041 神の恩寵
「なんですって!?」
リリムが悲鳴のような声を上げたが……ふむ、四大司祭? まあ、普通に考えれば聖王国の偉い人だよな。つまりどういうことだ、これ?
『事の重大さが分かるだろう小娘。俺はハメられた。この霊峰に閉じ込められたんだ。首謀者はナウラ・バスタルト。聖王国に四人いる大司祭のひとりだ』
「ええと、誰?」
「聖王国を治めているのが教皇様で、四大司祭様方はその補佐をしていらっしゃいます。常識ですから覚えておいてくださいね」
なるほど。常識か。あまり構ってはいられないという感じのリリムの投げやりな言葉がナイーブな俺の心に刺さるが理解はした。
しかし、国で二番目に偉い連中のひとりに裏切られたとかチンドラも人望がないな。いや、この場合は竜望っていうのかな。
『この幻想界は俺の管理する神域だが、世話自体は聖王国に任せていたんだ。霊峰サンティアは姐御、施しの神そのものと通じている隔絶した世界。簡単に言えばここは位相がズレているもうひとつの聖王都だ』
「ええ、承知しております。だからこそ聖王都は霊峰に準じた神聖なる力に満ちているのだとうかがっておりますから」
ふたりとも納得済みという感じで会話をしているけど、言っていることはさっぱり分からない。まあ、取りあえずは黙って聞いておくか。質問しても嫌な顔されそうだしな。
『そういうことだ。いわばここと聖王都は表裏一体。その上に入り口は聖王都だけなのだから、本来護りもあっち持ちだろうに。それをナウラのクソ雌は闇の神の悪竜なんぞを呼び入れて入り口を塞ぎやがった! こりゃ俺への裏切りで、姉御への裏切りで、聖王国への裏切りだ。弁解の余地もねえほどのな』
うわあ、卵から湯気でてる。このままゆで卵になりそうだぞアイツ。
しかし聖王国の四大司祭ってさ。俺、確かそいつらに神託を届けに行くんだよな。なんかドンドンきな臭い状態になってるのな。
『どうだ。クソッタレな状況だってのは理解したか人間ども?』
「ああ、まあな。けどさ。ここ神域なんだろ? だったら、ガチャの神様に助けとか呼べねえのかよ?」
『無理だ』
うーん、即答か。ここは神様と通じてるってついさっき言ってたのにな。
『いいか神竜モドキの人間。姉御……っつーか、神ってのは基本、現世に直接干渉はしねえ』
「は? なんでだよ?」
『神々が直にやり合ったらその場が消し飛んじまうし、自重しねえと世界がブッ壊れる。だから干渉するにしてもルールってヤツが存在してる。少なくともデミディーヴァクラスの権能が発動しない限りは姉御が動くことはねえよ。ま、動いたとしても能動的にやるのは神託程度だろうが』
マジかよ。神様全然頼りにならねぇ……って、イテテテ。頭が急に痛んで。もしかしてこれってまた神罰だ!?
『ふむ、頼りにならぬとは聞き捨てならぬな。妾の力はガチャという形で渡してあろうが』
「ガチャ?」
なんか、声が……いててて。これって神様の声か。マジかよ。
「タカシ様、ガチャ様は常に我らと共におります。忘れましたか? このカードこそはガチャ様との契約の証。神の代行として力を行使することが許された我らはその意志を継いで動かねばなりません。我らの行動こそがガチャ様の御意志ということなのですよ」
「いで、く……分かったよ。神様万歳。お、痛みが晴れた。万歳万歳」
「タカシ様?」
くそ……リリムが変な顔して見てるが確かに神様、そばにいるよ。俺のこめかみグリグリしてたよ。
しかし、あの程度ディスっただけでも神罰って下るのか。現世に直接干渉しないってメチャ嘘臭いんだが。
まあ、ともかく協力してもらうのは無理か。それで今のも神託だよな、一応。後でメモっとこう。
「大丈夫だ。神の恩恵を授かってただけだ。それでこれからどうすんだよ。今の話からするとアルゴ、アンタはここから逃げられねえんだろ?」
『まあな。この卵の大きさならなんとかはなるが、俺がここを離れればこの神域は闇の神の領域に染められる。そうなれば姐御はこことの繋がりを切るだろうし聖王都も終わる。ヤツらの狙いはそれだ』
「それは……最悪ですね。そんなことになればこの地は深淵に堕ちます。聖王都は魔都と化し、聖王国は聖なる加護を失い崩壊していくでしょう。最悪、第二の魔帝国が生まれてしまうかもしれません」
どうやら想像以上に大事のようだな。大事過ぎて俺にはよく分からないが。
『そうだ。だから俺はここから出れない。しかしお前たちなら緊急脱出用の転移門から外に出ることは可能だ。そいつは人間にも知られていない結界の中にあるからな。ナウラも知らねえはずだ』
「それって……俺たちが通って来た転移門のことか?」
『ああ、そうだ』
つまり目の前にある遺跡の転移門だよな。
やっぱり、あそこから戻ることはできるのか。逃げるのに元来た道を戻って来ただけだったが、運良くそれで正解だったみたいだ。ただ……
『今から俺が門を開く方法を教える。それとだ。お前たちに頼みたいことがある。対応次第では世界が終わるかもしれんから心して聞けよ。特にお前だ。神竜モドキの人間!』
やっぱりそれで終わりじゃあないよなぁ。まあ、どう考えてもヤバい状況だし頼みを聞くしかないんだろう。けど、ちょっと待って欲しい。
「なあアルゴ。話は分かったし、状況も理解できた。ただ俺はひとつ聞いておかないといけないことがある」
『なんだ?』
卵が少しだけ震えて聞いてきたが、まあ大したことじゃないよ。当然といえば当然のことを聞きたいだけなのさ俺は。つまり……
「依頼を受けるからには報酬はもらえるんだろうな?」
これにて幻想侵食編終了。
次回からは魔属襲来編。不在だったコメディさんも戻ってくるとは思いますが、書き溜めを出し切りましたので次回更新は少しばかりお時間いただきます。現在2/3ぐらい完成してるので来週か再来週には再開する予定です。




