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032 滅びの神託を告げし者

「偽神、デミディーヴァとはいえ街の中心で闇の神の降臨など本来あってはならぬこと。申し訳ありませんが、この件はこちらの準備が整うまでしばらくは伏せさせていただきたく」


 マキシムが目覚めたことで学都オーリンの神殿の神官長からの呼び出しがあった。今回の件の説明や報酬などの話だと聞いていたのだが、神殿の神官長室に案内されて出会った早々に言われた言葉がそれだった。


「神核石がない以上は仕方ありませんね。無用の騒ぎを起こすわけにもいきませんし」


 マキシムも物わかり良さげに頷いて、リリムも納得している顔だった。んー、いきなり伏せろとか言われてもよく分からないんだが。報酬とかなしって話か? だったら暴れるが?


「つまり、どういうこと?」

「とりあえずは黙っておくということです。タカシ様」

「なんで?」


 意味分かりませんねぇ。とりあえずあの神官長さんに飛び蹴りかましていいのかな? 行くよ? 飛ぶからね、俺。


「タカシ、少し落ち着いて。助走のために下がろうとしないで。このサンダリア王国ではデミディーヴァの出現なんてここ二百年は記録されていないんだ。何の証拠もなしに討伐しましたといっても早々に受け入れられるものじゃない」


 なるほど。超レアケースな上に証拠もなしだから……と。


「でも、倒したよな? 神託もあって助けにきたんだよな? もしかして神の核石を俺が破壊したのはまずかったのか?」

「いえ。それはまこと偉業といっても良いことでして、だからこそ事実を事実と受け取れぬ者も多く、慎重にことを当たらねばならぬのです。神託についても実のところデミディーヴァについては聞かされておらず、勇者様をお助けにというだけで……申し訳ありませぬが、今しばらくは耐えて頂けませぬか?」


 そう言って神官長が思いっきり頭下げてきたんだが。うーん、分からん。


「タカシ。本来であれば、神核石は封印するものなんだ。破壊するには神の力、つまりはゴッドレアのアイテムと相殺する形を取る必要がある。僕がやるとなれば、この剛力の腕輪を失うことになるんだ」


 もったいねえ。けど、そうか。神の力で相殺するってことはそういうことか。俺は復活するゴッドレアのアイテム持ちだから可能だっただけで。


「大抵はゴッドレアを所有していて現役を引退した方々に高額の報酬を払って対処してもらうんだ。もしくは厳重に封印をしておくのだけれども。それを君はゴッドレアのアイテムを失うことなく成し遂げた。それは本来誇っていい偉業ではあるのだけれどね」


 そこまで言ってからマキシムが神官長を見る。なんだ、神官長少し下がってるな? 悪いけど俺の飛び蹴りの範囲内だぜ、そこ?


「その通りです。現在進行形で、我々の方で調査をおこなっております。すでに大学院のダンジョンは閉鎖し、調査隊を送り込んで確認作業中です。その上でサンダリア王国と聖王国との間での調整を設け、状況の確認ができた時点で公表させていただくこととなりましょう」

「うん。仕方ないとはいえ、随分と時間がかかりそうな話だね」


 マキシムがやれやれという顔をしているが、待ってくれ。となると……


「なあ、それじゃあ報酬はどうなんだよ?」

「そちらはご用意しております」


 神官長がそう口にした。おお、良かった。神官長への飛び蹴りは中止だな。話が分かる人で良かった。正直、名誉とかどうでもいいんだよ。金だ。まずは金が欲しい。


「すでにダンジョン内で手に入れた核石を換金して金貨八十二枚はいただいてあります、タカシ様」


 ダンジョン内だと核石が小さくて、換金しても確か普通の魔物の半分しかないんだっけか。けど、それでこれだけあるのか。ブルドケルベロスも三体倒したしな。


「それから今回のダンジョンの依頼ですが、聖符によって闇の神の力を鎮めることはできませんでしたが、それ以上の成果をあげたため成功報酬を二百枚から六百枚に増額するとのことです」


 マジか。凄え。待てよ。マキシムとは分けるわけだから半分?

 それでも相当だぞ。で、それからリリムに続いて神官長が口を開いた。


「さらに今回の偽神討伐では金貨二千枚。この事態を未だ口にできぬこと故に私の判断でさらに二百枚の金貨を贈ることといたします」

「お、多くねえ?」


 それってつまり、全部でいくらだ?

 家とか普通に買えるよな。いや、そりゃああっちの世界の感覚だから、こっちの世界だと豪邸とかいけないか? どうなの?

 けど、マキシムは少し不満顔だな。足りねえのか? 勇者様的にははした金なのか?


「うーん、デミディーヴァ相手と考えるとどうかな。実際に被害が多く出た場合にはさらに跳ね上がるよ。けれども、今回はまだ被害が出る前だったからこの程度だった。いや、勇者としては人々の被害が出る前に倒せたことは喜ばしいけれど」

「そうですな。今回の件は王国にも報告を上げ、追加の報酬についても掛けあわせていただきます。ただ……」

「分かってる。今回だけどあるんだよね」


 マキシムの問いに神官長が頷いた。何の話だ?


「はい、デミディーヴァを倒したマキシム様方には神器限定ガチャの権利が与えられます。限定ガチャは発動条件が満ちてからおおよそ一ヶ月以内には発動させねば消滅しますし、王国の判断を待っていては間に合いません」


 消滅とかあるんだ。というか神器限定ガチャって何それ?

 俺が首を傾げると、マキシムが「タカシ」と真剣な顔を見せた。


「これは1回聖貨5枚の最高レートの限定ガチャだ」

「は? 1回5枚?」


 つまりは1回二十万円じゃねえか。高っ!?


「高額だと思うだろうね。けれど、これは全力で回した方がいい」

「なんだよ。中身に期待できるってことか?」


 俺の問いにマキシムが頷く。


「君の持つ雷霆の『神』弓や僕の『神』巨人の石剣などの神の力を強く受けたアイテムが手に入るガチャだ。まあ、神巨人の石剣は器のみであって力自体は宿ってなかったんだけど……」


 そう言ってマキシムがカードを取り出した。描かれているのは神巨人の石剣……ではなく、水晶剣だ。あの時、変異ミューテーションしてたんだよな。レア度もウルトラレアに上がって、かなり強力になってるらしい。まあデカいからやっぱり使える場所は限られるんだけどさ。


「今のこれにはあの時ほどではないにせよ、神の力が宿っている。君のおかげだタカシ」

「俺っていうかあの薬草の力だけどな」


 そういえば、リリムの槍も同じだったよなぁ。


「神器限定ガチャで、この神巨人の水晶剣も重ねられるかもしれないし。元々三枚重ねられてるから、もう一枚重ねれば完全なるウルトラレアになる」

「そうなのか? けど、神器に限定されるだけで重ねるのは難しいんじゃないのか?」


 ピックアップも傾向はあるにせよランダムらしいしなあ。


「ガチャは実際に持っているカードに寄るからね。僕は腕輪が出ることが多いけど、君も覚えはないかい?」

「ああ、薬草がな。よく出るよ」


 本当に出るんだよな。辛いんだよ、マジで。


「偏るのって本当だったんですねえ」

「そうなんだよリリムさん。高レア所持者で、それも数をこなしてようやく分かるものだから、あまり信じられてはいないんだけど」


 やっぱりそうなのか。今後も薬草が出るのは確定か。テンション下がるわ。


「ともかく、君も今後は闇の勢力の目も付けられる可能性が高い。僕は元からそうだけど、君も身を守る術は多く手に入れた方がいい」


 そうなんだ。そういえばあの上級竜にも目を付けられてるんだったよな。その上に闇の神とかに目をつけられたわけだ。詰んでるな。


「ひどい状態だな。それにデミディーヴァ、あれが世界の危機ってヤツなんだろ」

「世界の危機? うん? まあ、そういう類の相手ではあるけど」


 そりゃあ、あんなのが大量に出たらそれこそ世界が終わるよな。


「あのガチャの神様が人類が全滅するかもしれないって言ってたのも分かるわ。まったく、とんでもないのと遭遇したもんだな」


「は?」「え?」


 ん? なんだよ、マキシムもリリムも鳩が豆鉄砲食らったような顔してさ。あれ、神官長さんも狼狽えてるぞ。どうしたの? あれ?


「あの……マキシム様。今ガチャの神様とか人類が全滅とか、この方おっしゃったような?」

「ええ、ゴッドレア持ちですから、お会いしたことはあるのでしょうが……」


 なんだよ神官長にマキシムも。うん。あの神様とは雲の上でふたりっきりで話した仲だぜ。嘘じゃないよ? ん、なんだよ。リリム、お前も顔が怖いぞ。一応顔は悪くないってのがお前の数少ないアイデンティティのひとつなんだからそれはやばいぞ。


「その、あのタカシ様、ガチャ様はなんとおっしゃっていたので?」


 内容? いや、結構忘れちゃってるけどな。確か……


「ええと、混沌ケイオスの海が闇の神クラなんとかの力と混ざり合って造魔の霧を生み出し続けてるとか」

「ええ、それは分かってます。次」


 次ってなぁ?


「で、ヤツは現在活性化していて、世界の危機を産み出し続けていて……その、確か人類全滅もあり得るし、世界を始源よりやり直させねばならんーみたいなこと言ってたけど」

「し、始源……」

「そこまで……ガチャ様がそこまで言うたということは」


 あ、神官長が膝からガックリ落ちたな。目が虚ろだ。レイプ目ってヤツだな。俺は詳しいんだ。あら、リリムも似た感じで。え、俺の腕をがっしり掴んだよ。


「タカシ様、なんで今まで黙ってたんですか!?」

「なんでって、こっちの世界じゃ常識じゃないの? それにガチャの神様、俺の気にすることじゃないとか言ってたしさぁ」

「ああ、この常識知らずの大馬鹿はことの重要性を理解していない」


 リリム。前にも思ったけど仮にも雇い主に大暴言だぞ、お前。


「勇者様。このバ……タカシ様をどうにかしないと」

「うん、そうだね。神官長。お願いできるかな?」


 ちょっと待てマキシム。お前もなんか変だぞ?


「ええ。すぐに神託書記官と審問官を呼びましょう。彼の記憶が薄れる前に正確に記録しないと」


 なんだ? 神官長が変な鈴を取り出して鳴らした。何も聞こえないがなんなんだアレは?


「ああ、そうだ。これは聖王国にも報告に行かないと不味いでしょうね」

「はい。そうですね。護衛は僕が行いましょう」


 だからさ。何? どうしたの? 慌ただしいぞ? 落ち着けよお前ら。説明を、説明を求むぞ、これ。


「タカシ様。覚悟してくださいね」

「正確に思い出してタカシ。世界の危機って言われたんだね?」


 うん、そうね。そう言ってたよ。頷く俺に神官長が神妙に頷いた。


「分かりました。正しく思い出すまできっちりばっちりお話伺います」


 は? お前何を言って……って、おう? バタンとドアがいきなり開かれた!? しかも目の部分に穴が空いた麻袋かぶった上半身ムッキムキの裸でビキニパンツ穿いてる変態がふたり入ってきた!? やべえぞ、ふたりとも。逃げないと! 意味分かんねえんだけど!?


「その方です。丁重にお招きして」


 え? どういうこと?


「神託を受けし者です。殺してはなりませんよ。あくまで聞き出すだけ」


 え? ええ?


「多少、強引にいきますので痛みもあるでしょうが。私自ら回復をおこないますので死ぬことはないでしょう。安心してください。ええ、全力で保たせます!」


 ちょっと待ってくれ。両脇をがっしり掴まれたぞ。安心の要素ゼロ。なあ、リリム、マキシム。助け……


「大丈夫だよタカシ。君ならやれる。僕は信じてる」

「タカシ様、神の試練です。ファイトッ」


 クソッタレ。駄目だこいつら。信者どもめ。ああ、引きずられて……た、たす……け……

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