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033 嘆きの記憶は光に消えて

 ぉぉぉおおおお、死ぬかと思った。

 エゲツない。宗教エゲツない。施神教ってのは常時あんなのを用意してるのか。

 人としてアレはない。大体、回復魔術と拷問の組み合わせなんて最悪だろう。

 特にあの神官長。丁寧な口調であんなことをしながら質問してくるのがすごく怖い。酷すぎる。この人、絶対マトモじゃない。サイコパスだよ。こんなの絶対おかしいよ。人間として……人間として……あんなの


「あの……タカシ様?」

「ヒッ」


 止めて。もう広がらないから。広がらないから。あんな洋梨みたいな器具を……俺の中にっ 俺の中にっ ヤダ。もう痛いのは嫌なの。帰りたいよ。あの頃に帰りたいよぉぉおお!


「ああ、泣き叫んでます。タカシ様、しっかりしてください。うう、無理ですね。さすがにこれではタカシ様もかわいそうです。神官長様、例のアレで。タカシ様の頭をアレしてください。早く!」

「やはり、そうですか。ガチャ様に導かれた方であれば耐えられるのではとも期待したのですが……では仕方ありませんか。リリムさん、押さえておいてください。記憶を改竄するような精神干渉系はあまり使いたくはないのですが、ではキオクナクナーレ!」


 む? むむ? おや、なんだか頭が急にすっきりした? こう、嫌な何かがスッと消えたような。


「タカシ様、大丈夫ですか?」

「大丈夫かって? いや、別に。あ、神託の記録ってのはもう終わったのか?」


 気がつくと俺は神官長と対面していた部屋にいた。神託の記録をとるとか言ってどこかに連れ出されたような気もしたが、頭もスッキリしてるし、多分魔術的なもので記憶を引き出してくれたみたいだな。今は気分爽快だ。あれ、神官長さんがなんかすっごく申し訳なさそうな顔してるし、リリムが涙を浮かべている。


「タカシ様、本当に申し訳ございませんでした。けれども、あれも必要なことだったのです。私は……私は……」

「私ももう少し穏やかにと……止めるべきでした。本当に……」

「え? いや、ふたりとも、そんなかしこまらなくても。だって、これで俺、その分の報酬ももらえるじゃん。気分もスッキリして、お金もらえるんならラッキーってだけだしさ」


 俺はとりあえず元気アピールをしてみる。

 実際身体には傷ひとつないしな。ほら、さっきまであんなに◼︎ ◼︎ ◼︎だったから……だ……だだだ……

 ん? 変な妄想が頭に浮かんだぞ。もしかすると実際には少し疲れてるのかも?


「ガチャ様。おぉぉおお、世界を救うためとはいえ、私は、私はなんということを!?」


 なんか俺を見て神官長が号泣してる。まあ、魔術で頭を覗くってのは人としてはあまり褒められるようなことじゃないし、恐らくは良心の呵責に悩まされてるんだろう。ところで俺の目からもダバダバ涙が出てくるのはなんでですか? やっぱり疲れてるんですか?


「と、ともかく、記録はとりました。全ての準備は完了です」

「ご苦労様です。神官長様」


 うーむ、マキシムも俺と神官長を交互に気遣わしげに見てるな。


「勇者マキシム。それでは神託を記録したこの封書をあなたに。これと彼を聖王都まで必ず送り届けてください。これは勇者としての責務です。この方が受けた試練を無駄にせぬためにも……どうか」

「はい。必ずや成し遂げてみせましょう」


 なんだろう。そのやり取りがすごく大袈裟なんじゃないかと思う反面、何かが引っかかる。まあ、よく考えれば世界の危機のことが書かれてるわけだからなぁ。それぐらい慎重にはならざるを得ないってことかな。

 ともあれ俺は軽く流してたんだけど、そもそも神様との会話ってのはさりげなくヤバイ内容が入ってることがあるんで一言一句漏らさず記録しておくのが普通なんだそうだ。リリムも自分の神託は記録してるって言ってたしな。

 まあ、記録は大事ってことだ。俺も次に神様と会ったらちゃんとメモっとこう。なんでだか分からないけど、心の底からそう思う。絶対にそうしなければならないという使命感が湧き上がってくる。

 それで俺の今後の予定だけど、このまま聖王国というところに向かうことで決定しているようだ。

 俺と神様の会話は正しく記録されたけど、認定には本人の立会いも必要だそうで、それが終わると俺は神託者という称号を得るんだと。

 神託者ってのは世界に対する重要な神託を受けた者を意味するらしい。正式に認定されると限定ガチャがやれるってことだからいかざるを得ないし、断る理由もないから俺も快く引き受けさせてもらった。

 ただ、今の俺にはそれよりも重要なイベントがあるんだよなぁ。

 何しろデミディーヴァを倒したことで発生した神器限定のガチャが俺を待っているんだ。一回聖貨5枚の高レートガチャ。それに俺はいよいよ挑む!




  **********




「ここを使ってくだされ」


 神官長がそう言いながら扉を開けて、俺たちをその部屋の中へと案内してくれた。そこは神殿の中でも王族などが使用する特別なガチャの祭壇だ。装飾が綺麗なだけで特に何が変わってるわけでもないらしいんだけど……まあ、なんだか優遇してくれたんだよ。いい人だな神官長。


「でだ。ようやくだな。待ちに待ったぜ」


 俺はポキポキと拳を鳴らしながら目の前の祭壇を睨みつける。

 今回の件で手に入れた金貨は合計2882枚。

 報酬はマキシムと半々で1441枚。そんでリリムの取り分である144枚引いて1297枚。それから神託の記録に協力としてさらにプラス100枚。ついでに初ダンジョンだから聖貨10枚も手に入って、合計で実質1417枚だ。つまりは約2800万円。そして俺の手には換金した施しの聖貨がなんと700枚。ふふふふふふ、ヤバイっしょ?


「今回は全力で挑んでやる。で、リリム。お前はどうする?」

「そうですねえ。私は仕送りもありますのであまりお金は使えないのですが」

「え、そうなのか?」


 仕送りをしてるなんて初めて聞いたな。そういや、渡した金をどうしてるのかは聞いたことがなかった。プライベートのことだし、しっかりはしてるヤツだから貯めてるのかとも思ってたんだけど。


「ええ、そもそも私が神官になったのもお金のためでしたし。天使族は神官適性が高いですからね。まあ、身体を男に売るか神様に売るかって言われても神様に売ることにしたってところですよ」


 なんか、いきなりハードなこと言われたんだが。そんなに実家がヤバイのか?

 異世界だけど連帯責任ってあるのかね。一族郎党なんて言葉もあるし、現代よりもそういうの厳しいのかもしれないな。まあ、それ以上は言いたくなさそうだから聞かないけどさ。


「けれども今回に関しては金貨100枚を投入することを考えてます。このガチャにはそうするだけの価値があると思います」


 ガッツポーズか。自信満々という顔だな。

 私もここまでやるんですよという強い意志を感じる。

 金貨100枚。まあ確かに普通に考えれば大金だ。リリムの気が大きくなるのも仕方がない……が、100枚か。そうなると聖貨50枚。つまり十連だ。未来に夢を抱くリリムには気の毒だが、期待できるような結果を出すには正直心許ないと言わざるを得ない。残念ながらガチャエリートの俺からすると十連というのは前菜オードブルにもならないんだ。言ってみれば出玉を確かめる地ならしのための必要コスト……的な。微課金勢としては大船に乗ったつもりだろうが、泥船の中で絶望に染まった顔を見せながら海中に沈むであろう未来のリリムの姿が俺には幻視できている。かわいそう。

 なら、仕方ないか。


「そうか、じゃあお前に聖貨200枚やる」


 俺は吐き出すようにそう言った。痛い出費だ。本当に痛い。

 しかし、正直に言ってこいつはこのままだとマズイと思う俺がいる。前回のダンジョン探索でモロにそれが出ていた。こいつの実力不足は今となっては結構深刻だ。となれば……で、なんでリリム、お前はそんな驚愕って顔をしてるんだ?


「ど、どういうことですかタカシ様。もしかしてやっぱり頭おかしくなっちゃったんですか?」

「は?」


 え? なんで俺失礼なこと言われてるの?


「マキシム様、タカシ様が、タカシ様が」

「ま、待ってリリム。大丈夫……じゃないのかもしれないが」


 おい、マキシム。お前もか。神官長が何事かって顔してるだろ。べっつに俺だってボランティアでやってるわけじゃあねえんだよ。


「あのなぁ。いいかリリム、よく聞け。お前、前回の自分の状況を考えてみろ。槍もまともに使えないし、ひとりだけ終始役立たずだったのをもう忘れたのか?」

「うう、そうですけどぉ。でもそれは今後の訓練次第でどうにかなるかもしれませんしぃ」


 ああ、お前の言わんとしていることは分かる。今まで争いとは無縁の生活だったんだし今のお前に力がないのは仕方がないことだ。それに、これから努力すれば実力も身についていくかもしれない。

 だけどな。俺はお前の修行編を待つ気はないし、神様印の雇用契約のおかげで解雇もできない。だから俺も涙を飲んで、こうするしかないと決めたんだよ。


「リリム、そんなことではこれから先のインフレバトルには勝てない」

「いんふればとる?」

「そうだ。今後お前は戦闘のたびにアーツ一回飛ばすだけのオプションで終わるつもりなのか? お前の価値は今それだけだって自覚はちゃんとあるのか?」

「……うう」


 言い返せまい。しかしな。このままいくとこいつはきっと俺の後ろについて荷物持ちをしてるだけの隠キャになる。のちに俺の元に集うかもしれない強力なパーティメンバーにコンプレックスを抱きながら、日々役立たずの烙印を押されながら、最終的には世を儚んで悲しい結末を迎えるかもしれない。朝方に物言わぬ天使のてるてるボーズを目撃した俺がガックリ膝から落ちる姿が見えるんだ。

 ああ、あのときリリムに聖貨200枚渡しておけばこんなことには……とさめざめと泣いている俺がいるんだよ。それは駄目だ。

 こいつは性格に微妙に難があるが、それでも俺は雇用主としてこいつに責任を持たなきゃいけない。だからこれは投資だ。何、神様との契約があるから勝手にいなくなることもないわけだしな。だったら未来を期待して俺はこいつに金を賭ける。


「ともかくこいつはお前にやる。今後お前には戦力としてレベルアップしてもらわにゃ困るんだ。そいつでさっさと強くなれリリム」

「わ、分かりましたタカシ様。ありがたく頂戴します」


 うん、分かったか。ならばいい。

 じゃあ俺はそろそろやるとするかな。手持ちの聖貨は500枚。ようするに百連。とても高いガチャだが、けれども確率だけで言えばウルトラレアは一枚出る計算だ。だったら俺の実力からすれば行けるか? いや、愚問だったな。

 それじゃあ神器限定ガチャ、早速挑戦させてもらおうか!

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