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046 黒き闇を払う力

「町の近くで黒い巨大な猪みたいな魔物が出たそうですね」

「で、聖騎士団がボッコボコにされて、マキシムが代わりに戦うことになったと?」


 宿に戻った俺たちがお供の神官さんに聞いた話によれば、つまりはそういうことらしい。その神官さんも慌ただしくどこかに行ってしまったのでそれから俺たちはフリーになってしまったわけだが、話を聞いたリリムは訝しげな顔をして首をひねっている。


「そのようですが……聖王都の近辺ですし、普通に考えて聖騎士様方が負けるような魔物が出るはずがないのですよね。どういうことでしょう?」


 この聖王国は国自体が神の力に護られていて造魔の霧が出にくく、野生の魔物も少ない。なんで世界で最も安全な国だとかいう話だったんだよな。まあ施神教の戒律もあるから、他の国よりも住みやすいかっていうと別らしいんだけど。

 とはいえだ。そんなところに強力な魔物が出たっていうのは普通はあり得ないわけで……いや、そういや最近似たような状況に遭遇したことがあったな。


「なあリリム。あのさ。サンダリアでもデミディーヴァのせいで上級竜とか出現してたよな。これってアレに近いんじゃないか。アルゴがドジって霊峰が乗っ取られた影響が出てきているってことなんじゃね?」

「あーなるほど。その可能性はあるかもしれませんね」


 当てずっぽうで言ったんだが、リリムが神妙な顔で頷いているところを見ると可能性としてはありなのか。


「まだアルゴ様が一応の支配権は握っているにせよ、霊峰サンティアは実質的には悪竜に乗っ取られている状態です。それが歪みとなって聖王国内に影響を及ぼしている可能性は否定できません」


 うーん。となると、ここ以外でもそういう問題が起きてるのかもしれないってことだよな。


「早めに問題を解決しないと同じようなことが別のところでも起きるかもしれませんね」


 リリムも同じことを思ったか。かといってマキシムも今出かけてるし、急いで聖王都に向かおうってわけにもいかない。今は予定通りに進むのが一番だろう。


「まあ、今無闇に慌ててもいいことはないか。ともかく自然に案内されて、さらりとローエンって人を見つけてアルゴの件を伝える……で終わるのがベストだろ?」

「そうですね。本当にナウラ様が裏切っているとすれば、不審な行動は疑念を抱かれる可能性もあります。アルゴ様の言う通りに行動するのがよろしいかと」


 ですよね。

 しかし、マキシムめ。俺も連れてってくれれば倒した際の分け前も少し貰えたかもしれないのにな。今回あいつは俺の護衛だから護衛対象に危険な目には合わせられんってことなんだろうけど、転移門以来微妙に過保護になってる気がするし妙に距離も近いんだよ。リリムのあらーって顔がともかく辛い。

 まあいい。出発は元々明日だからな。ひとまずは町で買い物でもして、酒場で飲んでと普通に過ごすとするか。




  **********




 そして、夜も更けてきたので宿に帰宅である。

 リリムも酒場まで一緒に来たけど、テキトーに帰ってきてくださいねと言って途中で宿に戻っていっちまった。従者って一体何をする人なんだろうな。よく分からないな。

 もっとも飲み過ぎは危険だと学んだ俺は、ほろ酔い程度で留められた理性の塊である。さす俺。リリムなどいなくともほれこの通り。宿の入り口でちょっと吐いてすげえ嫌な顔をされた程度で済んだのさ。スゲエ。

 で、俺らが止まっている宿ってのは実は結構立派なホテルなんだよ。

 ホテル代が教会持ちだからできることなんだけど、かなり高級な部屋をひとりで借り切らせてもらってる。内装もなかなか豪華でふかふか布団もある。ああ、これはヤバイ。ここにずっといたら駄目になる。

 けどなぁ。こっちに来てからずっと戦うか疲れて寝てたかばかりだったし、こういう普通に休める日って貴重だよ……なぁ……


「はっ!?」


 おっと思わずウトウトしてしまったか。いけないいけない。すぐに寝ちゃいかん。今後について考えようってさっき決めてたんだった。

 まあ、とはいえだ。やることっていえば、明日に町を出て聖王都に行って、そんで神託者認定されてお金と称号とガチャの権利を得てウルトラレアを当てるついでにローエンって人にアルゴのことを伝えるってだけだけどな。

 そんでローエンって人が結局誰だかはまだ分からないけど、聖王都に着いたらリリムの方で聞いて回ってもらう予定になってる。マキシムにはアルゴのことを伝えるかは置いておいて、それとなく話して人探しを手伝ってもらおう。聖王都にも勇者はいるらしいし、あいつはそいつらとの伝手もあるみたいだからな。

 で、神竜の盾については俺が引いたんだからそのまま貰える。普通だと使い物にならないほど大きいけど、俺にはボルトスカルルークがいる。予定通りにあいつに持たせてみて様子を見てみればいい。

 ルークが防御担当で、俺はルークに乗って攻撃を仕掛けてみる。うん、いけるんじゃないか。あとはその場で置いて壁代わりにするぐらいか。縦3メートル、横2メートルぐらいだけど楕円だからなぁ。地面に突き刺さないと立たないのが欠点だが……いや待てよ。出現ポイントをずらして落とすってのもあるな。なかなかに重そうだし、これも結構いけるんじゃなかろうか? けど出現ポイントってどうやって決めてんだろ? 検証してみりゃいいか?


 まあ、そんなところか。

 どうせ俺はこっちのことも良くわかってないしな。方針だけ決まってりゃあ、あとは臨機応変になんとかするしかねえし。

 そんで、ひとまず頭の体操も終えたことですし、お土産を使わせてもらいましょうかね。うーん、お土産というかオカズ? 的な。


 これ、酒場で胡散臭そうなオッちゃんが売ってたものなんだけどさ。なんでも紙に見たものを投射できるスペルってのがあるらしいんだよね。簡単に言うと魔術で写し出す写真なんだけど。

 で、それを利用した女の人がハッチャけている本を入手したわけ。

 パッキンの美人さん、良いね。凛々しくてちょっと誰かに似てる気もするヤツをなんとなく手に取っちゃったんだよね。うん、そうね。記憶ないから上塗りできないかなってね。うん、なんでもないよ。違う違う。そういうことじゃない。

 ただね。聖王国だと規制が多くて胸部の突起は黒塗りになっているんだよ。サンダリア王国だと塗りつぶされているのは下だけだって話だから本当はあっちで買っとけば良かったんだけどなぁ。あー失敗した。あっちにいたときは忙しかったしこんなのあるって知らなかったし仕方ないんだけどさ。ああ、残念だわ。ホント。


 ……なんてな。


 普通のヤツならそんな悔しい思いをしているところなんだがね。ただ俺は違う。

 実は酒場で別のヤツから聞いた話なんだが、見通しの水晶とかその系統のアイテムを使うと黒塗りの部分が透けるらしいんだよ。いやいやマジかよって思ったけど、まあファンタジーだからな。そういうこともあるんだろう。ファンタジー的な力で黒塗りを除去できる。すごいな。特権だな。ホント持ってて良かったですわ、見通しの水晶。

 けど、いざ見通しの水晶を出してみて気付いたことがあるんだが……片方の手は使えなくなるし、もう片方で見通しの水晶を持っていると本がめくれない。一枚だけで頑張れと? うーん、こいつを片眼鏡みたいにできないものか? そういうのってどっかで売ってるのかな。鍛治師とかに頼めば作ってもらえるのか。で、どれどれ……


「ハァ?」


 おっと、思わず声に出ちまった。けど仕方ねえわ。駄目じゃん、これ。

 黒塗り全然透けてねえの。嘘だろ。めっちゃ期待してここまでテンションアゲアゲできてたんですけど。こんなショボい結末ってありなのか?

 けっこう高かったのに、元の世界のハッスル本の十倍以上の価格なくせに質の悪い紙で、枚数だって10枚程度なんだぞ。最悪だよ。騙されたよ。あいつら、グルで俺をハメやがったんだ。

 ああ、なんてことだ。なんてひどい話だ。これだからファンタジーは信用できねえ。クソッタレ。どうすんだよ、これ。ハァ、つっかえ……


「って、え?」


 おいおい、ちょっと待てよ。どういうことだ、これ?

 隣の部屋って確かリリムの部屋だったよな。そこをつい今見通しの水晶でたまたま透かして見ちまったんだが……いや、別に壁が透けてリリムのエロい姿が見えるわけじゃないよ? 仮にできてもバレたらすごく気まずいことになるからやらないよ。うん。

 ただな。おかしいんだよ。見通しの水晶を通して隣の部屋に見える金色の光はリリムのものなのは分かってる。天使族ってのは綺麗な金色だからな。ああ、それはおかしくない。問題なのはさ。重なってる感じで青紫の光もそこにあるんだよ。しかも俺の部屋と配置が同じなら位置からしてベッドの上だ。

 ということはだ。あの女、まさか男を……連れ込んでるのか?

1.デリバリーサービスで男を連れ込んだ。

2.デリバリーサービスで女を連れ込んだ。

3.窓から忍び込んだ魔族に「その苦悶の表情は実にそそるな天使のお嬢さん。おっと叫び声を上げようと誰にも聞こえないぞ。この部屋にはすでに遮音結界を張ってある。分かるか? お前は誰にも気付かれずに私にいたぶられながら苦しみ抜き、無残な最後を迎えることになるのだ。くくく、いいぞ。その絶望に満ちた顔。とはいえ、ひとり寂しくというのは辛かろうから、隣の男もすぐに同じ場所に送ってやるがな。何、礼などいらんよ。こちらとしても楽しく遊ばせてもらっている。ははは、まったく楽な仕事だ。神託者とはいえ、所詮はただの人間。警戒するまでもなかったか。さぁて、貴様らの亡骸を見た勇者がどんな顔をするのか今から見ものだな。ふはははは」なんてことを言われながら軽く首を絞められている。


のどれか。

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