037 銀竜の声
「タカシ様。後ろにいるのおそらくワイバーンです。それもあんな数……襲われたらひとたまりもありませんよ」
ああ、そうだな。三十か四十か……もしかするともっといるか。銀のドラゴンは一匹だけどあの黒い翼竜ワイバーンはやたら数がいる。それによく見れば銀のドラゴンとワイバーン、ありゃあ仲間じゃないな。どうも銀のドラゴンをワイバーンの群れが追いかけてるみたいだ。この付近にいるドラゴンの縄張り争いってところか? つまり俺たち関係ない?
「なあリリム。ワイバーンって、ドラゴンの劣化版的なヤツって認識で合ってるか?」
「ええ、そうですね。下級竜の一種です。銀の方は……神々しい気配がある気がしますが、まさかアレって」
ワイバーンはどうやら俺の認識と相違ないみたいだ。で、銀のドラゴンだが確かに銀色に虹色の光がわずかに輝いてる。いかにも神聖なって感じのヤツだ。
「俺の右腕と似てるな」
銀色なところと、若干虹色に輝いているところが近いな。
となるとどういうことだ? 確かこの腕は神竜ってぇのと。おっと、通り過ぎたぞ。やっぱりこっちは関係なかったか。このまま何事もなく終わってくれれば……
「いけません、タカシ様。何匹かこっちに気付きましたよ」
マジかよ。ちゃんと追いかけっこしてろよ。こっち構うなっての。
けど、駄目だな。完全に捉えられてる。数は二匹、Uターンする気配もねえしやるしかないか。だったら、こっちにも考えがあるぜ。
「なあ、リリム。お前さ。せっかく新しく手に入れた武神の法衣を装備してるんだし、いっちょどうだ?」
「どうだ……とは?」
鈍いな。お前に活躍の場を提供してやろうっていう俺の心遣いに気付かないのか?
「ほら、武器の扱いも上手くなったんだろ。そいつを着てればさ」
「ええ、おかげさまで竜水の槍がそれなりに上手くは扱えるようになりましたが」
「もしかすると今、その成果を試すチャンスじゃねえ?」
「無理です。死にますよ」
即答だった。
「駄目か?」
「駄目です」
駄目か。根性のないヤツだ。
「なんですか、その顔は!? 火は吐かないけど、でかいし、硬いんですよ。飛んでるし。突っ込んだって刺す前に槍ごと啄まれて死んじゃいますって」
「ああ、そうかい。じゃあまず一匹めを仕留めるからいつものヤツ頼む」
「うう、毎度毎度難易度が高すぎるんですよ。もう少し簡単な相手がいいです」
それは俺が言いたい。実際いちいちヤバいのと遭遇し過ぎだろ。このワイバーンだってドラゴンの中では雑魚でも俺らには本来ボス級の相手っぽいしな。
「じゃあ行きますよ。アーツ・ドラゴニックコメット!」
そして、リリムが投擲した槍が水竜になって直進する。
「当たってください!」
リリムが声をあげ、そのまま水竜がワイバーンの肩に突き刺さった。
クケェエエエエエ
よし。頭は外れたが、刺さったなら問題ない。
「怒ってますよタカシ様」
「分かってる。行くぞライテー!」
『うん。タカシ、やる!』
俺の掛け声に雷霆の十字神弓とともにライテーが出てきた。
さあて、とっととまずは一匹目を倒しますか。
「喰らえ! アーツ・サンダーレイン!」
『ラーイ!』
俺が射った雷の矢が空中で拡散し、いつもの金雲を生み出して行く。
『落ちろ』
そしてライテーが手を振り下ろしたのと同時に大量の雷が金雲より降り注ぎ、ワイバーンに刺さった竜水の槍に集中していく。
ギギャアアアアアアア
おし、落下する間もなく黒い霧になって消えていく。相変わらずすごい威力だな。けど、二匹目のワイバーンはまったく恐れずに近付いてきているか。当然リリムは……
「ハァ、ハァ。あ、もう限界です。無理ですよ。二度めは」
ですよね。タカシ、分かってた。
「だったら出てこい。爆裂の神矢」
まあ俺も以前とは違う。この神弓のスロットにセットしてあるサモンジェムに魔力を注ぎ込めば召喚矢を喚び寄せられる。そら、出てきた。
そんで、こいつで二匹目も落としてやる! おらよ、命中!
「当たりました。けど、死んでません」
チッ、浅いか。だったら神矢の二本目も喰らえ!
「あ、ワイバーンが墜ちています。けど、まだ倒しきれませんよ」
分かってる。落下したワイバーンはそのまま地面をゴロゴロと転がっているが黒い霧にはなってない。こっちの攻撃は効いているはずだけど、曲がりなりにもアレもドラゴンってことか。嫌になる硬さだな。けど、こっちにもまだ手はある。
「行けボルトスカルナイト!」
そうだ。俺を守る騎士ボルトスカルナイトはすでに召喚済みだ。ナイトは俺の指示に従って馬を走らせ、騎乗槍で突撃してワイバーンの腹部を突き刺し、同時に雷のダメージも与えていく。さすが雷属性の召喚騎士。同型の中では攻撃力はピカイチって話だし強いな。
ギャァアアアア
そして、ワイバーンが悲鳴をあげながら黒い霧になって消えていった。
「これで二匹目と」
「三匹目は……来ませんね。けど、不味いですタカシ様。あの銀色のドラゴンがまたUターンをして、こちらに戻って来ています」
「おいおい、冗談じゃねえぞ」
ワイバーン二匹だけでこっちの手札のほとんどは使い切っちまったんだぞ。
爆裂の神矢は召喚して出したものだし、爆発させたってことは自壊させたってことで、しばらく再召喚もできない。
トライアローならまだ何度か出せるがあの数相手じゃ決め手に欠けるし、リリムは相変わらず二発目のアーツをすぐには出せない。それにこんな不確かな状況下であとで動けなくなる神の薬草も使うのも避けたい。畜生、どうする? いや、どうするもこうするもないな。
「リリム、ともかく隠れるぞ。巻き込まれたらたまらん」
「はい、分かりました。さっさと隠れましょう」
『クッソォォオオオ』
ん、なんか声が聞こえたぞ?
『仲間が来たんじゃねえのかよぉ』
また聞こえたぞ。どこからだ?
『せっかく呼びかけに応えたと思ったのにどこに隠れてやがる。どうなってんだ。返事しろやクソがぁああ!!』
しかも、なんだか柄の悪そうな声だな。お近付きにはなりたくないが……しかし、この声の出元ってもしかして。
「あのぉタカシ様、その右腕から声が聞こえません?」
「ああ、やっぱりそう思うか」
そうなんだよ。この声、右の竜腕から響いてきてるんだよ。ええと、なんだろこれ。もしかしてこっちの声も届いたりするのか?
「ハローもしもし。聞こえますかー?」
『ああん。テメエ。ようやく返事をしたか。今どこにいやがる?』
ああ、やべえ。マジで繋がった。
『その声、若えな。テメエよぉ。せっかく呼んでやったのに先輩竜の呼びかけに応えねえってのはどういうことだ? 舐めてんのか? ああん?』
んー、タチ悪そう。関わり合いにはならないほうがいいタイプの相手だ。仕方ないな。
「あ、すみません。お電話番号間違ってますよ。人違いだと思いますので切りますね」
『切るなぁああ! あ、そこか!』
バレた。つか、この声の主。多分あの銀のドラゴンだわ。目が合っちった。ヤバ!?
『つかお前、人間じゃねえかよ。なんでだぁ!?』
知らねえよ。俺が聞きてえよ。いや、それよりもこっち来るなよ。マジで。




