青から緑だった筈で、青紫って……どの種族だったっけ? 以前にリリムから説明を受けたような。確かなんだか危険な……そう、あの色は魔族だ。あれ? それって不味くないか?


「いやいや、そりゃあ普通に不味いだろ。ライテー出ろ」


 あかん。一気に酔いが覚めた。カードを出すのも時間が惜しい。マジならヤバい。これすごく不味いぞ。


『ラーイ』

「サンキューライテー」


 カードから出てきたライテーが十字神弓を俺に投げ渡してくれた。

 間に合うか。集中してイメージを……ああ、見えるぞ。悪そうな顔した白肌の長耳男がリリムの上にまたがって……首を絞めてる? クソ、ふざけんなよ。何してくれてんだ、こいつ。


「そこからどけよな、テメェ!」


 俺は一気に弦を引いて矢を放った。

 壁にはそこそこ強力な魔法防御が張ってあるが、穴を開けるイメージは見えている。だったらイケる。


「何!?」


 おし、壁が崩れた。ハッ、いきなりのことにあの男、ビビってやがるな。だけどイメージで見た通りにやっぱり届かないか。壁の防御力が高過ぎて男に当たる前に矢が消滅したんだ。さすが高級ホテル。


「気付いていたのか、貴様?」

「ハッ、フヒュウ」


 それで、やっぱりあのクソS野郎はリリムの首を締めてやがったな。リリムも苦しそうだが無事だ。だったら、まずはあいつをリリムから引き離す。


「出ろボルトスカルポーン」

「召喚兵だと?」


 そらよ。カードを投げ入れてあっちの部屋でポーンを召喚してやったぜ。けどポーンの攻撃を……チッ、あいつは避けたか。ま、リリムから距離を離すのには成功したしオッケーだ。そんで続いては壁を作る。


「出てこい神竜の盾!」

「なんだと? ドラゴンの顔の盾?」


 そうだ。次に俺が出したのは今日手に入れた神竜の盾。3メートルの楕円の盾だ。このホテルの部屋内なら壁にするには十分だが、これはどういうことだ? 竜腕から力が盾に流れてる。これ、もしかして同調してんのか? となると分かるぞ。この盾は『こう使える』んだ。


「燃えやがれ!」


 そうだ。俺の意思に従え。盾から突き出ているドラゴンの頭部は今俺と同調している。俺自身となっている。であれば、あぎとよ開け。その内に込められた炎を吐き出せ!


「な、ギャァアア!?」


 おお、炎を腕に浴びた魔族が悲鳴を上げて転げてるぞ。しかし出てきたのは銀の炎か。アルゴのブレスと同じっぽいな。なるほど、あいつ由来の盾だけはあるな。予想以上に強力な武具だったみたいだ。


「セイクリットブレスだと? ただの人間ではないのか? であれば仕方あるまい」

「待て。ポーン!」

「その程度の召喚体で止められるか!」


 チッ、ポーンの攻撃を避けて窓の外に逃げたか。しかし追いかけるのは……


「ハァ……ハ……ァ。タカシ様?」


 いや、この状況だ。今はリリムの安全が優先だし、追うのは止めておこう。

 何しろ知らない町で今は夜だ。まだ酔いも抜けてない状態じゃあ返り討ちにあいそうだしな。


「ポーン、窓を見張っていてくれ。あいつが戻ってくるかもしれないからな」


 ポーンが剣を振り上げて応じたのを見てから、俺はリリムの方へと視線を向けた。首を押さえて苦しそうにしているが無事みたいだな。といっても結構ヤバかったな。まったく。


「おう。リリム、大丈夫か?」

「は、はい。どうにか……相手もすぐに殺すつもりはなかったようですが」


 まあ俺が部屋の異常に気付いてからもそれなりに時間は経っていたし、殺そうと思えば殺せてたはずだからな。


「で、なんなんだアイツ?」

「分かりません。魔族のようですが、寝ていたらいきなり首を締められて神託者のことをどうとかと言って……苦しむ私を見て楽しんでいるようでした」


 S野郎か。ま、そこに助けられてリリムは殺されずに済んだわけだけど感謝する筋ではないな。しかし、あれが魔族か。俺が先に狙われたら死んでいたかな。颯爽と反撃には……うん、無理。間違いなく死んでた。


「音を遮断する魔術を使って、ゴホ……いたようで、助けは来ないものと思っていましたが……天翼結界も翼を閉じて寝ていたので使えず、どうしようもなかったんです。本当にありがとうございますタカシ様」

「お、おう。なんだか気配を感じてな。いやぁ、助かって良かったぜ」

「ふふ、さすがですね」


 うむ、リリムが普通に感謝してる。黒塗りを透かそうとしてたまたま発見しただけなんだが……まあそいつは俺の胸の内にしまっておくか。リリムの感謝の気持ちに水を差すこともないだろう。

 それにしても魔族か。アルゴの件がバレたんじゃなく、リリムの言葉通りなら神託者を狙ったってことだよな。となると聖王国経由で魔族に洩れたってことだろうし、うちの頼りになるはずの護衛様がいないのも知ってたんじゃないか。こりゃあ、マジで情報漏えいがガバガバ過ぎる。もしかして、アルゴの件抜きでも今結構やばい状況なんじゃないか?

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