035 黄金の旅立ち
リリムに渡した聖貨200枚と同じ分の金貨400枚分をマキシムが貸してくれた。金額が同じということは、つまりこれは実質的にはリリムの借金になるのではないだろうか。そう俺がリリムに言いかけたところ、露骨に塵を見るような顔をされたので撤回した。男に二言はないが、言い終わらなかったのならセーフのはずだ。
「タカシ。あまり、ああいうのは感心しないよ。例え、引きが悪かったとしてもね。物事には引き際ってヤツが肝心なんだ。本当にもう止めておくれよ」
「ああ、そうだな。あのときの俺はどうかしてたよ」
そして俺は今宿屋の前でマキシムに説教されていた。
ガチャを終えた翌日、俺たちは早速神託を届けにガチャリウム聖王国に向かうことになったんだよ。で、リリムが馬車を呼んでくると言って神殿に行ってしまい、マキシムと二人になった途端にこれだ。
お金を貸してくれた手前、俺も強くは出れないし、こいつが言ってることは至極当然のことであり、俺は実際どうにかしていたんだろうというのも分かっている。
だがなマキシム。多分、同じ状況が起きたら俺はまた同じことを繰り返してしまうんだと思う。可能性を感じたのなら何度だってやってしまう。それが俺という人間なんだ。人として壊れているのかもしれないが、そういう俺を俺は嫌いになれない……なんてことを口にしたら、グーで殴られた。痛かった。
「まったく、もう。君は本当に僕がいないとダメなんだな」
そうかなぁ。むしろお前が甘やかした分、俺は取り返しがつかない方向に進んでいるのかもしれないぜ?
「それにさ。あの土下座姿は僕の時と同じだったんだよ。流石の僕でも他の人に同じことをしてる君の姿を見てるのは……やっぱりちょっと辛い」
「む、そりゃあ……確かに悪かったな」
俺、お前にアレをカマしたのか。そうか。うん、酒に酔った勢いとはいえ我ながらどうかしていた。というか、それで流されちゃったこいつのチョロさが怖いわ。そういうとこ、しっかりしないとテキトーに遊ばれた上に金とか毟り取られそうだな。
「分かったよマキシム。今回だけだ。お前の忠告はちゃんと聞いておく」
「本当に? 是非そう願うよ。あと金貨400枚は借金なんだから。そちらも忘れないでね」
「お、おう。それよりもマキシム、お前も神罰の牙を手に入れたんだったよな」
「うん。君とお揃いだよね」
そう言ってマキシムが笑う。まあピックアップ対象アイテムだからな。むしろ、リリムのスペルジェムがおかしかったんだろう。あいつのあのときの神引きはかなりやばかった。
「良い引きだったよ。これならあのデミディーヴァにも一応ダメージを与えられるし、狭い場所での戦闘にも使えるからね。まあデミディーヴァ相手というなら今の神巨人の水晶剣でも傷をつけられるはずだからそのときはそっちを使うとは思うけど。で、君はそれを常時つけることにしたのかい?」
マキシムが俺の右腕を見て尋ねる。
今の俺の右腕には銀色をしたウルトラレアのガントレット『神罰の牙』が装着されている。出てきた防具は大抵フリーサイズで使用者に合わせて伸び縮みするからゴツゴツになった今の右腕でもしっかり馴染んでるし、重さもほとんど感じない。
「まあな。ちょうどいいっちゃあいいしな。中身はホレこれだし」
そんで俺が神罰の牙を外すと、中から虹色の光沢を帯びた銀鱗で覆われた竜腕が出てきた。いやあ、元々この竜腕は見た目も結構ごつかったんだけど、今じゃあ銀色になった上に虹色の光が帯びて常時キラキラしてるんだよ。正直派手過ぎ。
「便利な腕ではあるんだけど、ちょっと目立ち過ぎだしな。カモフラージュ代わりにも丁度いいだろ?」
まあ目立ちはするけど魔力を注げばパワーが増すのは変わっていないし、神聖属性がついたみたいなんだよな。ようするにデミディーヴァとか闇の勢力には有効だってことだ。あと身体が動くようになったら杭っぽいものもちゃんと出るようになったんだよ。勢いよく出過ぎてちょっと怖いぐらいだけど。
「神官長の話じゃこれって神竜に属する可能性があるって話だったっけ。そもそも神竜ってのがなんだか知らないんだけど」
「神竜は神獣のなかでも最上位に位置する存在だよ」
首を傾げる俺にマキシムがそう説明してくれた。
「へぇ。随分とたいそうなドラゴンだな。強いのか?」
「うん。神聖属性のドラゴンだから当然強いし、知性も高いよ。それ以上にガチャ様の御使いだからね。施神教においてはもっとも敬われている神獣なんだ」
へぇ。俺の右腕はそんなのに似てるってことか。随分と成長したもんだな。んー成長って言っていいのか、これは?
「ただ、かつて何度となく行われた闇の神との戦争によって個体数も随分と減ってしまったし、ほとんど増えてもいないそうだよ。あ、リリムさんと馬車が来たみたいだね」
本当だ。馬車が近付いてきたか。で、馬車の中からはリリムが上半身を出して手を振っている。ようやくか。待ちくたびれたぜ。
「タカシ様、マキシム様。お待たせいたしました」
そういや、リリムはマキシムを名前で呼ぶようになったんだな。
まあ、これから俺はガチャリウム聖王国とかいうところに行かないといけないみたいだし、マキシムはその護衛として一緒に来るらしいし、多少は人間関係の距離を縮めておかないとやり辛いものな。
で、一緒にやってきた御者席にいる神官さんはガッチリ緊張していた。何しろ勇者様ご一行な上に世界の危機の神託を運ぶわけだ。そりゃあプレッシャーも大きいだろうよ。
それとやってきた馬車だけど、乗ってみた感じかなり上等な造りだわ。座り心地も良いし、ほとんど揺れないのはさすがだっていうべきか。お、外に以前俺に声をかけたなんとかいうクランの奴らがいるな。ははは、呆気に取られた顔してる。
何しろ俺は勇者様とご一緒だ。そして俺自身もまだ隠されてはいるが神を殺した英雄様だ。だから悪いな。お前らのクランに入ることはないんだ。もともと入る気もなかったが。
そんなわけでここからが俺のビクトリーロード、希望に満ちた勝ち組人生の門出だ。つまりは俺の時代が来たってことだ!
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なんてな。そんなことを思っていた時期もありました。
「あのぉ。タカシ様……ここ、どこでしょう?」
「さあ?」
今は学都を発ってから三日後。そんで、俺はリリムと共に山々に囲まれた見知らぬ森の中にある謎の遺跡にいた。
なんでそんなことになってるかって?
さあな。俺が聞きたいよ。




