045 涙の理由
「……怒られた。超怒られたよ」
「当然です。一緒にいた私も怒られちゃったじゃないですか。タカシ様はバカですか。バカですよね。神殿内でXLサイズの魔導器を出すとかバカだからやっちゃうんですよね?」
バカバカうるせえ。同胞相手に恥かいたからって根に持ってるなこいつ。
というかサイズの表記なんてあったんだな。今まで特に大きさでどうこうってのなかったから気付かなかったよ。いや、ビビった。
カードの絵を見ただけだとただの盾だったんだけど、神竜の盾って実物は3メートルちょいはあったのな。マジででっけえの。
祭壇の間もそれなりに広かったけど、高さは3メートルなかったから天井とぶつかって若干崩れちゃってリリムと同族の天使の神官さんが慌ててやってきたんだよ。そんでメッチャ怒られた。試すなら外でしてくれってすっごく怒られたよ。天使族ってみんな性格きついよね。翼も猛禽類だしな。肉食系なんだろうな。ビッチさんか。無理だわ。苦手。コワッ。
「……ハァ」
「タカシ様が小さく見えますね。そんなに叱られたこと堪えました?」
「うるせぇ」
別に堪えてねえよ。ちょっと、十代の女の子に正論でマジ怒りされてシュンってなっただけだよ。俺二十二歳だから辛くもねえし泣いてもいねえよ。俺は大人なんだ。
「あ、あの……本当にちょっと泣いてませんか。その、大丈夫ですかタカシ様?」
「泣いてない。ともかく、これでローエンって人に見せるアイテムは手に入ったわけだろ。あとは聖王都でこいつを出してアルゴの件を話すだけなんだよな?」
「そうですね。けれどもせっかく手に入れた神竜の盾ですが、あれほどの大きさだと実用性は薄そうですかね。多分アレって人間用じゃなく名前通りに神竜様が使う盾なんじゃないですか?」
「あーうん。やっぱり、リリムもそう思うか」
そうなんだよな。サイズからしてアルゴが持っている方がしっくり来る。ゴッドレアである剛力の腕輪持ちのマキシムなら扱えるかもしれないが、人間が装備できる大きさじゃない。それに盾にはジェムスロットもふたつ空いてたんだけど、サイズが大き過ぎてハメられるジェムもないし、セットするには専用のジェムが必要っぽいんだよ。多分ドラゴン用のジェムとかあるんだろう。となると、どっかで手に入れる手段とかもあるのかもしれないな。
「まあ、あのサイズじゃ俺が使うことはできないな。突き立てて壁にするぐらいなら可能かもしれないけど……いや、けど一応使うアテはある……か?」
「え、どうやってですか?」
いやさ。ちょっと閃いたんだけど、俺が喚び出せる召喚兵ボルトスカルポーン。あいつは同種の召喚体に比べて戦闘力自体は低いんだけど、大量の雷を吸収することで別の姿にプロモーションできる特殊能力持ちだったわけだ。で、プロモーションできるのは召喚騎士ボルトスカルナイトと召喚女王ボルトスカルクィーンだけじゃなくて、召喚重装甲兵ボルトスカルルークと召喚僧兵ボルトスカルビショップにも可能なんだよ。そんで俺が注目したのはボルトスカルルークだ。
「ほら、あのボルトスカルルークならサイズ的にいけると思うんだよ。あいつの身長って神竜の盾と同じくらいだっただろ?」
俺の言葉にリリムもなるほどと頷いた。
以前に試しに出してみた感じだと、振り回すのは無理でも支える程度ならいけそうな感じがする。
「ただこいつはデカいし盾から出てる竜頭はアルゴの顔まんまっぽいからな。人目があるときにマキシムに見せるのは厳しいか」
宿で見せようにもさっきみたいに部屋を壊しかねない。横に倒して見せるならいけるか? というか横に倒して呼び出すのってどうやるんだろう? カードを横にしときゃあいいのかな。分かんねえな。
「なあリリム。マキシムにこのカードだけを見せて上手く説明ができると思うか?」
聖王都に向かう途中は大体聖王国関係者が一緒にいるし、聖王都に入ったらなおさらだからな。アルゴの顔をした盾とか持ってるのが知られたら、別にスパイがそばにいようがいまいがナウラの耳にまで伝わる可能性は低くないと思う。面倒ごとを避けるためにも慎重に行動しないとな。
「どうでしょうか。マキシム様は洗礼のときに実際にアルゴ様とお会いしたことがおありでしょうからお顔は分かると思います。ただ門を管理しているナウラ様とも会ったことはあるでしょうし、あの方への信頼も高いはず。全部ぶっちゃけてマキシム様に丸投げしちゃった方が気は楽なんですが……実直な方ですから私たちを信じてくれてもナウラ様へ直問答しにいきかねません。正直なところマキシム様へ伝えるべきかは慎重に考えたほうがいいかもしれませんね」
むぅ、そうだな。現状上手くいっている状態で、無闇にバレそうな行動は取れねえか。正直、マキシムとリリム以外は誰が信用できて、できないのかが俺にはさっぱり分からんしな。宗教関係者なんてみんな怪しいようにしか見えないのは偏見だろうか? いや、これはここまでの実体験を基にした経験則からだからな。ん? 実体験? 俺は何を言って……言って……テテテテテテテテ……
「タカシ様。タカシ様、ちょっと」
「お、おう。どうした?」
「どうしたって、今ちょっとおかしかったですけど大丈夫ですか?」
おかしかった? よく分からないな。そんなことよりもマキシムにあの馬鹿でかい盾をどう見せるかを考えないといかんだろ。いや、そもそも説明するべきかも難しいところだったか。どうするかねぇ。
「ん?」
あれ、なんか通りの先から騒がしい連中が近付いてくるのが見える。
「なんだ、ありゃ?」
「あれは聖騎士様方でしょうか。けれどもボロボロですね」
そうだな。やってきたのは泥と血にまみれた騎士たちだ。
白銀の鎧を纏っていて、見た目は如何にも聖騎士って感じだけど。ただ、今は装甲も泥まみれでボロボロになってる。荷馬車にも動けなさそうなくらい怪我してるのが何人か横にされてるし酷い有様だ。
「どいてくれ、重傷者がいるんだ」
「畜生、アダン。死ぬんじゃねえぞ」
なんだかかなりやられてるみたいだな。あのまま病院直行か。
しかし、こんな平和そうなところでも、危険ってのはあるんだな。
「なあリリム。聖騎士って確かさっきも口にしてたと思うけど、なんなんだ?」
「はい。聖騎士様は聖王国の騎士の中でも最上位の方々です。サンダリアでも夫にしたい職業ナンバー2に選ばれていました」
「へぇ、ちなみに一番は?」
「勇者様ですね」
あ、まあそうだろうね。まあマキシムは無理だけどな。物理的な意味で。
「ともかく、闇の神の軍勢や魔王討伐でも一線で活躍することを目的に生まれた騎士団が聖騎士団です。この聖王国の剣とも言われています」
「けど、その剣が随分とやられてたみたいだぞ?」
もう通り過ぎたが、ありゃ完全に負けて帰ってきたって感じだったろ。
町の人たちも何事かって顔してるし、結構な異常事態っぽいけど。
「そうなんですが、妙ですね」
「妙?」
「はい。こんな聖王都の近くで聖騎士様方が敵わぬ相手と遭遇するなんて普通に考えてあり得ません。造魔の霧で生まれた魔物はもちろん、野生の魔物もいませんし、野盗などもおりません。まあいたとしても相手にもならないはずですが……一体あの方たちは何と戦ったのでしょうね?」
そうリリムが口にはしたものの、その場で何か分かるわけでもないからな。
その後は俺たちもそのまま宿に戻ったんだが、マキシムはおらず、魔物の討伐に出かけたとの言伝を受け取った付き添いの神官さんがいただけだった。
なるほど。そうなるとマキシムはさっきの聖騎士たちをノシたヤツを倒すために駆り出されたってことなのかね。




