043 神代より古き者たち
転移門の遺跡を出た俺たちを乗せた馬車はガチャリウム聖王国内を順調に進んでいく。
それで、海は見えないけどこのガチャリウム聖王国って大きな島にあるらしいんだよな。普通にサンダリアから旅してここまで来るには海を渡る必要もあるらしいし一ヶ月や二ヶ月は普通にかかるとかリリムが言っていた。それが転移門で一発なんだから便利だよなぁ。
まあ知らない場所に飛ばされたり、半日出現に遅延することもあるみたいだけど。
「綺麗なところだな、リリム」
「そうですね。聖王都に向かう途中のこの道は、聖者の通り道と呼ばれています。聖王都に辿り着くまでに心が洗われ、みな聖者になるのだと言われていますよ」
「え、俺も聖者に?」
「ハッ」
あ、鼻で笑われた。
「まあ、サンダリアに比べるとちょっと寒いのが難点だけどね」
マキシムがそう口にして笑う。いやお前、それよりもリリムの顔を……あ、普通に戻ってる。なんでもありませんよって顔してる。
「タカシ様。かつて、ここは神代よりも昔に世界を創造したイシュタリア文明の名残がある地だったのですよ」
「文明が世界を創った? 神様が世界を創ったんじゃなく?」
「そりゃあ、そうですよ。ガチャ様がた神々は世界と共にイシュタリア文明の叡智によって産み出されたと聞いています。実際にガチャ様から神託でうかがった方もいますので間違いはないでしょう」
へぇ、神様もその文明が作ったってのか。なんか変わった神話だな。
俺の世界ならそんな話塗り替えて神様が創ったってことにしちゃいそうだけど、こっちは神様本人がいるからな。直接聞いた話ならそうだろうと納得するしかない……のか?
「聖王国は元々、この地にガチャ様のお力を強く宿していることを見出した施神教の修験者たちの聖地であったと聞いています。ねえマキシム様?」
「そうだね。サンティアはその頃はまだこちら側にあったそうだけど。聖地が聖王国になったのはかつて起きた神話大戦の頃なんだってね。闇の神に対抗するための力を結集し、結果としてこの国が生まれた。そして聖王国の方針はその頃から変わっていないから、僕たちはこうして聖王都に向かってるわけだ」
ふーん。国に歴史ありだな。しかし闇の神と戦うための国ねぇ。
「なあ……よく分からないんだけど、闇の神と戦うのはいいけどさ。ええと、国同士の争いとかってのはないのか?」
「え? タカシもおかしなことを言うんだね。ガチャ様の信仰に逆らおうなんて不届き者がいるわけないじゃないか。アハハ」
「そうですよタカシ様。ジャカン王国の末路を知っていればそんなこと考える国なんてあるわけないですよ。ふふふ」
ごめん。そのジャカン王国って知らない。ふたり笑ってるけど、絶対笑えない終わり方してそう。うん、まあいいや。忘れよう。
「まあ、闇の神に汚染されたロガリア魔帝国に関しては別ですが」
「ん、魔帝国って確かアル……って!?」
いて。リリムがいきなり頭を叩いてきた。
なんだよって…あああ、そうだった。アルゴのことは秘密だったわ。うう、リリムが睨んできてる。ちょっと油断して口走ろうとしただけやん。
「アルって?」
「いや、なんでもない。それよりもマキシム、イシュタリア文明ってのは結局どうなったんだよ? 神様を創ったような連中なんだろ」
「彼らは遠い昔にいなくなったと聞いているよ。神々の時代の前の話だから記録もほとんど残っていないけどね」
「はい。元いた故郷を捨ててこの世界を創り上げた先人様方は、彼らの主神たる大神様という偉大なる神との契約を果たしたことで自由となられたそうです。そして彼らは星船によって天の原へと向かったとも、事象の地平なる世界の壁を越えた先で真なる世界を生み出したとも言われています。ガチャ様は彼らの大神様を模した姿をしていて、眷属としての側面も持つそうですよ」
神様ねえ。あのガチャの神様や黒ロリとかが同じ姿なのは大元がいるからってことか。神々の時代ってのもよく分からんし神話大戦とか色々あんのな。まあ、歴史の授業はいいや。どうせ昔の話だ。俺にゃあ関係ねえ。
はぁ、なんか話してたら眠くなってきちゃったな。ええと、それで魔帝国ってのは一体……
「あの、タカシ様着きましたよ」
「ん、あれ。うぉ、町ん中じゃん」
なんだよ。家が並んでやがる。ビックリさせやがって。
あれ? なんで俺……いや、そうか。馬車の中でいつの間にか寝てたみたいだ。となるとここは聖王都より少し前にあるカルタゴの町ってところか。
「なんか眠ってたみたいだな。うん? ヨダレは出てなかったか」
「あ、僕が拭いておいたよ」
マキシム、ニッコリと言うな。お前は俺の母ちゃんか。つか、距離が近い。それにリリムがまたあらーって顔してるだろ。ホント、お前は俺の世話焼き過ぎだから。
「タカシ。今日はこの町で一泊する予定になっているけど、君たちはこれからどうするんだい?」
どうするって、どうしよう? そう思った俺にリリムが声をかけてきた。
「タカシ様。神殿に向かいませんか?」
神殿? ああ、そうか。確定ガチャがあったな。金ねえし、ワイバーンの核石二個は今の騒動の決着がつくまでは足がつくかもしれないから換金もお預けだけどな。それに神殿ならマキシムにも一緒に来てもらってアルゴの件を話し
「神殿かい。そうかい、分かった。それじゃあ一旦分かれようか」
……たかったんだけど。なんだよ、マキシムは一緒に来ないのか?
「町の中なら安全だし、僕はこれからここの町長に会う用事があってね。多分、堅苦しい話をすることになるから付き合わせるのも申し訳ないと思って」
町長か。ああ、会いたくないな。町長って聞くだけで飛び蹴りを食らわせたくなる。世の中の町長がみんな不幸な目にあって泣きながら俺に謝ればいいのに。
「そりゃあいいけどさ。会う必要って何しに行くんだ?」
「まあ、挨拶だよ」
挨拶? 勇者っていちいち町に来たら顔を見せないといけないのか。
「タカシ様。勇者様はガチャ様の使徒ですから、町にやって来たのに町長を無視をするとなるといらぬ誤解を招くこともあるんですよ」
「ふーん、大変だな。勇者様のしがらみってヤツもさ。けどカッコ仮とはいえ神託者とかいうのになった俺は挨拶せんでもいいのか?」
「一応君の件はまだ伏せられているからね。一部の者にしか知らされていないからそもそも町長にも君の立場は話せない。対外的には臨時の僕の仲間という形になっているんだよ」
そうだったのか。まあ、お偉いさんと話さないで済むんならそれでいいけどさ。それよりもこっちとしてはアルゴの武器を見せて説明したかったんだが仕方ないな。ひとまずは確定ガチャをして、後で見せて説明すりゃあいいか。宿でなら人目もないし大丈夫だろう。
「分かったよ。じゃあマキシム、あとで宿で会おうぜ」
「そうだね。それとリリムさん、神殿に行くのはいいけど君がしっかりとタカシの面倒を見ておいてくれよ」
「分かっています」
「頼んだよ。放っておくとタカシはいつか身を滅ぼしそうだからね」
「はい。ガチャ様の契約で私はこの方から離れられませんし、自分のことだと思って頑張ります。ハァ」
そこ、ため息をつくな。マキシムも念を押し過ぎだぞ。
まったく、失礼なやつらだ。大体だな。もう金ねえんだよ。そこの勇者様にも借金してるしさ。ん、借金? そういや、こっちの世界の借金ってどうなんだ? しないけどさ。けど、ここぞというときのために調べておいた方がいいかもしれないな。




